この情報はどこから?

第3回 
Facebook、google、Twitterを舞台にサイバー戦争?

スパイ映画ではなく、現実にあった情報操作



 今年(2017年)9月、Facebookのある重大な発表は、世界を驚かせました。

 ご存知の通り、Facebookは世界最大のSNSです。よく利用している人たち(アクティブユーザーといいます)が、世界で20億人いるとされ、日本国内でも2800万人が使っているとされます。そんな大規模なSNSを舞台に、組織的な情報操作が行われたことがわかったというのです。しかも、その発信元がロシアであり、201611月のアメリカ大統領選でトランプ氏の当選に関与するのが目的だったとしたら?

 途端にスパイ映画めいてきましたが、まぎれもない現実であり、アメリカでは現在、「ロシアゲート疑惑」と呼ばれる大きな政治的な問題にまで発展しています。

 これまで、2016年のアメリカ大統領選でフェイクニュースが人々に影響を与えてきたという話をしてきましたが、その舞台の一つであるFacebookは、フェイクニュースが蔓延していたにもかかわらず、放置したため投票結果に影響を与えていた、と批判を受けていました。

 

 Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOは当初、この批判を「クレイジーだ」と一蹴し、フェイクニュースの拡散は小さく、投票結果を左右するものではなかったと反論しています。

 

 しかし、Facebookを取り巻く情勢は2016年末頃から大きく変わりました。トランプ政権が正式に誕生する直前、アメリカの情報機関はロシアがサイバー攻撃によって大統領選に関与したことを報告書で正式に認めました。私たちがここで注目したいのは、そのサイバー攻撃でどのようなことが行われていたのか、です。

不正な政治広告や工作動画がアップされていた

 Facebook9月に発表したのは、このロシアゲート疑惑につながる調査結果でした。20156月から20175月の2年にわたり、約10万ドル(約1100万円相当)の政治広告が、ロシアのものとみられる470ものフェイクアカウントやFacebookページに購入されていたというのです。その数は3000件とされました。

 

 これらの政治広告は直接的にトランプ氏への支持を訴えるものというより、LGBT(性的マイノリティ)や人種、移民の問題、銃の所持などのメッセージ広告で、大統領選を前にアメリカ国民の間で意見の対立を煽る目的だったとみられています。Facebookはこれらの政治広告は、サイバー工作を行うロシアの「トロール工場」によるものとみて、米連邦捜査局(FBI)に情報を提供して、捜査に協力していると報じられました。

 

 

「トロール」とは一体、何者なのでしょうか?


 ネットスラングで、掲示板やSNSで虚偽や不快な投稿といった、「荒らし」や「釣り」をする人のことを示します。かねてより、ロシア・サンクトペテルブルクには「トロール工場」と呼ばれる工作組織が存在すると報じられてきました。そこでは、24時間365日、大勢の人たちがSNSに書き込みをしたり、ブログを書いたり、あるいは、フェイクニュースのサイトを作ったりしているといいます。Facebookの政治広告でも、彼らの暗躍があったとみられているのです。

 

 

Facebookだけではありません。googleでも、YouTubeで工作動画が多数アップされていたり、Facebookと同様の不正な政治広告が掲載されていた可能性があるというニュースが流れました。



 また、Twitterも大統領選への関与が指摘されているロシアのメディア「ロシア・トゥデー」と「スプートニク」からの広告を禁止すると発表しました。これらのサイトは、トランプ氏に有利なフェイクニュースを流していたとアメリカ当局に結論づけられています。

 世界的に知られるFacebookgoogleTwitterがそれぞれ、何らかの形でロシアからのサイバー工作を受けていたことになりました。アメリカの民主主義に関わる大事件であることは、アメリカ人でなくてもわかります。

 事態を重く見たアメリカの上院下院の情報委員会は1031日、3社の法律顧問を呼んで、公聴会を開きました。その様子は多数のメディアが報じていますが、いずれも、なぜ未然にロシアの干渉を防げなかったのか、今後の防止策を徹底できるのかなど、厳しい追及が行われました。


 Facebookは公聴会で、2年にわたってアメリカ人約12600万人が閲覧した可能性があることを明らかにしました。これは、アメリカ国民の4割近い人数になり、当初予想されていた影響力より、かなり深刻です。

 ネットメディアWIRED2日目に行われた公聴会の詳細なリポートを掲載しています。それによると、情報委員会委員長で、ロシアゲート疑惑について調査している共和党のリチャード・バー上院議員が、インターネット・リサーチ・エージェンシー(IRA)と名乗るロシアの工作組織が、Facebookで行った二つの投稿を取り上げました。

 

 

 1本は、「Heart of Texas」というフェイクページがシェアしたテキサスのイスラム化に反対する抗議運動のイベント、もう1本は、「United Muslims of America」というフェイクページがアップロードした親イスラムのイベント。これら二つの団体が同じ場所、同じ日時に集会を開くという虚偽の情報を流し、結果的に本当にヒューストンでは衝突が起きたといいます。

瞬時に世界中に拡散されてしまう怖ろしさ

 公聴会では、ある議員はロシアによる干渉を「サイバー戦争」と発言していました。虚偽を含んだ情報を流したり、操作したりすることは、歴史上でもよくあったことだと思います。しかし、FacebookgoogleTwitterといった強大なSNSやプラットフォームの登場が、情報を世界規模で瞬時に拡散することを可能にしました。その影響力は、古くからのメディアを凌駕しているでしょう。

 少し乱暴な表現になるかもしれませんが、一見、似ているSNSやプラットフォームと、メディアの「違い」は、そこに掲載され、流通しているコンテンツに対する「態度」にあるように思えます。前者は基本的にネットユーザー自身が表現したり、発信したり、交流したりできる場です。良くも悪くも自由であり、運営する会社は規約をそれぞれ設けてはいますが、問題がないと判断されればどんな情報でも掲載されます。


 片や、メディアには基本的に「編集」という工程があり、情報をそのまま掲載することはあまりありません。プロの編集者や記者が情報を取捨選択し、読みやすいように加工して、一方的に発信します。さらに、メディアは歴史が古い分、批判にさらされてきた経緯もあり、自主規制が働くことが多いのも特徴です。

 スマホの画面やPCのディスプレーでは、フラットに同質に見えるかもしれませんが、情報の「届けられ方」にかなり違いがあります。どちらが「良い」「悪い」ということではなく、違いを知っていることが大事だと考えています。Facebookやメディアに掲載されている情報の発信元に注意することで(もちろんメディアがFacebookで発信することもあるのでややこしいのですが)、その情報が流された背景がつかめてくるのではないでしょうか。

 

 公聴会では、Facebookなどに対して、プラットフォームとしての責任が追及されたようです。コンテンツの規制も取りざたされています。メディアもこれまで、情報を発信するものとしての責任を問われ続けてきました。プラットフォームも同じように、その責任を問われる時期にきているのかもしれません。


 

この連載をまとめた『その情報はどこから?――ネット時代の情報選別力』 (ちくまプリマー新書)が2019年2月7日に刊行されます。


 

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