『武器としての世論調査』リターンズ

第1回 「今」に至る世論

『武器としての世論調査』リターンズ―2022年参院選編―

普段ニュースで目にする「世論調査」の使い方を教えるちくま新書『武器としての世論調査』は、2019年6月、第25回参院選を目前に刊行されました。 あれから3年、世論は、そして日本はどのように変わってきたのでしょうか。この間の内閣支持率などを見ていきます。

4.外交・安保の争点はコロナ以前に戻った

 参院選の争点は公示後に細かく調査されることになりますが、ここでは政策課題として長い目で概観をしてみましょう。政策課題は、その時々の政治的関心をさぐるため、「希望する政策」「期待する政策」「処理してほしい政策」などが質問されています。同様の質問は読売新聞や朝日新聞なども実施しているものの、選択肢の種類や、選ばせる個数が異なっていて平均をとるのが難しいため、ここではさしあたり日経新聞の調査を検討していきます。

 

図11. 日経新聞世論調査 政策課題

 

 図11では2020年の8月から2022年の2月にわたり、「新型コロナウイルス対策」がほとんど一位を占めています。しかし5月末に行われた直近の調査で「新型コロナ対策」は23%まで落ちており、変わって上位を占めるのは「景気回復」や「年金・医療・介護」、「外交・安全保障」、「子育て・少子化対策」となっています。
 最近はウクライナ情勢をうけて、安全保障が参院選の争点になるという報道もされています。確かに図11でも、最近の数か月間を見れば「外交・安全保障」の増加は事実だといえるでしょう。けれどもグラフ全体を見れば、「外交・安全保障」の項目は2019年にも30%前後で推移していたことがわかります。
 つまりこれは、2020年以降の新型コロナによって圧迫されていた分が、最近の新型コロナへの関心の低下にともなって、以前の水準へ戻ったのにすぎないということができるでしょう。景気回復や財政健全化などの項目も同様ですし、「憲法改正」もコロナ前と比べて有意に高いということはできません。
 現在の日本が抱えている問題は根深く長期的なものです。少子高齢化も、地方の衰退も、教育や子育て環境の悪化も、産業構造の歪みや労働環境の問題も、何十年もかけて悪化してきたものであり、憲法を変えればただちに良くなるとか、デジタル化すれば解決するといったことはないはずです。むしろ思いつきでいじりまわせば多くのものがその反面として損なわれ、社会の基盤は歪められてしまうでしょう。外交・安保や憲法において、与党側が短期的な情勢を過剰に宣伝することも、野党側がそれに翻弄されることも、ともに懸念されます。

5.選挙ブーストをおこすために 

 先に、国政選挙の公示から投開票に前後して政党支持率が急上昇する現象があることに触れました。この選挙ブーストは2017年に提唱して以来、「選挙になれば支持率が上がるから大丈夫だ」などと楽観的に受け取られてしまった面があるようです。
 けれども選挙ブーストはどの党でも必ず起こるとは限りません。たとえば図4では第25回参院選(2019年)の国民民主党や、第49回衆院選(2021年)の共産党には選挙ブーストが見られません。また、立憲と維新では選挙ブーストの大きさが異なります。選挙が近づくと無党派層が減少することは確かですが、その減少した分がどこに行くのかは決まってはいないのです。
 いわば選挙ブーストとは、投票日が迫るにつれて、無党派層が各政党の支持者へと分解していく現象です。6月22日に参院選が公示されると、政治家の発言や政党の態度表明などによって、日々、刻一刻と無党派層が分解をはじめます。だからこそ、これからの時期に何を発信するのかはとても重要です。
 無党派層は漠然とした存在ではありません。その市の、その町の、一人一人の道行く人たちが、様々なことに思い悩んでいるはずです。彼ら彼女らと向き合えているのか。その言葉は響くのか。選挙に向けて無党派層が分解していく中、何をすべきなのか。候補者も、政党も、それを応援する支持者たちも、そうしたことを問いながら、自ら情勢を動かすような意味のある選挙にしていけたらと思います。
 今ある社会を変えなければならないと思うのは、この社会の中からもれてくる悲鳴や泣き声を聞くからです。選挙戦は小手先の分析や技術以前に、結局はそれをどう訴えのなかに結晶化し、人々と呼応できるか次第なのではないでしょうか。