もしも家を建てるなら

第十三回 家の外に屋根がある便利さと面白さ
名前はまだない半屋外、その魅力とは【プランを描く⑥】

屋内と屋外の間に「半屋外」というべき屋根のある場所を設けることで、住みやすさは段違いにアップします。近ごろは屋根付きの屋外スペースを提案するハウスメーカーも出てくるようになりました。でも個人の施主には、まだ認知度が低い。屋外スペースのメリットを探ります。

遠い心配、近いリスク

 思いこみとは厄介なものである。

 落ち着いて考えればそんなはずはないのに、いったんひとつのイメージにとらわれてしまうと、それ以外の可能性が頭から消え失せてしまう。家づくりの現場でいえば、さしずめ「世界はいつも晴れている」というのも思いこみのひとつだろう。

 総務省統計局のデータ(2016年度)によると、わが国で一年間に雨や雪が降る日数は全国平均だと122日になるという。じつに1年の1/3は天気が悪い計算になる。しかし、雨や雪の日に備えた家づくりをする人は思いのほか少ない。とくに年間を通じて温暖な地域に住む人ほどその傾向が強いように思う。

 先日、元大工で現在は一級建築士事務所を構えている50代の男性設計者と数年ぶりに再会した。近況を報告し合うなか、彼は人生で初めて犬を飼いはじめたと教えてくれた。ゴールデン・レトリーバーである。いまは犬の散歩が日課のひとつに加わったという。

 ある雨の日、彼は久しく着ていなかった合羽を着こみ、愛犬を連れていつもの散歩コースに出た。ひと回りして自宅に戻ると、玄関で犬の脚を拭いてやろうと前脚に手を伸ばした。すると、三和土の上のゴールデンはでっぷりとした図体をブルブルっと振るわせ、カラダにしみこんだ雨粒を脱水機のようにふるい落とした。狭い玄関は床といわず壁といわず、たちどころに水浸しとなった。

「あぁそうか、家というのは雨の日の犬の散歩のことも考えて設計しないとダメなんだなって、そのとき初めて気づきましたよ」

 長年、住宅の図面を引いているプロといえども、雨天を想定した設計には意外と無頓着だったりする。

 気心の知れた建築家たちと酒席を囲んでいると、「こういうお施主さんはちょっと苦手だな」という話題で盛りあがるときがある。メンバーは変われどいつも多くの賛同を得る「苦手なお施主さん」のひとりが、遠い心配ばかりする人である。

 まだ30代の若い夫婦が、打ち合わせのあいだ中ずっと、50年後に訪れるかもしれないどちらかの介護生活を心配している。「ホームエレベーターを設置するならどこがいいでしょうか」「車椅子でこの廊下の角を曲がれますか」「家中の段差は全部なくしておいてください」。

 たしかに将来への備えは大切だが、設計側の本音を言えば「いま、そこまで考えなくてもいいんじゃないの?」。50年後も同じ家に住み続けているとは限らないではないか。

 そういう施主にかぎって、明日やってくるかもしれない「雨が降る」というリスクについてはさほど関心がない。濡れた傘はどこに置くのか、泥のついたブーツはどこで洗うのか、洗濯物はどこで干すのか。こちらのほうがよほど切迫した問題のように思われるが、完成予想図のバックに広がる青々とした空が目に焼きついているのか、すべては設計者まかせとなって雨降りのことなどどこかへ吹き飛んでしまう。

 

哀しき自転車一家

 取材のため、年に数度は竣工後間もない住宅を訪ねている。そういう日の午後にかぎって、なぜか雨降りが多い。

 私は最寄り駅から差してきた傘を取材先の玄関前でたたむと、どこかに置いておく場所はないだろうかと探してみる。案の定、適当な場所はないようである。

 やむを得ず玄関ドアの横の壁、それも外壁材と外壁材の継目のちょっとへこんでいる部分を頼りに立てかけてみるのだが、帰る頃には倒れていて生地にはしっかり泥水がしみ込んでいる。

 まれに大きな花瓶状の傘立てを置いている家もあるが、困ったことに私の差してきた傘は折りたたみ式なのだ。深さのある傘立てに折りたたみ式の傘を突っ込むと、これまた底にたまった水に漬物のようにひたされてしまう。

 洗濯物で考えれば分かることだが、濡れたものを乾かすにはぶら下げるのがいちばんだ。そこで思い出されるのが、ある設計事務所の玄関である。

 瀟洒なRC造の一軒家に入居していたその事務所は、雨の日に訪ねると玄関先に金属製の傘立てが用意されていた。それは傘立てというより傘の柄を引っかけるアルミ製のバーが自立したもので(パイプハンガーの縮小版)、バーにはS字のフックも何個か取りつけてあった。ふつうの傘はバーに引っ掛ける、折りたたみ式の傘は手元(ハンドル)に付属する房をS字のフックに引っ掛ける。これならどちらも安心だ。たったそれだけのことだが、雨の日の傘の処理を折りたたみ式まで含めて考えていた玄関は、いまのところその事務所だけである。

 傘立てのありようと住宅の設計は直接関係がないように思われるかもしれない。

 しかし、その家の設計者や施主が家づくりをどのようなものと捉えていたかは、竣工後の傘立てひとつを見ればおおよそ見当がつくような気がしている。一事が万事、濡れた傘に対するサポートも住宅設計の大切な一部なのである。

 その姿勢は自転車の扱いにも現れる。

 自転車という乗り物は雨に濡れると錆びる。だから住まいには、自転車を置く十分なスペースと車体を雨水から守る屋根がほしい。ところが、小さな住宅の密集する都市部では屋根つきの自転車置き場を設けるのが難しく、なかなか思いどおりにならない。理想をいえば、前面道路と建物のあいだに適当な場所を確保したいところだ。けれど、その場所はすでにクルマ1台分の駐車スペースとして確保してある。建物配置を工夫すれば自転車置き場を捻出できないこともないのだが、正直にいえばそれはとても面倒な作業だ。できれば自転車のことはこれ以上考えず先に進みたい。

 高円寺にアトリエ系設計事務所を構えるある建築家は、そのあたりの胸の内を次のように明かした。

「のちのちクレームになるといけないので一応確認はしますけど、お施主さんから『自転車は野ざらしでもいいですよ』と言われると、テーブルの下で小さくガッツポーズをキメているときがあります」

 それくらい、屋根つき駐輪場の確保は大変な作業なのである。

 施主は施主で、打ち合わせの最中は雨の日のことまで気が回っていない。自転車なんて空いているスペースに適当に止めておけばよいだろうと安易に考えているふしがある。

 その結果、どうだろう。真新しい住まいに越してきた家族の自転車4台分は、雨の日を何度か経験したあげく、幅50センチにも満たない軒下、あるいは小さなバルコニーの下、はたまた玄関ポーチに身を寄せ合うようにして止められる。そこには小さくても雨をよける「屋根」があるからだ。雨よけの必要性は、現実に雨に濡れるというつらい経験をしてみないと、なかなか実感できないらしい。

 

うちにもこういうのがほしかったんです

 前置きが長くなったが、今回のテーマは半屋外である。

「半屋外」という用語はかならずしも人口(じんこう)に膾炙(かいしゃ)したものではない。かといって、ほかによい言葉も見当たらないので便宜的にそう呼んでみる。ここでいう半屋外とは、軒下、下屋、濡れ縁のような「屋根はあるけれど壁はない」空間をイメージしている(屋根のない広めのバルコニーなども半屋外と呼ぶようである)。

 ポイントは、「屋根がある」ということだ。

 あたり前だが、屋外でも屋根がある場所なら雨に濡れない。加えて、室内でもないので多少の汚れなら気にしなくてよい。これが半屋外最大の利点である。雨の日の散歩でびしょ濡れになった犬はこういうところで拭いてやればいい。ついでに小さな足洗い場が設けてあれば最高だ。泥だらけになったサッカーボールやキャンプ用品も、半屋外空間があれば気兼ねなく片づけられる。もちろん自転車も、こういう場所に止めれば雨の日の心配がいらない。

 かつて、軒を深く出したり、母屋に下屋をつけたりする家は、日本中至るところにあった。そうすることで、木で出来た外壁や窓枠は雨水から守られ腐らずに長持ちした。ところが、外壁や窓枠が耐久性の高い工業製品に取って代わられると、建物全体を雨水から保護するという大義は急速に失われていった。気がつけば、深い軒や下屋のある家は私たちの周りから静かに姿を消していた。

 建物を雨水から守るという意味では、いまでも軒の深い家のほうが物理的に有利である。しかし、もともと70~80坪前後あった敷地を半分に割って売りに出すような時代になると、面積上の制約から軒を出すデザインが難しい地域が増えた。現在、深い軒や下屋といった半屋外空間をもつ住宅は、計画当初から明確な意図をもって設計しないかぎり自然には生まれてこないデザインになっている。

 それだけに、半屋外空間の充実した家は注目を集める。

 たとえば、茨城県南部を中心に活躍する建築家・井川一幸さんは、「敷地は70~100坪が標準」という地方ならではの特徴を生かし、半屋外空間の充実した住宅を積極的に設計されている。井川さんの事務所のホームページを覗くと、これまでの設計事例が美しい写真となってたくさん掲載されている。

「やはり井川さんのお施主さんは、半屋外空間の面白さに魅力を感じて設計を依頼される方が多いですか?」

 私が事例写真から受けた印象のままに質問すると、井川さんは少し申し訳なさそうな顔をして首を横に振った。

「いえ、ほとんどのお施主さんは、そういう部分にまったく興味を示されません。半屋外空間に関する要望があるとすれば、せいぜい雨に濡れずに乗り降りできる駐車場をつくってほしい、くらいでしょうか」

 少なくとも初回の打ち合わせでは、半屋外空間に関心を示す施主はまずいないという。だが、風向きはすぐに変わる。井川さんが事例写真を見せながらその意味するところを説明すると、施主は途端に身を乗り出してくるそうだ。

 たとえば、大きな下屋を駐車場の屋根と兼用している住宅の事例。その家は駐車場の奥が洗濯機のある洗面脱衣室とつながっている。そのため洗い終わった洗濯物は下屋まで簡単に持ち運ぶことができ、クルマの奥の空いたスペースに干せる。半屋外空間が物干し場になるので雨に濡れる心配はない。もちろん、室内干しのように洗濯物から出る湿気やにおいを気にする必要もない。いわゆる「駐車場兼物干し場」という全国的にもポピュラーな兼用空間だが、その仕掛けを説明されると施主のボルテージは一気に上がるという。

「これこれ、うちにもこういうのがほしかったんです!」

 それまでLDKと収納のあいだを行ったり来たりしていた彼らの興味は、駐車場兼物干し場の写真を見せられた途端、建物の外側まで一気に広がっていくのである。

駐車場兼物干し場のある家。クルマの後ろに吊り下げられた物干し竿に洗濯物を干す。屋根があるので雨降りが気になる日でも洗濯物を干したまま出かけられる(設計:井川一幸)