十代を生き延びる 安心な僕らのレジスタンス

第7回 君もワンチャン狙ってるの?

寺子屋ネット福岡の代表として、小学生から高校生まで多くの十代の子供たちと関わってきた鳥羽和久さんの連載第7回です! 子どもたちが使う「ワンチャン」という言葉は、すっかり定着して日常語になった感じがします。なぜ若い人の間で広まったのかを考えます。

コロナ禍で見えた大人たちのパターナリズム


この意味で、コロナ禍における大人たちは(反面教師的な意味で)良い教材になります。コロナ禍は、研究者を除く一般の人たちにとっては、ウイルスとの戦いというよりは、「わからない」ことにいかに対峙(たいじ)するかという戦いです。そんな中で、多くの大人たちはわからないことをさもわかったことのように単純化して語ることを好みます。そして、すぐに誰かに模範解答を求め、求めた相手が解答を間違えると、皆で責め立てることを繰り返しています。

我先(われさき)にと正解を求める大人たちは、政府に対してワクチンやロックダウンといった個人の生命にダイレクトにかかわる政策を次々に要求します。個人がじかに国家に連結されることに違和感を覚えることなく、個人が国家の掟(おきて)に依存を強めることを警戒することもなく、ただひたすらに政策の遅延(ちえん)と効率の悪さにマジ切れし続ける大人たちの姿は、経済効率優先であらゆる無駄を排した政策を推し進めてきた新自由主義者たちの姿と酷似(こくじ)しています。それはまさに目先だけを追うパターナリズムであり、そんなことではうまくいかないことをコロナ禍の経緯が雄弁にものがたっているのにもかかわらず、それに気づこうとしないのです。

「コロナ禍の前と後とでは時代が大きく変化する。だから、それに備えないと。」わかったつもりの大人たちはいまだにそんなことを言っていますが、変化に備えようとしてもパターナリズムに埋没(まいぼつ)するだけですから、こんなときこそむしろ「変わらないもの」に着目するのがおすすめです。

「変わらないもの」を発見することで「変わるもの」が定点観測できる

つい先日、『吾輩は猫である』(夏目漱石)を読んだ高2の子が、「これいまの話じゃね? というのがたくさん書かれていることに驚いた」と言っていました。漱石は百余年前の作品で文学史の中では新しい方ですから、もっと古い作品、例えば『源氏物語』(紫式部)でも『国家』(プラトン)でもいいんですが、こういう「古典」と言われる本には、マジそれな!というエピソードがちょっと信じられないくらいの質と量で書かれていて、そういうちょっと普遍的な人間のクセみたいなものを若いときに文学の中で発見するのは、とても大事というか、他の知識では補えないものだと思うのです。

こうした文学の中で私たちが学ぶことができるのは、濃淡はあるにせよ、全体としてみれば「人間」は時代が変わっても大きく変化することはないということです。そして、そういう「変わらないもの」が腑(ふ)に落ちたとき、その反対の「変わるもの」「変わりやすいもの」がいかにも流動的なものとして目に飛び込んでくるようになるはずです。

「人間」が「変わらないもの」だとすれば、ある時代の人間たちが抱く特有の「価値観」はその対極にある「変わりやすいもの」と言えます。だから、「ワンチャン」がいまの価値観の一面を表しているとすれば、その言葉のリアルな息遣(いきづか)いは、そのうち耳を澄ましても聞こえなくなるでしょう。

このように「変わらないもの」を探りながら、同時に自分の価値観を客観的に捉えることで、ようやくパターナリズムな行動基準をキャンセルし、自由に生きる手がかりを得ることができます。そして、価値観は変わるものだと深く知ることで初めて、自分の価値観を絶対視することなく他者の価値観を「それもありですね」と味わうことができます。多様性を知ることは、価値観を捉え直すことからしか始まりませんし、それは価値観の可変性に希望を見出すことでもあります。

一昨日、中2のUさんが言いました。
「ワンチャン、ワンチャンいけるかも!」
まさかのワンチャンの二重用法。私の価値観ではちょっと捉えようのない世界ですが、でもその世界もワンチャンありですね。
 

※本連載に登場するエピソードは、事実関係を大幅に変更しております。

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