佐藤文香のネオ歳時記

第7回「ヒートテック」「ボジョレー・ヌーボー」【冬】

「ダークマター」「ビットコイン」「線上降水帯」etc.ぞくぞく新語が現れる現代、俳句にしようとも「これって季語? いつの?」と悩んで夜も眠れぬ諸姉諸兄のためにひとりの俳人がいま立ち上がる!! 佐藤文香が生まれたてほやほや、あるいは新たな意味が付与された言葉たちを作例とともにやさしく歳時記へとガイドします。

【季節・冬 分類・生活(飲食)】
ボジョレー・ヌーヴォー
傍題 ボージョレー・ヌーボー

 ワイン用の葡萄は、地域によって栽培品種が限定されている。ボジョレーというのはフランスの南東地方、主に栽培されているのは明るい色・ライトな飲み口のガメイ種で、ボジョレー・ヌーヴォーといえばその新酒にあたる、よりフレッシュな味わいのワインのこと。すでに季語としている歳時記もある。ボジョレーと言ったりボージョレと言ったりするが、発音をどう聞くかというだけの話で、どちらでもよい(どんな表記であっても、「ボジョレ・ヌヴォ」と5音程度の長さで読みたい)。11月第3木曜が解禁日なので、水曜夜にワインバーへ行き、0時になり次第飲む、なんてことをするワインファンもいる。イタリアのワインの新酒はノヴェッロと呼ばれ、こちらは10月30日が解禁日。立冬はだいたい11月7日だから、ノヴェッロを季語にするなら晩秋、ボジョレー・ヌーヴォーは初冬と分かれる。なお、日本酒の新酒は現在寒造りがほとんどだが、かつての名残で秋の季語です。
 親に仕送りをもらって高円寺に住んでいた20代後半、同じく高円寺に住んでいた中学・高校時代の同級生で美食家のごーくんに頼んで、美味しいフレンチなどに連れて行ってもらった。そのなかで、私より1歳上の店主なっちゃんのワインバーが気に入って、ひとりでも行くようになった。なっちゃんは、何も知らないながらそれぞれのワインに独自の感想を言う私に愛想よく付き合ってくれ、私はなっちゃんが買い物に行っているあいだの店番をしたりして、あっという間に常連気取りに。歴代の彼氏や親を連れて行き、果ては結婚パーティーの二次会までやらせてもらった(その日貸切だと知らなかったごーくんがたまたま店を訪れ、一緒に飲んだのもいい思い出)。ボジョレー・ヌーヴォーを初めてちゃんと味わい、美味しいと思ったのもなっちゃんの店だ。だから、11月終わりになっちゃんの店で飲むのが、私にとってのボジョレー・ヌーヴォーである。個人的には、あまり酸味が強すぎない、薔薇っぽい香りのものが好きだ。
 ワインはあまりわからないけど、赤なら濃ければ濃いほどいい、ボジョレーは薄くて好きじゃないというタイプの人は、ちょっといいワインとされるピノ・ノワール(フランスだとブルゴーニュ地方で栽培される葡萄なので「ブルゴーニュ」とも呼ばれる)も好きじゃないと思うのでご参考までに。

〈例句〉
ボジョレ・ヌーボーちがうこと思ってるのね  池田澄子『拝復』(ふらんす堂)
ビルの絵に街と書き添へボジョレー・ヌーヴォー  佐藤文香
ボジョレー・ヌーヴォー花柄のスクリューキャップ