もしも家を建てるなら

第六回 6歳からの縄張りづくり

子供部屋から二世帯住宅まで、親と子の適切な距離とは?【プランを描く③】

「スタディコーナーを設けて、子供の部屋はあえて狭くする」が最近の流行です。それはなぜでしょう。そんな要望に、建築家はどのように応えているでしょうか。連載第六回め、今回の話題は「家族の距離感」についてです。

スタディコーナーの躍進

 ある設計事務所のお手伝いで、小学生と幼稚園児の子供2人がいる4人家族の新居の打ち合わせに参加したことがある。ご主人は脱サラをして、奥さまの実家で果樹栽培の修業を始めたばかりの方であった。

 話題が子供部屋に移ったとき、

「最近はスタディコーナーをつくられる家が多いですよ」

 と私が事例写真を見せながら紹介すると、

「これ、すごくいいじゃないですか」

 とご主人のテンションが一気に上がり即座に採用が決まった。

 周りを畑に囲まれた、約90坪の敷地に建てる平屋である。

 スタディコーナーとは、文字どおり子供が教科書やノートを広げて勉強に勤(いそ)しむためのスペースをいう。多くはリビング、ダイニング、キッチンといったパブリックなスペースの近傍に、2人以上が並んで座れるカウンター状の机として造りつけられる。

 かつては、同じ目的でダイニングテーブルが多用されていた。しかし、食事のたびにテーブルの上を片づける手間を考えると、専用のスペースを設けたほうが使い勝手がよい。そこで独立したのがスタディコーナーである。

 2人以上の横幅を確保するのは、子供の隣で親が勉強を見てやるのに都合がよいためだ。子供の隣にもうひとつ椅子があると、

「ねえ、これどうやってやるの?」

 と難解な計算問題を前に動きが止まった娘の呼びかけに同じ目線で応じられる。

 マジメに学問を探究する場というより、子供の勉強を見てやりながら親子がコミュニケーションを深める場、といったほうが適切かもしれない。とはいえ、なかには大学受験の勉強をここで励む高校生もいるので、スタディコーナーの使われ方は家庭によってまちまちである。

 中学生、高校生になったときのことを考えて、子供部屋にも従来どおり学習机を設ける家庭はいまでも多い。しかし、東京の戸建てのように延床面積が狭い地域では、「スタディコーナーに机があるのだから子供部屋にはなくてもよい」と割り切った考え方をする親御さんも増えている。最近は、家ではあまり勉強をしない子供たちが増えているのも要因のひとつだ。地域にもよるが、いまは高校生ともなれば、塾や図書館、あるいはカフェで学校や受験に必要な勉強を手際よく済ませ、家に帰ればごはんを食べて寝るだけというスタイルが増える。そうなると学習机はふたつもいらない。スタディコーナーさえあれば十分なのである。

 

引きこもりを回避せよ

「これ、すごくいいじゃないですか」と前のめりになったご主人もそうだが、スタディコーナーを歓迎する親御さんは、その理由に「子供がいつも目の届く場所にいてくれるから」という安心感を挙げる。

「幽霊の正体見たり枯れ尾花」ではないが、私たちは目に見えないものに対して、つい誇大な妄想を抱きがちになる。まだ小さな子供がいる親御さんは、子供が視界から外れ、さっきまでの大声がいつの間にか聞こえなくなっていることに気づくと、途端に不安が募るものだ。

 どこか別の部屋で、お腹を出したまま寝ているのではないか?

 庭先で転んで動けなくなっているのではないか?

 思わず作業の手を止め、行方を探さずにはいられなくなる。

 そんな不安をスタディコーナーは払拭する。子供がそこを根城にしてくれれば、親は子供の気配を感じながら安心して作業に没頭できる。

 その思いは子供とて同じだろう。とくに小学生くらいまでの子供は、親が自分の視界に収まっている状態が精神的に大きな安心材料となる。

 親と子が互いの視線を愛おしいと感じる季節はとても短い。みなそれを分かっているからこそ、親子の時間を濃密なものにしてくれるスタディコーナーは、学齢前後の子供がいる家庭にはとても受けがよい。スタディコーナーを設置する間取りは、今後ますます「子供部屋」のふつうになっていくような気がしている。

 では、本家・子供部屋のほうはどうか?

 私が見たところ、昔ながらの子供部屋はスタディコーナーの躍進に気圧(けお)されるように、その面積をどんどん狭くしている。都内に建てられた戸建ての図面ばかり見ているせいもあるが、近ごろの子供部屋はどの家も面積が狭い。都内なら四畳半もあればいいほうで、それ以下の子供部屋もざらにある。藤子不二雄作品に登場する昭和の子供部屋はおそらく六畳程度。ドラえもんやハットリくんが現れても、いまはリビングにお連れしないとゆっくり話もできなくなった。

 最近の子供部屋が昭和の子供部屋より狭くなったのは主にふたつの理由からだ。

 ひとつは、スタディコーナーの登場によりそれまで子供部屋にあった機能が一部別の場所に移管されたためである。子供部屋に学習机を置く必要がなければ、部屋の面積はおのずと狭くなる。

もうひとつの理由は、子供のひきこもりを警戒するお母さんが増えているからである。ひきこもりといっても、児童相談所への相談が必要なほど深刻なものではない。子供部屋への滞在時間が長くなり、親と子が顔を合わせる時間、親と子が会話をする時間がしだいに減っていく――その程度である。だが、世のお母さん方はそれすらもことのほか嫌がる。そこで、次のような計略を思いつくわけだ。

「子供部屋は、最初から長時間居づらい部屋にしておけばよいのではないか」

 イメージとしては、ルーク・スカイウォーカーたちがすべり落ちたデススターのゴミ処理場である。壁が両側から迫ってきて、いまにも押しつぶされそうな圧迫感。早くここから脱け出したいと思わせる息苦しさ。そういう子供部屋がお母さんの理想だ。長時間居づらい部屋にしておけば、わが子はほうほうのていでリビングまで這い出してくるにちがいない。

「そう考えて、子供部屋は小さめにつくったんです」

 初めての家づくりを終えたお母さんにインタビューすると、この手の裏話をたびたび聞かされる(なぜかお父さんからはそういう話を聞かない)。

 冒頭に紹介した果樹農家のお母さんもそうだった。敷地はありあまるほど広かったのだが、スタディコーナーとは別に設けた通常の子供部屋は、お母さんの要望で一人当たり3.75畳にまとめられた。敷地の大小とは関係なく、あえて戦略的に小さくつくられる部屋も家づくりには存在するのである。

スタディコーナーを併設したLDK。子供はキッチンやダイニングにいる父や母とちょうどよい距離感を保つことができる(設計:飯塚豊)