もしも家を建てるなら

第十七回 定番というサステナビリティ
ロングライフ実現に家の新陳代謝を考える素材【アウトラインをつかむ⑥】

この連載著者の藤山さんが建築専門誌の編集者時代に担当した建材の追跡調査の連載企画。それも建築家の東北・岩手の自宅新築です。なんとその家は建築環境・省エネルギー機構が主催する「サステナブル住宅賞」で、その年の住宅金融公庫総裁賞を受賞したとか。建築家はどんな素材を選んだのか、さっそく拝見してみましょう。

アルミは何からつくられる?

 大学内の小さな会議室で、私の取材はようやく本題に入ろうとしていた。

 目の前に座っているのは、岩手県立大学盛岡短期大学部の内田信平先生(都市計画・建築計画)。左胸に大学の校章が刺繍された真っ青なフリースを羽織っている。顔の下半分を覆う豊かな髭は昔から変わらない。飄々とした受け答えも、はじめてお会いした15年前とまったく同じだ。

 まずは、屋根葺き材に使用されたガルバリウム鋼板についてたずねた。

「いま頃こんな話をうかがって恐縮なのですが、そもそもご自宅の屋根にガルバリウム鋼板を使われた理由は何だったのですか?」

 先生は即座に答えた。

「屋根葺き材は、耐久性を考えると瓦がいいと思うんです。でも、こっち(岩手)は冬寒いでしょう。屋根に瓦やコロニアルを葺くと凍害でみな割れてしまいます。帰りにこのあたりの家を見てみてください。どこも鋼板葺きにしていると思いますよ。理由といえば、まあそれくらいだなぁ」

 大手ハウスメーカーから独立し、東京で建築設計事務所を営んでいた内田先生は、縁あって生まれ故郷の仙台に近い、岩手の大学教員に転身された。2001年秋のことである。当初は職員用の賃貸住宅で暮らしていたが、ほどなく大学近くの敷地を購入、自宅を新築することになった。同じく一級建築士の奥さま、当時まだ小学生だった息子さんと三人で暮らす一軒家である。

 新しいわが家を設計しながら、先生の頭にはふとこんな疑問が浮かんだという。

「そういえば、これからわが家の建築現場にやってくる建材は、どこでつくられたものなのだろうか?」

 建材の出自が気になり始めた。「どこで」だけではなかった。「何から」つくられているのか。「どうやって」つくられているのか。建材一つひとつの成り立ちまで知りたくなってきた。たとえば、アルミサッシ。それがアルミからつくられていることは知っている。だが、わが家のアルミはいったいどこからやってくるアルミなのか。日本なのか中国なのか、はたまた別の国か。いや待て、そもそもアルミの原料って何だったっけ? 何をどう加工したらアルミになるんだっけ?

 折しも当時は、食品のトレーサビリティ(追跡可能性)が叫ばれはじめた頃だった。牛肉の産地を偽装する事件がきっかけとなり、スーパーマーケットに並ぶ牛肉には1パックごとに個体識別番号が表示されるようになっていた。大根やキャベツに貼られる生産者の顔写真シールも、商品の出自を示すおなじみの仕様になっていた。ならば建材も、どこで誰が何をどのように加工して製造しているのか、あきらかにしてみるのはどうだろう。少なくとも、わが家にやってくる建材の素性くらいは自分の目で確かめておきたい。

 先生は旧知の建築専門誌編集長に、「――というようなテーマの連載を始めたらどうでしょう?」と持ちかけた。企画はすんなりと通り、すぐさま内田先生自身が自宅に使用する建材を調査する新連載、「住まいはかくしてつくられる」が動き出した。私は、その担当編集者に命じられた。

 

連載から漏れていた調査項目

 取材は先生と私、カメラマンの3人。毎月、主要な建材がつくられる現場に足を運んでは、その原料や製造法、生産体制を、川上の素材にまでさかのぼって逐一調べあげた(ちなみに、アルミの原料はボーキサイトである)。

 取りあげた建材は計16種類。住宅建築の現場では、みな昔から使われているおなじみの建材ばかりである。鉄筋、コンクリート、木材、ガルバリウム鋼板、グラスウール、インシュレーションボード、アルミサッシ、木製サッシ、ガラス、石膏ボード、ロックウール化粧吸音板、畳、便器、キッチンセット、塩ビパイプ、換気扇。

 列記するだけで地味な佇まいが伝わってくる。

 だが、その取材行は毎月濃密な修学旅行を繰り返すような刺激に満ちあふれていた。鉄筋の元になるスクラップが八戸で溶かされていると聞けば、早朝の製鉄所にもぐり込んで電気炉から流れ出る1600℃の鉄の行方を見とどけた。畳のイグサが福岡からやってくると聞けば、イグサ農家の苦労話を聞きに柳川まで飛んだ。

 そうして最後の取材が終わり、連載は書籍化され、ひと区切りがついて10年以上が経ったある日のこと、私の脳裏にふと、先生の家の外観がよぎった。そしてハッとなった。「そういえば、仕上材の取材をしていなかった」――。

 連載で取りあげた建材は、建物の根幹をなす建材がほとんどだった。そのため、建築の最終段階で登場する内外装の仕上材については、取材はおろか、そもそも内田先生の自宅にどのようなものが使われていたのかすら確認していなかった。

 鉄筋、コンクリート、石膏ボードといった、ほぼインフラのような建材の手配は、基本的に現場監督におまかせとなる。だが、建物の見た目や性能を左右する内外装の仕上材には、施主のこだわりや思想がダイレクトに反映される。建材の成り立ちに並々ならぬ執着を見せた先生が、自宅の仕上材にどのようなこだわりをもって向き合ったのか。個人的にどうしても聞きたくなった。私は東北新幹線に飛び乗り、内田先生と十数年ぶりの再会を果たすことにしたのである。

 

内田邸の仕上材が決まるまで

 先にまとめておくと、内田邸に採用された建材のうち、内外装の仕上げに関するものは、主に以下のとおりだった。

南面に広がる庭から見た内田邸。昭和の昔からそこにあったかのような佇まいが魅力

 

・内壁 珪藻土薄塗り

・床 無垢フローリング(樹種はカラマツ)

・天井 スギ板(節なし)

・勾配天井 ロックウール化粧吸音板(トラバーチン模様)

・外壁 スギ板(18ミリ厚)・縦張り

・屋根 ガルバリウム鋼鈑・縦ハゼ葺き

 ざっと見わたしての感想は、「自然素材を基調とした昔ながらの建材」である。なかでも、天井に使用されたロックウール化粧吸音板は昭和の定番といった趣で、近ごろは好んで使う人が減っているような気もする。

 私は屋根材に続き、内装材についても一つひとつたずねていった。

「つぎは、内装材について教えてください。内壁は珪藻土の薄塗りにされていますが、これはどのような理由からでしょうか?」

 先生はすぐさま答えた。

「内壁も屋根と同じで、こだわりといえるような理由はとくにないんです。北海道に知り合いの建材商社があるのですが、そこが当時、珪藻土の新製品を取り扱おうとしていました。営業の人がやってきて、先生よかったらモニターとして使ってもらえませんかと言うので、ああいいですよってな感じで使ってみただけです」

「自分で選んだのではなく?」

「ええ。たしか青森の水産会社だったと記憶していますが、陸奥湾で採れるホタテの殻が昔から大量に廃棄されていたらしく、それを引き取って珪藻土に混ぜたのだとか。その発想はちょっと面白いと思ったかなぁ。でも、その商社はいまは珪藻土の取り扱いをやめているみたいです」

「あまり売れなかった?」

「さあ、どうなんだろう。売れなかったのかなぁ……」

「床には無垢材のフローリングを張られていますが、樹種は何ですか?」

「カラマツです」

「水廻りも含めて、全部カラマツ?」

「そう、水廻りも全部。べつに腐ったりはしていませんよ。むしろ、築15年くらい経ってだいぶ色ツヤがよくなりました。ただ、マツなので思っていた以上に節からヤニが出たんです。いまは収まりましたけど。そういう意味では、マツではなくスギのほうがよかったかもしれないな……とも」

「スギは、床ではなく天井のほうに張られていますね」

「うん、なんたって軽いし安いからね、スギは。スギにした理由はほとんどそれだけ」

「でも、台所や書斎の天井にはロックウール化粧吸音板を張られているじゃないですか。これには何か特別な理由がありそうですが」

「いや、なんとなく……。考えてみれば、ロックウールの天井板って可もなく不可もない仕上材の王様だと思いません? ここ(会議室)の天井もそうだけど、天井板のトラバーチン模様って昔からずーっとあるでしょう。1960年代から瞬く間に広まったものが、いまだに現役で使われているわけです。そういうスタンダードな仕上材ってなかなかありませんよ」

「でも、人によってはトラバーチン模様が気持ち悪いといって敬遠する人もいるみたいです」

「そうなの? 私はクセのないいいデザインだと思ってこれにしたんだけど。ロングライフなデザインって、こういうものを言うんじゃないのかなぁ」

トラバーチン模様でおなじみの吸音天井板。独特の模様は大理石の一種を模したものといわれる

 

 どうにも調子が狂う。

 こちらとしては、「総合的に考えると、内装の仕上げにはこの建材がベストだと判断したんです」みたいな自信たっぷりの発言を期待していたのだが、現実は聞いてのとおりだ。日本中の建材工場を訪ね歩いた研究者にしては、あまりにもあっさりしすぎていた。これは期待外れに終わるかもしれないとあきらめかけていると、意外にもその見立てはすぐにひっくり返された。話題が外壁に移ったときである。