■スクールカーストから脱出するには
斎藤 いわゆるスクールカーストが出てくるのも小学校高学年から中学生くらいですよね。特にオタクは下位カーストになりやすい属性ですし。
カーストというのは僕の考えでは七割がハッピーになるかわりに三割が不幸になるというシステムなんです。上位の10パーセントと中位の60パーセントはおおむね幸せに過ごせますけど、下位の30パーセントは不幸になる。単に自分の問題ではなくシステムの問題なので、下位を割り振られた生徒がサバイバルするのはけっこう難しい。
福嶋 でも、でんぱ組.incなどのアイドルを見ていて思ったのは、オタクだったり暗かったりとかで下位カースト認定されてきた人間が一念発起してがんばるというストーリーはみんな共感するというか、好きですよね。
斎藤 逆転できないことはないんです。ただ、もしかりに逆転できても一度虐げられた恨みというのはけっこう後々まで残るんですよ。高校・大学とがんばっていいところに入っても、俺は中学で虐げられていたという恨みは解消しない。女の子はまた違うのかもしれませんが。
福嶋 男女問わず、そういうところはあるかも。いじめられっ子でひきこもりでオタクだった子たちがアイドルといういわばカースト上位の存在になりあがる、というストーリーを歌にしたときにすごく反響があって、それ以降、「わたしもそうでした」って、元ひきこもりアイドルが一気に増えた。これは嬉しい反面、罪深さも感じました。ひきこもりがアイドルになって社会に出られたことはいいんですけど、そこでまたネットの評判とかで傷ついちゃったり。
とはいえ、ずっとひきこもっているよりは、アイドルとして社会に出れて良かったなとは思うんですが、アイドルという職業が本当にその子に適していたのかという子もいたり、そういう子の気持ちをビジネスに利用する事務所があったりと色々で。
スクールカーストの問題は『友だち幻想』で言えば、どう解消したらいいんでしょうか。気にしない、とか?
斎藤 「並存」ということになるんでしょうけど、カーストはなかなかスルーできないからこそカーストなんですよね。
福嶋 そうなんですよ。ここに書かれている気持ちのよい人間関係ってそのとおりだと思うし、わたしも人にこういう風にしたらいいよってと勧めると思いますけど、カーストは本人の意志だけで一方的に抜けられるものではないですよね。そのときにどうしたらいいの? とは思います。
斎藤 「キャラいじり」がコミュニケーションの作法になってしまっていて、キャラいじりって楽だし相手との距離も保てるし平和なんですよね。もちろんその平和は下位三割の抑圧によって保たれるわけですが。他者を尊重せよ、というのはコミュニケーションのベースとして非常にまっとうだしわかります。でも、キャラというのは他者を消去する装置なので、同じコミュニケーションでも正反対のベクトルになっちゃうんです。
福嶋 クラス全員に同時に配って、今日からはこれで行きましょう! と言えたらいいんですけどね。むしろ、他人との距離がもう少し自由な社会人に有効な本ですよね。
斎藤 社会人には使えますね。中学や高校よりは人間関係が開放的なので。
福嶋 まあ中学生女子とか異常なくらいベタベタしたがるから、この本を読んで少しでも中和したほうがいいというのはありますね。
斎藤 特にカースト上位のギャルたちが読んでくれるといいですけど……読まないだろうなあ(笑)。
2008年の刊行から10年経ってなお注目を集める『友だち幻想』(菅野仁、ちくまプリマー新書)。ひきこもりのエキスパートにしてポップカルチャーにも造詣の深い精神科医・斎藤環さんと、でんぱ組.incやわーすた、虹のコンキスタドールなどの辣腕プロデューサーである福嶋麻衣子さんに、現代の若者や子どもたちの最重要課題と言っていい〈友だち〉〈つながり〉をキーワードに、いまなぜ『友だち幻想』か?をお話しいただきました。