佐藤文香のネオ歳時記

第15回「確定申告」「ドローン」【春】

「ダークマター」「ビットコイン」「線上降水帯」etc.ぞくぞく新語が現れる現代、俳句にしようとも「これって季語? いつの?」と悩んで夜も眠れぬ諸姉諸兄のためにひとりの俳人がいま立ち上がる!! 佐藤文香が生まれたてほやほや、あるいは新たな意味が付与された言葉たちを作例とともにやさしく歳時記へとガイドします。

【季節・春 分類・生活】
ドローン
傍題 無人航空機 マルチコプター

 先日ヨドバシカメラでふらふら歩いていたら、ドローンが売られていて驚いた。一般人もドローンを飛ばしていい時代が来ていたのか、と。調べてみると、仕事で使う分にはライセンスなどもあるようだが、趣味の場合とくに資格が要るわけではないらしい(200g以上の大きいものを飛ばすとなると、許可を取って航空法を守らなければならないようだ)。という話を俳句友達のRにしたら「ドローンって春っぽいですよね」と言われた。たしかに、春は世界を俯瞰する季節のようにも思える。R曰く、「すでにある季語だと「野遊び」的なイメージじゃないですか?」。「暖かくなってきたし、ちょっと飛ばしとくか」と、春の光のなかへドローンを飛ばすのだろうか。たしかに、「しゃぼん玉」や「凧」なども春の季語で、家の近所でできる気軽な遊びだ。さらにRは「蕪村の〈凧(いかのぼり)きのふの空のありどころ〉、これ上五「ドローンや」でもいけません?」と与謝蕪村に対して挑戦的な発言。なるほど、〈ドローンやきのふの空のありどころ〉、内容的には全然問題ない。ただしけっこう雰囲気は変わります。
 ドローンという言葉、個人的にはすごく好きである。英語では雄蜂という意味だが、非常に日本語っぽいのだ。お化けのシーンなどでよく使われる、姿を消す意味の「どろん」を誰もが思い出す。古くからある和語には濁音で始まる言葉が少なく、たいがいは俗っぽいものや良くないイメージを表すオノマトぺであることが多いのだが、「ろーん」の部分がちょっとかわいいのである。
 余談だが、私の好きなバンドであるかえる目に「ドローン音頭」という曲がある。

  ドローンさんよ ドローンさん
  空を見上げりゃ空にいる
  きっといつかは世の中を
  見渡す星になりたいと
  願うわたしの目玉になって
  飛んでゆくゆく
  ドローンどーろどろ
(かえる目「ドローン音頭」作詞・作曲:細馬宏通より)

ドで始まってドで終わる、しかもそのなかでオンが2度繰り返される(ローン・音)「ドローン音頭」という曲名のよさ、75調をベースとした踊り出したくなるリズム。そして「ドローンどーろどろ」という歌詞が素晴らしく、「ドローン」という言葉を聞くたびにこの歌をくちずさんでしまう。

〈例句〉
ドローンにピザ持たせ全国的に昼  佐藤文香
ドローンの下やどろおんをぢさんゐ
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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