ちくま新書

アフリカの影を描く

2020年7月刊、吉田敦『アフリカ経済の真実』(ちくま新書)の「はじめに」を公開いたします。資源が豊富で、外国による投資も盛んになり「希望の大陸」とも呼ばれるアフリカ。しかし、そこに暮らす人々の多くが貧しいままです。それはなぜなのか? まずは「はじめに」をお読みください。


†本書の構成
 繰り返しになるが、本書の目的は、国際社会が賞賛するアフリカの経済成長や投資機会といった、いわばアフリカ経済の光の部分を描くことではない。そうではなく、アフリカに依然として残る影の部分を描き出すことを、この本の使命としたい。影の部分とは、アフリカでおこなわれている石油やダイヤモンドの採掘、鉱物資源採掘が、その国にどのような問題をもたらしているのか、その国で暮らす人々がどのような問題や苦悩を抱えて生きているのか。日本をはじめとして我々が暮らす先進諸国とアフリカとのつながりを考えながら、各章ごとに具体的事例を検討し、いまのアフリカで何が起きているのかを考えていきたい。各章の考察事例は次のとおりである。
 第1章では、グローバル経済が進展するもとで、「向こう側」(アフリカ)に住む人々が、「こちら側」(先進国)の人々の欲望にいかに影響を受けているのかを考える。この章は理論的な話が多いため、やや難しく感じられる方は、より具体的にアフリカ各国の政治経済状況を解説している第2章以降から読み進めていただきたい。第2章では、サハラ・サヘル地域という過酷な気象条件のなかで、貧しい資源を分かち合いながら暮らしてきた人々が、なぜ、なんら主権を持つこともできずに国家から排除されたのか、そして他国の傭兵としてしか生きる術をもたなくなり、周辺地域の治安を脅かすほどの暴力的主体へと変貌してしまったのか、ということを考えたい。
 第3章では、インド洋に浮かぶ、多様で豊かな自然環境に恵まれたマダガスカルをとり
あげる。21世紀にこの国で起きた政治的混乱の理由はどこにあったのか、過酷な労働条件のもとで地中深くに眠る宝石を掘りださなければ人々の生活が成り立たないのはなぜか、ということを考察したい。
 第4章では、フランスの植民地支配から、多くの人民の命を犠牲にして独立を獲得したアルジェリアをとりあげる。アルジェリアでは、独立以降60年以上にもわたり、日量160万バーレルもの石油を産出し続けている。それにもかかわらず、なぜ、いまなお町中に失業者が溢れ、政権に対する民衆の憤りが爆発するレベルにまで達してしまったのか。アルジェリアの歴史と人々が耐え忍んできた苦悩を通して考えたい。
 さらに第5章では、アフリカ中南部に位置し、世界有数の資源大国であるコンゴ民主共和国に注目する。世界中の人々を魅了してやまないダイヤモンドや現代の先進技術産業に不可欠なレアメタルを提供し続けているこの国で、豊富な資源をめぐって殺し合いが続いているのはなぜなのか。
 最終章である第6章では、栄養不足と飢えに苦しむ人々が存在する傍らで、他国の家畜の飼料用に大量生産されるトウモロコシの畑について考える。アフリカでは、そのような目的でトウモロコシ畑をつくるために、人々が無償で土地を提供しなければならない国が増えている。それはなぜなのか。そのしくみについて考えたい。
 54カ国もの国(西サハラを含めると55カ国)にわかれ、多様性に富んでいるアフリカを一言で表すことは、もとより不可能である。だが本書では、いくつかの国の現実の姿をしっかりと捉え、そこにアフリカ諸国に通底する問題、語られざる「もうひとつのアフリカ」の姿を描きだすことを課題としたい。お付き合いいただければ幸いである。
 

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