佐藤文香のネオ歳時記

第6回「パラシュート」「ハロウィン」【秋】

「ダークマター」「ビットコイン」「線上降水帯」etc.ぞくぞく新語が現れる現代、俳句にしようとも「これって季語? いつの?」と悩んで夜も眠れぬ諸姉諸兄のためにひとりの俳人がいま立ち上がる!! 佐藤文香が生まれたてほやほや、あるいは新たな意味が付与された言葉たちを作例とともにやさしく歳時記へとガイドします。

【季節・秋 分類・行事】
ハロウィン
傍題 ハロウィーン 諸聖人の日 ジャック・オー・ランタン トリック・オア・トリート

 ここ数年は句会で毎年ハロウィンの句を見る。歳時記の季語というのは例句ありきで立項されるので、そろそろ角川の大歳時記にも掲載されていいころだろう。
 もともとハロウィンは宗教的な収穫祭で、ケルト人が起源だそうだ。彼らにとって1年の始まりは冬の始まりの11月1日。大晦日にあたる10月31日に、ハロウィンが行われたという。のちに、おばけや魔女に仮装した子供が「トリック・オア・トリート(お菓子をくれなきゃいたずらするぞ)」と家々をまわり、南瓜をくり抜いてランプにするなど、陽気な祭として定着した(南瓜はもともと秋の季語だが、「ジャック・オー・ランタン」はハロウィンの傍題としてみた)。
 欧米ではおなじみのこの祭が日本で盛んになったのは最近である。バレンタインデーをはじめとしたイベントごとの販売戦略に加えて、コスプレの一般化、さらにパーティー文化の定着により、とくに都心において、勢いよく日本文化に仕上がった。麻布十番在住の人の家に入り浸っていたころ、ちょっとお散歩のつもりで六本木を歩いていたら、それがたまたま10月31日で、コスプレの大行列に巻き込まれて帰れなくなり、半泣きになったのを思い出す。その年から「ハロウィンの日には六本木に行かない」と心に決めた。佐藤家家訓である。
 もちろん、娘が南瓜に絵を描いただの、孫にお菓子をあげただのというのもハロウィンに含まれるが、そこから感じられる家族愛的なものは既存の行事でも得られるわけで、ハロウィンを季語とするなら、日本における若者の軽率な空気、いわゆるパリピ(party people)感を本意とするべきである。
 余談だが、私は生協の宅配を利用している。前回、配達員の人に「豪雨災害に遭った地区の柿を頼んだ人全員にハロウィンシール(南瓜をくり抜いたときの黒い目、ぎざぎざの口を模したシール)をプレゼントしています」とおすすめされてたまげた。秋のオレンジ色のものならなんでもハロウィンでいいようだ。こういう雑さも見逃せない祭である。



〈例句〉
障害者用トイレで着替へハロウィーン  佐藤文香
トリック・オア・トリート 光らない昔