佐藤文香のネオ歳時記

第23回「昼飲み」「夏フェス」【夏】

「ダークマター」「ビットコイン」「線上降水帯」etc.ぞくぞく新語が現れる現代、俳句にしようとも「これって季語? いつの?」と悩んで夜も眠れぬ諸姉諸兄のためにひとりの俳人がいま立ち上がる!! 佐藤文香が生まれたてほやほや、あるいは新たな意味が付与された言葉たちを作例とともにやさしく歳時記へとガイドします。

【季節・夏 分類・行事】
夏フェス

傍題 ロックフェス フジロック ロッキン サマソニ etc.

 生い茂る緑に囲まれてビールを飲みながら、次に聴く予定のステージへ歩いていたら突然の雨。ぺらぺらのレインコートを着て、大好きなミュージシャンの出演を待つ。一曲目が始まる、雲間を割る歓声。雨がやみ、日が差してきた……ここでは音楽を愛する多くの人と、一日の奇跡を共有することができる。
 夏フェスはJ-Rockを中心に、ロック以外のジャンルのグループ、海外のミュージシャンも出演する音楽祭で、正しく言うなら「夏季ロック・フェスティバル」だろうか。傍題に挙げたものも、「フジロックフェスティバル」「ロック・イン・ジャパン・フェスティバル」「サマーソニック」ではあるが、ちょっと長いので略語をネオ季語化させてもらう。俳句では略語を嫌う人もいて、「自販機」などと書こうものなら間髪入れず「自動販売機、ね」と突っ込まれたりするのだが、略語にすることで作者が狙った効果が作品に表れるものはその方がいいと思う。夏フェスに関しては、このうわついた感じこそ季語の本意であるので、堂々と略していこう。なお、ロックフェスは上記以外にもいろいろあるが、あまりマイナーなものだとロックフェスかどうかもわからなくなってしまうので、ネオ季語として使う際はご自身の判断にお任せする。
 現在の暦を俳句の季語の分類に当てはめた場合、フェスのなかで〈夏〉に行われるものは実は少なく、10万人以上の動員があるものだとフジロックくらいだ。多くが立秋(2019年は8月8日)以降に行われており、ロック・イン・ジャパンがちょうど夏と秋にまたがって開催されるような格好。とはいえ、それを言ったら「夏休み」のほとんどは秋にあたるのだから、ここも寛容にいきたい。9月開催のものも夏フェスでいいじゃないか。
 私自身はJ-Rock好きと公言しているにもかかわらず夏フェスには一度も足を運んだことがない。頻尿で人ごみが苦手、特にマナーが悪い人や泥酔の可能性がある人が極度に苦手だというのもあるが、これまで誘ってくれるような彼氏や友人がいなかったということの方が大きいかもしれない。最近友達になった夏フェス行く系のSさんは、「ラブシャとか京都音博、りんご音楽祭あたりはゆったりしているので文香さんも良さそうです、社会人になってから行った方が楽しめる側面もありますよ〜!」と教えてくれた。むしろ、60歳くらいになってから、初めて行ってみたい気もする。

〈例句〉
夏フェスの背景として吾も写る  佐藤文香
フジロック 文庫を読んでゐる時間
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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