苦手から始める作文教室

第13回 「感想」が連れてくるもの

感想文を書いてみる①

作文といえば、一番最初に感想文をイメージされる方も多いでしょう。その感想文について扱う初回は、その「感想」そのものについて、考えてみます。

 これまで何度かわたしは、「自分の実感を書きましょう」だとか「ありのままを書いてみましょう」といったことについて書いてきたわけですが、「書きましょう、書いてみましょう、と言われても、自分が生活をしていく中で、文章に書きたくなるほどの強い実感らしきものは湧いてこないし、ありのままといってもどの部分のありのままを書いたらいいかわからない。書く価値も感じないし、書くことを楽しいとも思えない」という人もいるだろうと思います。わたしもそう思う時がよくあります。作文を仕事にしているにもかかわらず、何の面白みもなく代わり映えのない生活をしていて、毎日が同じなのでもう何を感じているかもよくわからない、という状態です。もしくは、一応何かを感じてはいるのですが、「べつに書きたくない」という状態です。

 「自分の生活について書きたくない」のであれば、無理矢理書く必要はないとわたしは思います。毎日の生活を、文章を書くということのためだけに、無理に山あり谷ありの起伏のあるもののようにとらえることはありません。たんたんと、大きな出来事は何も起こらず、毎日の登校や勉強や友達付き合いや食事や就寝をこなす生活もとても良いものです。

 自分の生活の中で書くことは見つけられないけれども、何か書いてみたいなあ、と言う人がいたら、わたしは何かの感想を書き留めてみることをおすすめします。かく言うわたしも、本の感想の仕事をよく引き受けます。なぜなら、ずっと代わり映えしない自分自身やその身の回りのことについて書くよりも、ある1冊の本について書くことのほうがおもしろいし、書くことに困らなかったりもするからです。

 感想を書くのは、何についてのことでもかまいません。マンガについてでもいいですし、ドラマやドキュメンタリーなどのテレビ番組についてでもいいですし、動画サイトの動画についてでもいいですし、観た試合の感想でもなんでもいいと思います。

 たとえば、動画の感想についてです。わたしは仕事をしている時に、雨が降っている様子の3時間から10時間の動画をテレビでずっと流しているので、YouTubeに雨の音を投稿している人のことは半分ぐらいは知っているように思うのですが、その中にも「良い」と思える投稿者と、えらそうにも「わかっていない」と思う投稿者がいます。まず「良い」と思える動画は、雨の音が大きめで、できれば室内の窓から雨が降っている外を眺めているような動画であることです。できればテレビを窓のようにとらえたいわけです。雨が降っている街角や海際の風景なども好きですし、雨の中をドライブしている動画も好きです。「わかっていない」と思う動画は、どれだけ雨の音が激しく、好ましい街角などの風景であっても、雨の音のループのつなぎ目があからさまにわかってしまう人の動画に関しては、残念ながら「わかっていない」という感想を持ちます。

 投稿者の中には、自分の顔をアイコンにしたり、動画の最初に登場して一言話していくような人もいます。顔を知っている投稿者の中でわたしが「わかってるな」という人は2人いて、片方は、テンガロンハットをかぶったテキサスのおじさんで、もう片方は、けっこう立派なスタジオで動画の編集をしているニットキャップでやはり外国人のおじさんです。テキサスのおじさんはわかりませんが、スタジオのおじさんは、自然の音の編集だけで生活していそうです。

 わたしはこのおじさんたちのことは何にも知らないし、たとえ会っても「雨の音良かったです」以外のことは言えないと思うのですが、これまで関わりがなかったし、これからも関わりがないであろう人たちに、「雨の音」という一点で共通点を見出したわけです。これはけっこう興味深いです。

 雨の音の動画の、自分とはほとんど共通点のない「わかっている人たち」について考えるにつけ、実は自分の生活は、このレベルの小さいすれ違いによって成り立っていることがわかってきます。たとえば今自分が便利だと思ってずっと使っているメイド・イン・ロシアのコップを作っているロシアの人だとか、竹製の尖ったつまようじを作っている日本の誰かと、わたしは何の共通点もないかもしれませんが、良い製品を通してわたしとつながっています。そう気付いたことで、べつにわたしは幸せを感じるわけではないのですが、ただ、遠く離れた自分にぜんぜん関係がないように思える人も、自分の生活を便利にしているのかもしれないと思うと、自分と関係ない誰かを簡単に切り捨てることはできなくなると考えるようになります。

 何かについて感想を持ったり、そのことについて考えてみることは、自分の身の回りや世の中について考えることにもつながっているといえます。わたしは雨の音の動画を配信している人たちについて考えましたが、マンガやドラマや小説の登場人物、本に書かれていることやドキュメンタリーに取り上げられていること、試合を観て想像する選手やファンの気持ちなど、身近な楽しみについて立ち止まって感想を持ったり考えてみたりすることが、自分の身の回りや世の中につながっていることはいくらでもあるように思います。

 

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