苦手から始める作文教室

第19回 友達と読書

本連載の最後の2回は、書くことと読むことについて考えます。今回は、津村さんが子どもの頃どんなふうに本を読み始め、今に至るのかを紹介します。

 この連載は、今週と来週の主題の話をして最後になります。最後の主題は、本を読むことについてです。

 自分もたくさん本を読んでいる人と比べたら、それほど読んでいるほうでもないので、本を読むことはいいのでみんなどしどしやってください! と言える立場でもないのですが、本を読むことに向いている人は確実にいるので、自分も作文を書いてみようかな、とか、作文はやらないけど、まとまった量の文章を読んでいるとなんか落ち着く、という人は、よかったら本を読んでくださいという話です。

 本を読むことをおすすめする前に、わたしが本を読み始めた頃にどういう子供だったかということについて書きたいと思います。似たような状況にあった人、今そうであるという人は、本を読むことに向いているかもしれないので、べつにそんなもの知りたくないよ、と言わずにちょっと読んでみてください。

 わたしは、幼稚園だとかそれよりちょっと前の頃はあまり友達に恵まれていたほうじゃなかったと思います。隣の家に3歳年上の女の子が住んでいたのですが、一応遊んではくれるものの、年下のわたしがつきまとうことをなんとなくいやがっていました。できれば同じ年齢の女の子と遊びたいのですが、いちばん近くにいるのがわたしなので遊ぶ、という感じです。これはまったく仕方のないことで、悪いことをしたなあと今は思います。わたし自身だって、反対側の隣の家の、すぐに泣く2歳年下の女の子と遊んだってそんなにおもしろいと思いませんでしたから。

 わたしは、地元から少し離れたところにある幼稚園に通っていて、幼稚園の友達がみんな子供同士では遊びに行けない、電車だとか車を使わないと会いに行けない距離に住んでいて、同い年の友達が近所に一人もいなかったので、隣の家の女の子につきまとっていたように思います。隣の家の女の子も、いつも3歳年下のわけのわからない子と一緒にいて楽しいわけはないですし、彼女が同年代の女の子と遊ぶ時は、わたしは一人で家で遊んでいたように思います。

 わたしは、お人形遊びも好きでしたし、紙の着せかえもたくさん持っていましたし、ぬりえもよくやりました。そういう子供なりの趣味の一つの中に、本を読むことが入っていると母親が気付いたのは、幼稚園の年少さんの時だったと思います。同じぐらいの時期に、全10巻の動物図鑑を与えられて、それでまずはカタカナを覚えて、動物の名前にひらがなをつけてもらうことでひらがなを覚えて、絵本を読むようになりました。おそらくですが、母親からしたら、幼稚園児のわたしがもっとも長く時間を過ごせる趣味が「本を読むこと」だったのではないかと思います。要するに、本を読ませていれば、わたしは長い時間静かだったわけです。

 ちなみに、わたしの母親はまったく本を読まない人です。ですが、本を好きな子に本を与えるとしばらく静かにしている、という効果を評価することにして、図書館に連れて行ってくれたり、絵本に始まって、伝記や物語といった字の多い本を買ってくれるようになりました。

 隣の家の女の子がけっこう年上だった、という理由で、わたしは本を読むようになったとも言えます。いつも一緒にいてくれる同い年の友達がいたら、もしかしたらわたしは本を読まなかったかもしれません。つまり、最初から人間関係に恵まれていたら本を読まなかったかもしれません。一応ことわっておきますが、人間関係に恵まれていても本を読む人はたくさんいるので、「本を読むのが好き=人間関係に恵まれていない」ではありません。ただ、わたし自身に関しては、いちばん近い友達が年上で、思う存分一緒にいてくれる人ではなかったので、本を読むようになったように思います。

 小学生になって、遊んでくれる友達が近所にたくさんできるようになっても、わたしは本を読むのが好きでした。その後、本を読むことに匹敵するぐらい重要な趣味になったのはゲームです。任天堂が〈ファミコン〉を発売したのは、わたしが小学校低学年の時でした。わたしは、ゲームの攻略雑誌を隅から隅まで読みふけり、紹介されているやったことのないゲームのことをひたすら考えていました。ゲームの攻略雑誌も立派な「本」だったのだと思います。

 ゲームと親和性が高いのはライトノベルだと思うのですが、その傾向は三十数年前に始まりました。わたしは、小学校高学年から中学2年にかけては、ゲームの攻略雑誌で紹介されるライトノベルを読むようになりました。ただ、当時はライトノベルの黎明期で、それほど数がなく、自分が読む速度に本の発行が追い付きませんでした。でも、図書館に行くと本自体はたくさんありましたので、わたしは「大人が読むもの」と思っていた一般文芸書を「開拓」することにしました。何を読んだらいいのかまったくわからなかったので、タイトルがおもしろい本から読んでみることにしました。

 わたしが最初に読んだ「大人が読む」文庫本は椎名誠さんの〈わしらは怪しい探検隊〉という本です。普段はべつのことをしている20代からおじさんぐらいまでの年齢の人が、休みに無人島に探検に行っている様子だとか、それにまつわるあれこれが楽しく書かれている本なのですが、中学生のわたしは、内容以上に「文章そのものがおもしろい。笑える」ということに驚きました。それまで、本を読んで笑う場合は、書かれている出来事に対して笑うのが普通だったからです。文章が、文体が笑える、漫才を聞いているように笑えるという体験をしたことがありませんでした。

 それからわたしは、大人が読む本を読むようになり、そのまま大人になり、今に至ります。

 最初の方は、「近所の友達が年上だったので本を読むようになった」と一般的なことを書くようなふりをして、小学生以降は普通の読書歴の話みたいになってすみません。ただ、この人は、友達がいる時もいない時もずっとなんか読んでるんだな、と感じていただければありがたいです。本を読むということは、友達がいる時もいない時も、その人自身の友達になってくれる行為だからです。