ドキュメント感染症利権

検証・コロナvs政治
海堂尊×山岡淳一郎(後編) 

――特集対談

2020年4月「緊急事態」が宣言される中リアルタイムで執筆され、急ぎ出版された2冊の本。無為無策の政治風景と医療現場の緊迫を克明に描き出した小説『コロナ黙示録』海堂尊著と、感染症という科学的事象に右往左往する国の有り様を追い医療を蝕む闇を衝いたノンフィクション『ドキュメント感染症利権』山岡淳一郎著だ。両作品の著者が縦横無尽に問う「この国はなぜコロナと闘えないのか」――


▼『コロナ黙示録』ダイジェスト

海堂    少し脱線しましたが、結局、構造は同じってことですね。何かちゃんとしたことをやろうとすると、どこかで足を引っ張られる。秘密主義の官僚、政権が事実を隠蔽する。そこに一番の問題がある。

山岡    安倍政権から菅政権へ、ずーっとその流れが続いていて、人事権を握ることで、官僚を牛耳っていく。人事っていうのは官僚にとっては、一番のウィークポイントですよね。

海堂    生命線ですからね。

山岡    ここを握られると、それでも抗おうとする人は排除される。
 『コロナ黙示録』で面白かったのが安保首相夫妻の関係ですが、今権力を握ってる人たちの頭の中に国家観とかそういうものが全くないんだな、ということが本当にうまく描かれていて。

海堂    ないですね。空っぽですね。

山岡    そういううつろな状態の中で、自分の思いつきでやりたいこと、あるいは自分が心地よいかけ声みたいなものに対して、ふらふらっと政治の力を利用していく。そのくらい劣化した官邸レベルの政治しかできないところまで堕ちている。日本はもうどうしようもないところに嵌ったなあと感じます。

海堂    トップの教養がなさすぎてあきれますよ。でんでんとか、首相は立法府の長であるとか、一言でクビが飛んでもおかしくない間違いを何度も。中学入試落ちるだろうこの人、というレベルです。

山岡    それで恥じないっていうところがまたすごい。恥も外聞もかなぐり捨てて、自分のやりたいことをやるときはやっちゃうっていう人たちとして映ります。

海堂    この小説で僕が一番の発見だと思っているところは、その首相夫妻の関係が政治まで及んでいるんじゃないかっていう設定なんです。

山岡    そうそう。こういう見方、たしかに成り立つなっていう発見でしたよ。

海堂    じっさい週刊誌の記者の知り合いから、これ本当なんじゃないかって言われまして(笑)。驚きました。

山岡    人物像としても非常にうまくつかんでいらっしゃるなと。

海堂    あと、作品の中にも出てきますが、首相も奥さんも悪気はないっていうところが怖くないですか。

山岡    本人たちは、いいことしてると思っているところがね。

海堂    じつは欲もそんなにないんじゃないか、と思ったりもします。だから攻撃しにくいところもあるんですよね。

山岡    そもそも、攻撃している側の意図が伝わらないでしょ。批判されてることを全然感じていない。ただ、国会で野党から批判されると、かっとなって言い返したりするんだけど、その野党の発言の裏側には国民の大きな怒りがあるっていうことを感じていないような気がしますね。

海堂    書いているとき、人物名も設定も、こういう露骨なのは品格を疑われるとかなんとか、原稿段階で言われたこともあったんですけどね。

山岡    私が思わず笑ってしまったのはバッカ会長です。あそこはツボにはまりました(笑)。

▼オリンピックでGo To トラブル⁈

海堂    そういえば、IOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長、来日しますよね。
(*編集部注 対談収録日=2020年11月14日)

山岡    オリンピックは、どう考えても無理筋だと思うんですよ。

海堂    僕は『コロナ黙示録』を書こうと思った4月時点で、これ来年でも無理だろうと踏んでます。
 あの時点でまだわずかに可能性が残っていたのは、夏を迎えてコロナがインフルエンザみたいに収束して、欧米とかでもきれいさっぱりなくなっていたら、ぎりぎり開催できる光明が見える、というラインでした。だけど夏にも一山ありましたし、この冬の感染状況を見たら、ほぼ100%無理だと、医療従事者はみんなそう思っていますよ。僕はこの段階で断言しますが、中止になると見ています。

山岡    バッカ、いやバッハ会長、わざわざ東京に来るんだから、どうしてもオリンピックやりたいみたいで、日本側もそれに応えて、海外からの観客については2週間の待機を免除するっていうのを言い出しましたね。渡航前の検査でスクリーニングして、徹底的に防疫してもらうから、そのまま入れるんだっていう理屈をつけて。

海堂    それは本当に亡国の政策ですよ。端的に言って、今ヨーロッパは第三波が来ていて、アメリカだって依然感染者が増え続けていて、そういう所からGo Toジャパンですから(笑)。

山岡    海外版Go Toトラベルですね、Come Toトラベルかな(笑)。Come Toトラブルの世界に入ってきますね。

海堂    もう、Tremendous disaster。トラブル超えて、災害です。政策決定に関して、機能不全どころか、完全に死んでいます。全部、オリンピックを開催することで利権を得ている人たちに供与するためというのは見え見えで、でもそんなことのためにねえ。

山岡    ところでこの作品、フィクションとはいえ政権批判の方向性はわかりやすいですから(笑)、安倍さんの支持者から攻撃受けたりはしませんでしたか?

海堂    もうそれは、これ書いた以上、覚悟の上だったのでね(笑)。でも逆に、Amazon辺りで一つ星が5件しか出ていないのか、俺も何か見くびられたなって思いましたよ。100件ぐらい出てなんぼだよなって。そしたら知人の週刊誌の記者が、いや、そんなに出てたらかえって目立ちますから5個っていうのが向こうの作戦でしょう、と。

山岡    読めばわかりますからね、誰でも。

海堂    彼らにとっては、それがまずいんです(笑)。一庶民から見たら、このくらい醜態をさらしている、そういう見え方で小説にしちゃったものですから。

山岡    でもジャーナリストが、がちがちの文章で政権批判しても、何かリベラルの小さなグループがやってるだけだろうと見られちゃってね。

海堂    僕も『コロナ黙示録』であからさまに書いたから、ああ、海堂さんリベラルのほうにいっちゃったかとか、パヨクだとかっていうレビューも上がるんだけど、僕の場合、自称「医翼」と公言しています。つまり医者のメディカルウイングね、だからネトウヨもパヨクもみーんな仲間なんです(笑)。

山岡    なるほど。そういうスタンスいいですね。

海堂    医者の下にはかしずきなさい、なぜかというと、医者は皆さんにかしずいているのだからっていう立場で見ると、医翼主義は正しいと思うんです。僕なりの自己防衛です(笑)。
 社会は多様性がどんどん進んですごい複雑なのに、右だ左だ分断だ、となぜ政治だけがシンプルになるのか、不思議です。民主主義は運用次第で残念なものになる、という制度なんですね。

山岡    アメリカは二大政党制を基本にして、大統領も選んでいますから、二つしか選ぶものがない。だから、トランプみたいなのが出てくる可能性があるっていうことが、この4年の間にわかったと思っています。

海堂    後の時代になって、2016年から2020年は何だったんだろう、ブランクデモクラシーの4年とか言われたりするのでしょうか。トランプが歴史上どういうふうに書かれるのか、想像がつきません。
 

2020年12月9日更新

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海堂 尊(かいどう たける)

海堂 尊

1961年千葉県生まれ。医学博士。
第4回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』(宝島社)にて2006年デビュー。同シリーズは「桜宮サーガ」と呼ばれ累計1千万部を超える。
他に『螺鈿迷宮』(KADOKAWA)『ジーン・ワルツ』(新潮社)『ブラックペアン1988』(講談社)など映像化作品多数。Ai(オートプシー・イメージング=死亡時画像診断)の概念提唱者で関連著作に『死因不明社会2018』(講談社文庫)がある。近年はキューバ革命などラテンアメリカの歴史を描く『ポーラースター』シリーズも展開している。近作は『コロナ黙示録』(宝島社)。

山岡 淳一郎(やまおか じゅんいちろう)

山岡 淳一郎

1959年愛媛県生まれ。ノンフィクション作家。「人と時代」「21世紀の公と私」を共通テーマに近現代史、政治、医療、建築など分野を越えて旺盛に執筆。一般社団法人デモクラシータイムス同人。著書は『原発と権力』『長生きしても報われない社会』(ちくま新書)、『ゴッドドクター 徳田虎雄』(小学館文庫)、『気骨 経営者土光敏夫の闘い』『国民皆保険が危ない』(共に平凡社)、『後藤新平 日本の羅針盤となった男』『田中角栄の資源戦争』(共に草思社)、『放射能を背負って 南相馬市長桜井勝延と市民の選択』(朝日新聞出版)、『医療のこと、もっと知ってほしい』(岩波ジュニア新書)ほか多数。

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