もしも家を建てるなら

第十七回 定番というサステナビリティ

ロングライフ実現に家の新陳代謝を考える素材【アウトラインをつかむ⑥】

この連載著者の藤山さんが建築専門誌の編集者時代に担当した建材の追跡調査の連載企画。それも建築家の東北・岩手の自宅新築です。なんとその家は建築環境・省エネルギー機構が主催する「サステナブル住宅賞」で、その年の住宅金融公庫総裁賞を受賞したとか。建築家はどんな素材を選んだのか、さっそく拝見してみましょう。

 

サイディングが苦手な耐久性

 内田邸の外壁はスギ板張りだ。幅180ミリのスギ板が、縦方向にていねいに張られている。家屋の中心からまっすぐに伸びる薪ストーブの煙突とあいまって、内田邸の外観はのどかな山小屋のような雰囲気をたたえている。

 昨今、住宅の外壁に木板を選ぶ人はかなり少ない。とくに都市部では、火災予防の観点から準防火地域、法第22条区域といった制限のかかる敷地が多く、燃えやすい木板をわざわざ外壁に使用するケースはきわめて稀だ。

 その代わり、というわけでもないのだが、日本中の住宅をもう何十年も覆っているのが「窯業系サイディング」である。建売住宅の外壁に必ずといっていいほど使われている外壁材だ。注文住宅の施主からは「プラスチックみたい」と敬遠されがちだが、材料費が安くデザインも豊富でメンテナンスの手間もかからない(と誤解されている?)ことから、1970年代の登場以降そのシェアは急速に拡大していった。

「そういえば、このあたりの住宅もほぼサイディングでしたね」

 最寄り駅から大学までの道すがら、私が目にした住宅もほとんどがサイディング張りだったと伝えると、先生はさも当然といった顔をして言った。

「木板は経年変化が激しいから、防火の制限があろうとなかろうと、いまどき好んで張る人はほとんどいないでしょう。メンテナンスフリーで新築時の姿をいつまでも留めておきたいという人は、やはり外壁はサイディングにするのが無難でしょうね」

「実際、先生のお宅のように外壁にスギ板を張った住宅はメンテナンスが大変ですか?」

 私が何の気なしに話をつなぐと、そのひと言が先生のこだわりを引き出す呼び水となった。

「いや、うちは外壁のメンテナンスってこれまで一度もしたことがないんです。そもそも私は昔から“塗装しない派”の設計者だから、スギ板の表面に保護塗料すら塗りませんでした。板をただ張っているだけです。当然、紫外線でどんどん劣化して、いまや外壁はすっかりシルバーグレーに変色しました。ただ、劣化といってもそこから雨水が入るわけでもないので、見た目さえ気にしなければ何の問題もないんです。逆に、最初から塗装をきっちりかけて新築時の見た目をできるだけキープしようと思えば、定期的な再塗装が必要になるので維持管理の作業はものすごく大変でしょうね。だったら最初からサイディングにしておいたほうがいいんじゃないか。そういう気すらします」

「でも、サイディングのような工業製品はあまりお好みでなさそうですが」

「そんなことはないですよ。東京で設計事務所をやっていた頃は準防火地域に建てる住宅も多かったから、サイディングはふつうに使ってました。ただ……、その……、なんていうのかな……」

 少し言いよどむと、先生は心の底からもやもやと湧きあがってくる思いをかたちにするように、サイディングに対するあるひっかかりを語りはじめた。

「サイディングでひとつ気がかりなのは、デザインにはやりすたりがあるところです。だから、外壁を見ればすぐに、あ、これは20年前くらいに建てた家だなとか、これは10年前くらいだなとか、ひと目でばれてしまいます。それはまだいいとして、困るのは将来不測の事態が起こったとき、きれいな張り替えが難しくなることです。サイディングに何か硬いものがぶつかって一部が割れたとしますよね。すると、築20年くらいの家だったら、同じ柄のサイディングはおそらく廃番になっているでしょうから、そこだけ似たような柄のサイディングで張り替えるしかありません」

「築20年で?」

「いえいえ、たった10年で廃番になる製品もたくさんあるんじゃないですか」

「では、ほとんどの家がつぎはぎになりますね」

「そう、それが嫌なんです。サイディングは物理的な耐久性は高いのかもしれませんが、デザインの連続性、耐久性は驚くほど低い。メーカーの一製品である以上、製品のライフサイクルという宿命がついて回りますからね。だから、私がサイディングを使うときは、いつも『無地の白』一択でした。それなら30年後もあり続けるだろうと思えたので。幸いうちの外壁はまだ無傷ですが、何かの拍子に板が割れたとしても、近所の工務店に電話して幅6寸・厚み6分のスギ板を10枚くらいもってきてとお願いすれば、必要な板がさっと揃います。もちろん色味は全然違いますよ。でも、張り替えて数年も経てばまた紫外線で色が落ちますから、だんだん周りとなじんで気にならなくなるでしょうね」

 

ありふれたレンガの強さ

 そこまで話すと、先生は急に思い出したかのように、手元にあった紙焼き写真の束をめくり始めた。新築から15年が経った内田邸の姿を見せてやろうと、私のために用意してくれていたものだ。何枚かめくると、南面のテラスを写した一枚を抜き出して私の前に差し出した。薪ストーブ用の薪が積んであるテラスの写真である。日当たりのよい、見るからに居心地の良さそうな場所だ。先生はテラスの床面を指差した。

「ほら、ここ見てください。床にレンガが張ってあるでしょう? ふつう、こういう場所には屋外用のタイルを張る人が多いと思います。でも、うちはあえてレンガにしました。これは岩手県内で営業していた瓦屋さんが、経営が厳しくなって製造をやめる直前に、最後の最後に焼いてくれたものです。うちのレンガを焼いたあと、その会社の窯はなくなりました。でも、この手のレンガは規格が決まっているから、別の会社の別の窯で焼いたレンガでも十分替えがきくんです。この先、テラスのレンガが2、3個欠けたとしても、どこかで新しいレンガを買ってきて張り直せば、また元に戻ります。それにレンガって色むらがあるから、色味が多少ちがっても違和感なくはまるんですよね」

内田邸のテラス床に張られたレンガ。いつでもどこでも手に入るレンガだからこそ、デザインの時間的連続性が担保される

 

 レンガ、スギ板、ロックウール化粧吸音板、無垢フローリング、そして珪藻土。

 一つずつ振り返ってみると、内田邸に採用された仕上材はいずれも容易に交換可能なものばかりだと気づく。レンガもスギ板もロックウールも、言い方は悪いが「ふた昔前の定番材料」だ。しかし住宅では、この交換可能という価値が日ごとに高まっていく。なにしろ、住宅のライフサイクルはプロダクトのそれよりもはるかに長いのだ。いつでも、どこからでも入手でき、容易に交換可能な仕上材は、メーカーの思惑に振り回されることなく持続的な新陳代謝を可能にする。しかも、昔ながらのスタンダードデザインだけに、物理的には古くなっても「古くさく」見える心配がない。定番ゆえのアドバンテージである。

 内田先生にとって仕上材とは、「継続性」こそがもっとも大切で重視すべき価値だったのだろう。総じて消極的な理由で集められた仕上材ばかりと思われたが、内田先生の仕上材選びはきわめて戦略的で一本筋が通ったものだったといえる。

「というふうに解釈したのですが、それでよろしいですか? 先生」

「いや、そこまではっきりと意識はしていなかったけど……」

 

 2006年6月に竣工した内田邸は、その年、建築環境・省エネルギー機構が主催する「サステナブル住宅賞」で住宅金融公庫総裁賞を受賞した。サステナブル(持続可能性)を謳いながらライフサイクルの短い製品はいくつもあるが、内田先生の自宅はその賞名どおり、必要なメンテナンスを施しながらこの先何十年もロングライフをまっとうしていくにちがいない。昔ながらの定番にはこういう強さもある。