『春原さんのリコーダー』

杉田協士監督『春原さんのうた』
(原作/東直子『春原さんのリコーダー』)
をめぐる座談会

第2回 短歌をもとに脚本を書く

短歌が原作となる映画はまだ少ないが、杉田協士監督は前作『ひかりの歌』に続き、東直子のデビュー歌集『春原さんのリコーダー』を元に『春原さんのうた』を製作した。なぜ、この歌集の中の1首を選んだのか? 短歌の映画化にも詳しい枡野浩一と共に二人に話を伺った。

   作品づくりのほとんどが「無意識」

杉田 これはもう、ようやく最近わかってきたことですけど、ものづくりって、85から90%ぐらいは「無意識」なんじゃないかっていう気がするんです。どうしても表現者とか作り手って、その人が頭の中でコントロールして、イメージしたものをかたちにしている存在だっていうふうに、思われやすいんですけれども。

枡野 そう期待されてるかもしれないですね。

杉田 でも正直けっこう、無意識にやってる部分が、ほとんどを占めてるんじゃないかなって。残りの数%、ちょっと意識してるぐらいで。知らないあいだに、どうしてもそうなっちゃう、みたいなのがかたちになるのが、その人の作品⋯⋯自分の場合は映画ですが。そういうものとして、あきらめていくしかない、みたいな。ひらきなおるのも、よくないとは思うんですけれども。でも、どうやってもそうなっちゃうというところから、じゃあ何をつくるか、みたいな気持ちがあります。

枡野 「どうやっても、そうなっちゃう」。

杉田 たとえば東さんの短歌は、「一人称」の作品もあるけど、「三人称」に読めるものも多い、というのも、「さあ自分は三人称で書こう」と意識したわけではないんじゃないかと。

そうですね。無意識でつくってますね。

杉田 自然とそうなっちゃう部分って多いと思うんです。井口監督の「契約しましょ」も、どうしても言っちゃうんでしょうね。

そうなんですね。だから杉田監督の映画は、その無意識の部分で広げられていく世界が私は好きなんじゃないかと、今思いました、言われてみると。映画って、時間も費用もかかる表現でもあるので、プロットはかなりきちっと詰めて、テーマもはっきり決めて、ってタイプが主流ですよね。だけど、テーマとかプロットとか、そんなに明確には組まない感じというか⋯⋯。

杉田 私、プロットつくらないんですよね。

すごいですよね。

杉田 いきなり書き始めちゃうんです。映画の学校だと怒られるやりかたなんですけど。どうなるかわからない状態で書き始めるっていう⋯⋯。さっきの枡野さんの話で、ちょっと思いだしたことがあって。『春原さんのうた』は脚本を、かなりしっかり書いたんですよ。枡野さんに出演していただいた映画(『ひとつの歌』)とは、くらべものにならないくらい。

うん、わりと分厚い⋯⋯。

枡野 ⋯⋯複雑な気持ち(笑)。

杉田 でも面白かったのが、撮影も終わってだいぶ過ぎたころに、映画の宣伝ビジュアルをそろそろつくろうっていうタイミングで。今回ビジュアルを、「写真バージョン」と「イラストバージョン」両方をつくろうっていうことになって、イラストレーターのカシワイさんにお願いしてたんですよね。

枡野 カシワイさんの絵、いいですよね。

杉田 カシワイさん、あの絵を描くにあたって映画を再見してくれて、お一人で多摩川かどこかの川に脚本を持って行って、どういうイラストにするかってイメージをふくらませてくださったみたいで。そのときカシワイさんが脚本をひさしぶりに読み返してみたら、「けっこう脚本のとおりに撮ってるんだ」って、びっくりしたんですって。

一同 (笑)

杉田 印象としては、もっと適当に⋯⋯じゃないけど、なんて言ったらいいんですかね。

即興でしゃべってる感じに見えた、ということですか?

杉田 ドキュメンタリーみたいに見えたのかもしれません。できごととかも。

はい。

杉田 カシワイさんから、「わりと細かく脚本に書いてあるのが面白かったです」っていうメールが来たのを思いだしました、さっき。⋯⋯あれ、なんでこんな話しようと思ったんでしょう? 話、つながってるかな?

枡野 つながってます、つながってます。ほら、このあいだ、短歌研究評論賞をとった小野田光さん? 杉田監督が公開でトークしたこともある歌人ですけれども、もともと映画の仕事されていて。

そうですね。

枡野 映画製作の現場には「ホンウチ」という打ち合わせがあり、関係者みんなで脚本に手をいれるから、《結果的にどこか似たようなシナリオが量産される》(「短歌研究」2021年10月号)って、短歌研究評論賞の受賞の言葉で書いていらっしゃいましたよね。だから、規模の大きな映画だと、そういうことはあるんですよね、やっぱり。

杉田 それはもう必ずあるとは思いますね。映画は特に、お金が膨大にかかるので、責任が重すぎるっていう。絶対に失敗したくないから、みんな、保険が欲しくなるんです。

ちょっと保守化していくというか。

杉田 どうしても守りに入る部分は、ありますよね。まあ一億円とかかけたりするから。一億円つかって、監督の好きなようにつくってます、みたいな作品は、あんまりないだろうと思います。自分が自主制作を好きなのは、そこですね。また、何も言わないんですよ、原作者の東さんも。

 (笑)

枡野 東さんとしては、脚本を見たときに、「私の中の春原さんは、こんなじゃないんです!」とか思わないんですか。

いや、もともと架空でイメージしたものなんで。好きにやっていただいて、感心して……という感じです。映画に出てくる春原さんのファーストネームは、杉田監督が決めてます。

枡野 フルネームは「春原 雪」さんでしたね。

ああ、そういう名前なんだ、みたいな感じで。楽しんでました。

杉田 私も、たまに心配になるので、脚本を書いたタイミングとか、撮影に入ってからとかも⋯⋯。

そうですね、ご丁寧に、いろいろご連絡いただいて。

杉田 そのつど東さんに確認するんですけれども、そのたびに同じことをおっしゃって、「監督の好きなようにしてください」って。

枡野 (笑)

杉田 東さんのファンのかたも多いし、それこそ『春原さんのリコーダー』っていう歌集に思い入れがあるかた、その一首に対して思い入れがあるかたとか、大勢いると思うので。

そうですね、わからないですけど。

枡野 でも、きっとあれですよね、原作から派生した作品をつくるときって、原作者の人があまりにも自作にこだわりが強いと、うまくいかないかもしれませんね。

杉田 そういえば、少し前に大ヒットした『愛がなんだ』(今泉力哉監督)のプロデューサーから聞いたんですが。やっぱり原作者の角田光代さんは、何も言わなかったそうです。好きなようにしてください、って。

枡野 原作者の東さんが何も言わなかった『春原さんのうた』も、期待できますね。

【次週に続く】

2021年12月17日更新

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杉田 協士(すぎた きょうし)

杉田 協士

1977年、東京生まれ。映画監督。
2011年、初長編『ひとつの歌』が第24回東京国際映画祭日本映画・ある視点部門に出品され、翌年に劇場公開。2019年、加賀田優子・後藤グミ・宇津つよし・沖川泰平の短歌を原作としたオムニバス長編『ひかりの歌』が劇場公開。「キネマ旬報」をはじめとする各紙誌での高評価や口コミでの評判を得て全国の劇場へと広まる。
東直子の第一歌集『春原さんのリコーダー』(ちくま文庫)の表題作にあたる一首、《転居先不明の判を見つめつつ春原さんの吹くリコーダー》を原作とした最新長編『春原さんのうた』は2021年、第32回マルセイユ国際映画祭のインターナショナル・コンペティション部門にてグランプリ、俳優賞、観客賞を獲得するなど海外での受賞が続いている。2022年1月8日よりポレポレ東中野ほかで公開開始。
自作映画をもとにした小説『河の恋人』『ひとつの歌』を文芸誌「すばる」(集英社)に発表するなど、文筆でも活躍が期待される。

東 直子(ひがし なおこ)

東 直子

1963年広島生まれ。歌人。歌誌「かばん」所属。短歌のみならず小説、戯曲、イラストレーションも手がける。
1996年、短歌連作『草かんむりの訪問者』で第7回歌壇賞受賞。同年に刊行した第一歌集『春原さんのリコーダー 』(本阿弥書店/ちくま文庫)が『春原さんのうた』として映画化。
第31回坪田譲治文学賞受賞の小説『いとの森の家』はNHKでドラマ化。ベストセラーとなった小説『とりつくしま』(ちくま文庫)は劇団俳優座によって舞台化されている。
表紙イラストレーションも提供した、佐藤弓生・千葉聡との共編著である短歌アンソロジー『短歌タイムカプセル』(書肆侃侃房)には枡野浩一も参加。
第二歌集『青卵』(本阿弥書店/ちくま文庫)ほか著書多数。穂村弘との『回転ドアは、順番に』(全日出版/ちくま文庫)など共著も多数。最新刊は絵本『わたしのマントはぼうしつき』(絵・町田尚子/岩崎書店)。

枡野 浩一(ますの こういち)

枡野 浩一

1968年東京生まれ。
音楽ライター、コピーライターを経て、1997年『てのりくじら』(実業之日本社)他で歌人デビュー。
短歌小説『ショートソング』(集英社文庫)は小手川ゆあ作画で漫画化され、漫画版はアジア各国で翻訳されている。短歌入門『かんたん短歌の作り方』(ちくま文庫)など著書多数。
杉田協士監督の長編映画『ひかりの歌』に出演したほか、五反田団、FUKAIPRODUCE羽衣などの舞台出演経験も。最後に出した短歌作品集は2012年、杉田協士の撮り下ろし写真と組んだ『歌』(雷鳥社)。
昨今は目黒雅也の絵と組んだ絵本を続けて出版しており、最新作は内田かずひろの絵と組んだ童話集『みんなふつうで、みんなへん。』(あかね書房)。
ライターとして今回の座談会の構成も担当。