「一番極端なのが光だ。光は、前向きに飛ばそうが、後ろ向きに飛ばそうが、自転車に乗って測ろうが、そばに立って測ろうが、どれも、みんな秒速2億9979万2458メートルぴったりで、変わらないんだよ」
「そんなこと言われても……」
「気持ちはわかる。でも、それが事実なんだ」
「頭のなかで考えてやる思考実験だから、そう考えたらそうなんだってこと?」
「ちがうよ」
「え?」
「実際の実験で証明されたことなんだ」
「実験で?」
「1887年、アメリカの物理学者のアルバート・マイケルソンとエドワード・モーリーが実験して、光は、動いてるものからどんな方向に発せられても、計測したらいつも同じ速度だってことがわかったんだ。この発見は、あとから『光速不変の原理』って呼ばれるようになった。マイケルソンはこの発見の功績が評価されて、1907年にノーベル賞を受賞した。もともと彼はちがうことを証明したかったのに、偶然、とんでもないことを発見しちまったわけだから、科学の世界によくある『セレンディピティ』ってやつなんだけど……」
「せれん……」
「その話はいいよ。とにかく、どんな状態で発せられた光でも、誰が測っても、光の速度は変わらないんだ」
「じゃあ、光の速さが何十年経っても変わらないっていうのも、それが理由?」
「理由の半分は、そういうことだ」
「半分?」