ちくまプリマー新書

新学期・新年度を乗り切る! やる気を自分でコントロールする方法
『勉強する気はなぜ起こらないのか』より本文を一部公開

怠けたい、相手と比べてしまう、無気力だ……。そんな気持ちを少し変えるためには、心理学の考え方が役に立つ。「やる気」のメカニズムから自分をみつめなおそう――ちくまプリマー新書の最新刊『勉強する気はなぜ起こらないのか』第二章より、本文を一部公開します。目的に向けて行動を起こすこと(=やる気を出すこと)を邪魔するのが「誘惑」です。この「誘惑」をうまく対処するコツを身に着けるにはどうすればいいのでしょうか。

やる気をコントロールするさまざまな方法

 ここからは、さらに踏み込んで、やる気をコントロールする具体的な方法(動機づけ調整方略)について説明しておきましょう。

 ここに書かれていることを全部試してもよいですが、大切なことは、自分に合ったやる気をコントロールする方法を探して、それを身につけることです。人には個性があり、同じ人は一人もいないので、やる気を効果的にコントロールする方法も人によって異なります(これについては、第五章で詳しく見ていきます)。ここでは、中高生がなかなかやる気にならないけれど、やらなければいけないケースが多い、勉強を例にします。

●ご褒美作戦

 ご褒美作戦とは、やる気が出ないことをしなければいけない、たとえば、勉強の前に、それをやり終えた時のご褒美を用意しておくものです。心理学では「自己報酬方略」と呼ばれています。

 自分へのご褒美を自分で用意しておくので、そのご褒美は人によって違います。勉強が一通り終わったら、「自分の大好きなゲームをするんだ!」とか、「大好きなあの人とおしゃべりをするんだ!」とか、「美味しいものを食べるんだ!」とか人それぞれです。自分の好きなものが待っていると考えたら、嫌なことでもがんばれるものですよね。

 私はこの本を書き終えたら、旅行に行こうと思っています。本を書くことは決して嫌いなことではなく、むしろ好きなことではありますが、好きなことをするのであっても、終わったら楽しいことが待っていると考えると、俄然とやる気が出るものです。

 ご褒美を用意しなくても、勉強をやり遂げた後の達成感をイメージしたり、勉強をやり遂げた自分を想像したりするだけでもやる気が出てくる場合があります。終わった時のことを夢見ながら、目の前にある課題に取り組むのもよいですね。

 また、少し遠い未来のことを考えてみるのも効果があります。たとえば、大学受験を控えた高校生が、この勉強をやりきれば、バラ色の大学生活が待っているとか(そんなことはないのですが。笑)。そうすると、やる気が持続するかもしれませんよ。

●環境を変える作戦

 学習環境を整理することによって、やる気を高める方法もあります。たとえば、自分の好きな場所で勉強するとか、部屋を勉強に集中できる環境にするとかです。心理学では、「環境調整方略」と呼ばれています。

 私は、散らかった汚い部屋よりもきれいな部屋のほうが、俄然やる気が出ますので、高校生や大学生の頃は、試験勉強をする時にまずは、部屋の掃除から始めていました。

 ただし、人によってはこれが効かない場合があります。今にも崩れそうなほど積み上げられた本に囲まれて作業をするのが好きな人もいますから(私の知り合いにも実際います)。私の友だちに、部屋を真っ暗にして電気スタンドの灯りだけで勉強をすると、やる気が出るといっている人もいました。

 その他にも、図書館で勉強するとやる気が出るとか、人がたくさんいるところ(たとえばファストフード店)で勉強するとやる気が出るとかなど、さまざまです。自分がやる気が出るような環境を探してみましょう。

●負担をおさえる作戦

 これは、自分にとっての負担をなるべく減らすような作戦です。たとえば、得意なところや好きなところを中心に勉強するとか、飽きたら別のことをしたり、休憩をしたりするなどがこれにあたります。心理学では、「負担軽減方略」と呼ばれています。

 私は、自分の嫌いな教科を勉強するときには、好きな音楽を聴きながら勉強していました。これは今でも変わりません。嫌いな作業も音楽を聴きながらやると、何だかやる気がわいてきて、作業がはかどるのです。ただし、この「ながら作戦」は、効果がある人とそうではない人がいるようなので、注意が必要です。

 また、メリハリをつけて勉強することはとても大事です。だらだらとやっても、なかなか効果はあがりません。「一時間は集中して勉強する。それが終わったら一〇分間休憩をする」など、勉強時間(あるいは分量)の区切りをうまくつけてとりかかると、負担もおさえられますし、集中力が高まるでしょう。

●友だちに頼る作戦

 自分一人ではがんばれないことでも、友だちと一緒だったらがんばれる。こういう経験はありませんか?

 ここでは「友だちに頼る作戦」と名づけましたが、心理学では「協同方略」と呼ばれています。これは、友だちと協力しながら勉強するというものです。

 その友だちは誰でもよいわけではありません。その友だちと一緒にやることで、雑談ばかりしていては、到底効果があるようには思えません。むしろ、逆効果になることもあります(ただし、友だちと雑談をすることによって、やる気が出てくるという人もいるかもしれません)。

 一緒に勉強するのは、夢に向かって一生懸命にがんばっている友だちや、自分と成績が同じくらいの友だちがよいですね。

 がんばっている人がそばにいると、自分もがんばりたくなりますし、自分と成績が同じくらいの友だちと切磋琢磨しながら一緒に勉強すると、やる気が出てくるのではないでしょうか。

●勉強って大事だと思う作戦

 ちょっとネーミングがいまいちなのですが(笑)、これは、学習内容に価値づけを行うことでやる気をコントロールする方法になります。心理学では、「価値づけ方略」と呼ばれています。

 勉強する内容が難しくても、「これは、自分にとって必要なんだ」とか「勉強の内容が将来の役に立つ」と想像しながら取り組むことでやる気をコントロールできる場合があります。

 第一章で説明したように、活動(ここでは、勉強)の価値を十分に自分のものとして取り入れることができれば、自律的に行動することができます。

 実際、勉強は大事なことなのですが(それについては、本書の目的に外れますので、ここでは言及しません)、みなさんにとってなぜ勉強が大事なのかを考えてみるのもよいかもしれませんね。


 
「なんで誘惑に負けてしまうの?」
「友だちにどう影響されるの?」
「ネガティブでも大丈夫?」
勉強以外にも効くやる気のトリセツ!

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