杉田監督の活動には全部ストーリーがある
杉田 枡野さんの本を勝手に何冊も読んでいく中で、このかたはたぶん、ご自身のことというよりも、たとえば『結婚失格』なら、内田かずひろさんのイラストについて感想を書かれたほうがよろこぶかたじゃないかと思って。実際に内田さんのイラストに私は感銘を受けていたので、イラストについてだけツイートしてみたんです。
枡野 そうだったかもしれませんね。私の行動パターンが読まれてますね(笑)。
東 それで枡野さんが、反応されたということですか。
杉田 (Twitterを)フォローしてくださったんじゃなかったかな。それから連絡をとるようになって、お会いした、っていう。また説明が長くなりましたが。
枡野 杉田監督の活動って、全部ストーリーがあるというか。ひとつひとつをたどっていくと、驚くようなエピソードの数々があって。この座談会を記事にするとき、だいぶ割愛しないと、まとめられないかもしれない。
東 そうなんですね。
枡野 それで杉田監督、吉祥寺の喫茶店に会いに来てくださって。当時、私が住んでた部屋のすぐそばにあった「ベッシーカフェ」っていう、すごい好きな喫茶店に。ぺらぺらの、一枚とか二枚の紙にプリントされた脚本を持ってきてくださったんですけど。本当にこれが脚本なのかなって、よくわかんない脚本で。どういう映画になるのかも、まったく想像もつかなかったので、それでOKしちゃったってのもあるんですよね。もっと詳しい脚本だったら、困ってやめたかもしれないんですけど。
杉田 (笑)
枡野 正直、得体が知れなかったので。映画監督というふうに言われても。でもとにかく熱意があることはわかった。まっすぐでした。
杉田 そのとき書いてた脚本って、それぞれのシーンが短歌の文字数ぐらいの⋯⋯。
枡野 一行メモみたいな脚本なんですよ。
杉田 シーンごとに場所を書いて、ト書きとか、せりふを書くんですけど。それがだいたい一行ずつ、みたいな。せりふの前にそのせりふを言う人の名前も書いてないような。そのときの自分にはもう、そうしか書けなかったんですね。だから枚数も少なくて、当時のスタッフの人にも戸惑われました。
東 (笑)
杉田 大変迷惑な存在だと思いますけど。まっすぐだったと思います。
枡野 撮影前は、どんな映画になるのか全然わかってなかったです。東さんのときの脚本は、もうけっこう「脚本」だったんですか?
東 けっこう「脚本」でしたね。
枡野 そうでしたか⋯⋯。
東 コロナ前の脚本と、コロナ後の脚本があって。
枡野 そうか、コロナ前に脚本を書き始めてたけど、コロナで撮影が困難になって脚本を大きく変えたって、おっしゃってましたもんね。何がいちばん変わりました? コロナ前後の脚本。
杉田 お話は一緒なんです。
東 一緒?(笑)
杉田 続き物というか。登場人物は一緒。
東 舞台は同じですもんね。
杉田 多少、人物も変えたりしてますけど。前の脚本があって、その主人公の二年後くらいからの時間を描いたのが実際に撮った『春原さんのうた』です。まったく別の脚本を書いたっていうよりは、撮っていない「前編」に対する「後編」を撮ったみたいな感じです。
東 最初のシーン、前の脚本の段階で撮ったのもあるしね。
杉田 そうです、オープニングの⋯⋯。
枡野 桜のシーン?
杉田 はい。前の脚本のときのラストシーンだったんですよ。自分としては初めて桜を狙うっていうのをやりました。桜って、ある短い期間しか咲いてないので、映画ではスケジュール的に組み込むのがむずかしいんです。撮影は五月から始める予定だったんですけど、桜は三月に咲くので、そのラストシーンだけ先に撮りました。
枡野 そしたらコロナが広まっていって⋯⋯。
杉田 もう撮影できない状況になっちゃって。ラストシーンだけ撮った状態で、ほぼ中止になりました。その日の撮影がとてもよかったし、撮れたシーンもすごく好きだったので、ちゃんと生かしたいなっていう気持ちもあって。その桜を⋯⋯ラストシーンだったのをファーストシーンにして、続きを撮るっていうふうにしました。
枡野 はからずもというか、登場人物みなさんがマスクしてる映画で。もう今、映画界では「マスクしてる映画」って出てきました?
杉田 まだ少ないと思います。