安藤桃子×伊藤洋志×pha

後篇「フルサトをつくる」を実践する!

『フルサトをつくる』刊行記念鼎談

後篇です。場所を変えればとにかくなんとかなる、という気がするほっとするトークです。ちくま文庫の『フルサトをつくる――帰れば食うに困らない場所を持つ暮らし方』(伊藤洋志×pha著)の刊行記念。著者お二人と、映画監督の安藤桃子さんとの鼎談です(2018年5月8日)。

●移住してもいいし、行くだけでもいい

安藤 「自分はめっちゃ引きこもりだし、いきなり知らない人とコミュニケーションを取るのは無理だ」という人がすごく多いと思うけど、若い子と話すと、私はグイグイいくから、とっつかまえてガーッと揺さぶって無理やりこじ開ける(笑)。でも、アパートの部屋でネット環境だけで、ほんとはコンビニで人と話すのも避けたい、心の中ではもう人生を終えてしまおうかみたいなところにいく若者がめっちゃ多いじゃないですか。そういう人たちに言いたいのが、人間の本質って、人である限り全員持ち合わせていることで、ゲームばかりやってる、ずっとDSを離さない子どもも、3、4日だけでも自然の中にぶち込むと、最終的にDSに見向きもしないことになる。もっと面白いことが生まれてきちゃうし。そういう人間の本能を知らないから、自分は無理だと言う人が多いのかなと思うけれども、そこは全員に共通して、1回自然の中に身を置いただけで何かが開くんですよね。たぶん、本能がザワザワしだすのか、思ってもみない行動を起こせたりすると思うから、「自分は絶対ないわ」と思っていても、そこで行き詰まっているのなら、最後のチャンスだと思って、どこか田舎にポンと行くというのはアリだと思う。

伊藤 環境を変えてみる。

pha 僕は大阪出身で、京都には住んでいたけど、田舎に住んだことはなくて。でも、都会でたまに閉塞感があってワーッとなったときに、それをどこに持っていけばよいかわからなかったけれど、田舎に行けば楽になるのだと気づきましたね。30過ぎぐらいで。環境が違うだけで、結構自分の状態が変わるし、考えることが変わるのだということに気づいて、これは両方必要だなと。

 その前は、旅行はしていたけれども、ゆっくり滞在できる場所があれば、旅行よりも幸福感があるような気がして、フルサト的なものがあるといいと思いますね。住んでいるところと、別のフルサト的なところと、旅行。グラデーション的にいろいろあって選べるといいと思いますね。

伊藤 住む場所を大胆に変えることができる可能性があるのだというのに繋がるかもしれない。

pha 行こうと思えば移住もできるし、しなくてもよいし。

伊藤 ずっとここで住まなきゃいけないとは、誰も言っていないのに、そのように思い込んでしまう癖はあるかもしれないですね。

 

●お遍路で救われる

安藤 遍路とか、すごいですよね。四国はそれがあるからオープンなんですよね。「泊めて」と言ったら、いきなり来ても結構泊まれちゃう。

伊藤 そういうのは、やはり長い習慣になっているところはあると思いますね。ああいう仕組みを考えた空海先生は、いち早く都会化した京都と、中国に行って、ああいうのがあったほうがよいと思ったのかもしれない。なぜあんなことを考えついたのか、すごく気になります。歩くだけでもある種の解毒になるから。それを半強制的に全部回らせるというスタンプラリーを考えた空海は、ほんとにすごい。

安藤 それで、いちいち向き合うからね、自分と。

pha それで救われるという、「死のうかな」と思っていた人が……。

安藤 地元の人たちにとっても、ずっと人に対しての真心を保つシステムにもなっていますよね。苦しいという人が多いから、「どうしたの?」「なんで?」と話を聞く。四国外の人生の様子をそこで聞く。

pha 住んでいる人のためにもなると。すごいな。

安藤 お遍路がある県や、そういう宿のところで育っている子どもたちは、そういう大人のいろいろなものを見て、感じて、人には優しくみたいなことを当たり前にして育っている。

●移住したらそこの氏神へ

安藤 重要だと感じることがもうひとつあります。地方にはそこの土着的な信仰やお祭りが根強くあって、人の文化芸術を辿っていけば、結局そこから始まっている。神様に奉納するとか地元の氏神さんとの関わり合いとかいう大事なことがあるから、それを一緒に大切にすると、ものすごいスピードで地元となじめて愛されるというのは感じます。「引っ越してきたんですけど、まず氏神さんにご挨拶に行きたいです」と言うと純粋に嬉しいですよね。そういう気持ちは、たとえ信仰心がなくても、大家さんがいたら挨拶するという感覚と同じで、なじむ要素としては大事だなと思いますね。自然と関わって暮らしている人が多い所ほど、豊穣祭があったり、自然に振り回されるというか、共存している。

pha 土地の神社を大事にするというのも、その土地を大事にしていることの象徴みたいなものが示されますよね。

伊藤 神様というのは、そういう意味では人をうまく繋げてくれるために設定されている。

安藤 そうそう。それがなくなったのは、実はすごく大きいと思っていて、人が決めきれないことを、「もう最終的にそれで文句なしね!」みたいな。「神様が決めたから、しようがないや」という潔さ(笑)。

伊藤 それがあると楽ですよね。人対人で向き合いすぎると最終決戦までやらざるを得なくなる。

安藤 そう、対立ができちゃう。天気にゆだねるみたいな、大きな目線というか、超俯瞰で常に見るみたいなことがいまはなくて、田舎にはそれがあると思うから、すごくそれがやりやすい。

pha 確かに、人間だけでまとめるとギスギスするからな……。

伊藤 確かに、それがなくなりつつある地方が出てきているのが、いま大変なところなんでしょうね。そこがなくなってしまうと、田舎といえども、事実上の都会化が発生しているから、結構激しい争いが起きていますね。それで苦労することが結構ありますね。

pha 移住したら神社、お祭りを大事にするというのは、ほんとに使える知識だと思います。都会に育つと、そういうのを全然わからない人が多いと思うので。でも、やっておけば、楽に仲良くなりやすい。

安藤 人がどんなにがんばっても、何をしても、敵わないものは絶対必要だと思う。自然の中にいると自分が生かされていると感じることが多いし、それだけで有り難いと思うことがある。酒が美味いでも、メシが美味いでも、感慨深くなる瞬間が結構あって。たぶん、農業はそれが強く感じられると思う。自分が育てて、それが口に入った瞬間、子供は絶対残さないですよ。

 日本人はなんやかんや言っても、葬式は寺でやるし、初詣にも行く。あらがえない、敵わないものを知るという大切さはあると思う。そうすると、何とか生きていこうと思えるし、有り難いと思えるようなことが自然と生まれるから、地元に昔から残ってきている祭事というのは大切だと思いますね。

pha それで心が安定するというのもあるし、人がまとまるというのもあるし、うまくできていますね。

伊藤 こういうのはなければないで生きていけると思って近代化したものの、結局、みんな生きていけなかったので、よくわからない宗教にハマるという。結局ハマるなら、普通に使えるほうがよいんじゃないかという気がしますね。

pha そんなに人間は近代になっていない。

伊藤 無理だった。結局、恐ろしいほどに新興宗教が増えている。宗教化までしなくても、わりと怪しいセミナーは多いですね。飲まれていく人は結構多い。飲まれないようにするという意味でもよいと思います。

●最後に

伊藤 この本を書いたときは、単純に「田舎に住んでみたら面白いのでは」ぐらいだったけれども、きょういろいろ話をしてみて、さまざまな不具合が出ている中で、同じ場所で考え続けてもなかなか難しいだろうなと。場所を変えることで、普段、何とか対処したいと思っていたことが、わりと簡単にできるようになったりということがあるんだなと。 

安藤 悩んでいると、「そんなんで、死にゃあしないわよ」と、おばあちゃんによく言われていました。田舎に行くとより感じられる。田舎の大自然の前だと、ほんとに死ぬときって、一発だなと思うから、いま自分が悲しいとか寂しいとか不安だと思っていることでは死にゃあしない。

pha 僕は、安藤さんの高知の話がすごく面白かったので、場所によって違うんだなと。この本では、都会と地方という二つだけで、特定の場所については書かなかったけど、地方毎に「こんなのがある」みたいな情報がもっと増えたらよいなと思いました。

伊藤 高知でも、同じではないですね。特に山側と海側でだいぶ違いますね。海側だと、わりと海洋要素が高いと思います。

安藤 高知の中でもそのぐらい違うと思いますけど、わかりやすく言うと、アフリカの部族ぐらい日本は市町村レベルで違うと思います。いまは人種がインターナショナルに混じり合っているけど、自分が合うところはきっとあると思うんですね。行った瞬間に結構わかると思う。私は3秒だった。

伊藤 早い(笑)。

安藤 私は脳味噌とハートって、両方考える場所だと思っています。東京に居続けると全体的に頭で考える癖がついてしまう。だけど、まず「ああ、感じた! 超楽しい」って、胸で感じた喜びみたいなのが大事で、そのスイッチが、1回田舎に行くだけで蘇る。そのあと脳味噌で整理し、本当に可能かどうか考えれば迷いが少なくなる。本能のシステムにもう1回スイッチを入れるために、フルサトをつくったり、生活スタイルをつくるというのは結果的に生き残る力が湧く気がします。

                                (2018.5.8)

 

後編は7月30日(月)更新です。

2018年7月30日更新

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伊藤 洋志(いとう ひろし)

伊藤 洋志

1979年生まれ。香川県丸亀市出身。京都大学大学院農学研究科森林科学専攻修士課程修了。仕事づくりレーベル「ナリワイ」代表。会社員を退職後、ライターをしながら2007年より、生活の中から生み出す頭と体が鍛えられる仕事をテーマにナリワイづくりを開始。著書に『ナリワイをつくる——人生を盗まれない働き方』(東京書籍)などがある。

pha(ふぁ)

pha

1978年生まれ。東京都在住。ギークハウスプロジェクト発起人。著書に『ニートの歩き方』『持たない幸福論』『しないことリスト』『ひきこもらない』などがある。近刊は『人生にゆとりを生み出す知の整理術』。

安藤 桃子(あんどう ももこ)

安藤 桃子

1982 年東京生まれ。 高校時代よりイギリスに留学し、ロンドン大学芸術学部を次席で卒業。 その後、ニューヨークで映画作りを学び、助監督を経て2010 年『カケラ』で監督・脚本デビュー。2011 年、初の長編小説『0.5 ミリ』(幻冬舎)を出版。同作を自ら監督、脚本した映画『0.5ミリ』が2014年公開。第39回報知映画賞作品賞、第69回毎日映画コンクール脚本賞、第18回上海国際映画祭最優秀監督賞などその他多数の賞を受賞。2018年6月『ウタモノガタリ-CINEMA FIGHTERS project-短編映画「アエイオウ」公開』。2017年10月高知市内に映画館「ウィークエンドキネマM」を開館。同12月ギャラリー「& Gallery」をオープン。現在は、高知県に移住。一児の母。

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こちらあみ子

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フルサトをつくる (ちくま文庫)

筑摩書房

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