佐藤文香のネオ歳時記

第3回「秘密」「化粧水」【秋】

お待ちかね!(かどうかはわからぬが)「佐藤文香のネオ歳時記」がついにスタート! 「ダークマター」「ビットコイン」「線上降水帯」etc.ぞくぞく新語が現れる現代、俳句にしようとも「これって季語? いつの?」と悩んで夜も眠れぬ諸姉諸兄のためにひとりの俳人がいま立ち上がる!! 佐藤文香が生まれたてほやほや、あるいは新たな意味が付与された言葉たちを作例とともにやさしく歳時記へとガイドします。

【季節・秋 分類・生活(ファッション)】
化粧水

「秋の水」という季語がある。夏とは違い、ひんやりとして澄んだ印象をもたらす水のこと。一年中毎朝晩欠かせない化粧水も、秋になると肌への浸透が気持ちよく実感できる。そして、夏の日差しでダメージを受けた肌をしっかりケアせねば、と思うのも秋である。
 化粧水は佇まいもいい。だいたいの場合、乳液や美容液よりも大きいボトルで、中身が透けて見える。たくさん入っているとリッチな気分になれるし、少し使えば、六割は水でできている私という人間を透かし見ているようにも思える。
 半年前くらいから、わりと高級な化粧水を使っている。それも、拭き取り化粧水と保湿化粧水をダブルで。それまではなかなかこれといったものがなく、ドラッグストアでよさそうなものを選んで試していた。が、去年、アンソロジーを編んだストレスか、今までのツケか、単に年齢か、いきなり肌の老化を感じて、一念発起して前述の化粧水二本と美容液を購入。もともと敏感肌なので、いまだに肌トラブルとたたかってはいるものの、効果が出てきたような気がする。最近は週に一度くらいシートマスクも使うようになった。
 去年結婚した夫は乾燥肌で、しかしとくにケアをするでもなかったので、気が向いたときに私の化粧水やクリームを塗ってあげたりしていたのだが、高級な化粧水に変えてからは、自分の中のケチな気持ちが湧き上がり、夫に塗るのをためらうようになった。そんなとき、化粧品の会社で少しお仕事をさせていただき、お礼としていただいた化粧品のなかに、メンズの化粧水が入っていた。これはナイスタイミングと、夫にあげたところ嬉々として使うようになり、肌荒れもだいぶおさまったようだ。「ほっぺに手あててじわーってするんだよ?」と教えているのだが、なぜか顔をごしごししてしまうのが惜しいところである。てのひらを頬に五秒、今ならきっと、秋らしさを感じられるはず。化粧水は使っていないというみなさんは、この秋からいかがですか。

〈例句〉
眼球を光のまはる化粧水  佐藤文香
星々よ髭を濡らせる化粧水