『武器としての世論調査』リターンズ

第2回 野党共闘はどこへ
『武器としての世論調査』リターンズ―2022年参院選編―

普段ニュースで目にする「世論調査」の使い方を教えるちくま新書『武器としての世論調査』は、2019年6月、第25回参院選を目前に刊行されました。 あれから3年、世論は、そして日本はどのように変わってきたのでしょうか。この間の野党共闘の成果と課題を見ていきます。

2.立憲民主党はなぜ比例代表で議席を失ったか

 先の検討から、候補者の一本化は確かに有効であり、立憲民主党が議席を減らした原因は、党そのものに勢いがなかったことに求めなければならないといえるでしょう。以下にこの点を検討していきます。
 図3には、9年半にわたる1200件の世論調査を平均することによって、政権を手放して以降の民主党系の支持率を描きました。図には主要な出来事と5回の選挙ブーストを書き込んであります。選挙ブーストとは、国政選挙の公示から投開票に前後して政党支持率が急上昇する現象です。

 

図3.民主系の政党支持率の推移

 

 この図の中で特に支持率が大きく変化しているのは、第48回衆院選(2017年)の直前に起きた立憲民主党と希望の党の結党の時期です。2017年9月25日につくられた希望の党は、当時、民進党の代表であった前原誠司氏が事実上の合流を表明すると急速に支持率を伸ばしました。
 しかしながら希望の党は安保法を容認する立場でした。野党共闘はもともと安倍政権下でつくられた安保法の撤廃を目指して行われてきており、民進党もそのような立場で選挙を闘ってきたのです。2015年に安保法ができると、翌年に行われた第24回参院選(2016年)に向けて野党は共闘を行い、民進党も安保法を否定する立場から共産党や社民党などと選挙協力をしてきました。当時、民進党が発表した 「参院選2016 国民との約束」にも次の言葉が掲げられています。
「現政権は意図的・便宜的に憲法解釈を変更し、あいまいな要件で集団的自衛権の行使を認めました。このことは、憲法で国民が国家権力の行き過ぎに歯止めをかける立憲主義と、憲法9条の平和主義を揺るがすものです。絶対に認められません。昨年成立した安保法制の白紙撤回を求めます」
 このような立場のもとで安倍政権と対峙できるような選挙を目指してきた人たちにとって、安保法を容認する希望の党に民進党が吸収されるのは耐えがたいことでした。また、希望の党の小池百合子代表が「安全保障、憲法観といった根幹部分で一致していることが政党構成員としての必要最低限だ」としたうえで、一致しない場合は「排除します」と発言したことが反発を生みました。ここに至って、我々は一体何のために共闘してきたのかという想いの中から、「枝野立て」の声が上がります。それに枝野幸男氏が応えたとき、政党支持率は劇的な変化をおこしました。2017年10月3日に結成された立憲民主党の支持率は、たちどころに希望の党を抜き去ります。
 立憲民主党は第48回衆院選(2017年)で野党第一党となり、この党に寄せた人たちの想いは形になりました。他方で希望の党は急速に期待を失って、2018年1月には1%まで支持率が下がりました。ここで問題となるのが、第48回衆院選(2017年)で誕生した希望の党の議員たちの行方です。2018年5月には希望の党と民進党が合流して国民民主党が結成されるものの、支持率は相変わらず1%程度で推移します。つまり、このとき国民民主党は支持率に対してあまりに多くの議員が所属する状況にありました。そして国民民主党は2020年9月に分党する形となり、このうち40人の議員が立憲民主党に合流していきます。その結果、今度は立憲民主党が、支持率に対して過剰な議員を抱える状態となったのです。
 結党後のピークと比べて支持率が低いのに、そこに40人もさらに乗せたら支えきれないのは必然です。第49回衆院選で立憲民主党が議席を減らしたのはこのようにしてきちんと説明されるのであり、野党共闘で減らしたのではありません。また一部で言われているように、共産党と協力したことで支持率が低下したという事実もありません。直視すべきなのは、立憲民主党が結党の頃の期待を失っていったことなのです。

3.最大の選挙ブーストが起きた理由

 それでは、支持率はどのようにしたら伸ばせるのでしょうか。これは立憲民主党の結党初期の状況から見えてきます。図3からは、2013年以降で野党の支持率が最高となったのは、第48回衆院選(2017年)における立憲民主党の選挙ブーストであることが読み取れます。これを立憲民主党に吹いた「風」と解釈することもできるでしょう。しかしそれは、この時の立憲民主党の勢いを、単なる人々の気分のようなものとして軽んじることではありません。
 いかなる「風」が吹くときも、そこには論理があるものです。その「風」は、「我々が求めてきた共闘は希望の党のものではない」「議員たちが安易にそのように動くのなら、我々がやってきたことは一体何であったのか」という野党支持者の怒りをバネとした勢いだったのです。このときの立憲民主党の支持率の高さは、いわば希望の党があったがゆえの高さであるということです。
 立憲民主党は大きくまとまるのではなく、希望の党と割れてでも、立場を鮮明にすることによって支持率が伸びました。このことは、野党の一本化とは全く逆のことであり、選挙戦術として一本化が有効でありつつも、それとは別の大事な要因があることを示唆します。
 候補者の一本化は、野党共闘の形式の問題です。しかし他方で「何のためにまとまるのか」という内実の問題があるのです。立憲民主党の結党時にはその内実があったからこそ、支持者が懸命に選挙を支え、事前に行われた選挙報道よりも多くの接戦区を制しました。そうした内実が曖昧になれば、情熱ある選挙はできなくなっていきます。第49回衆院選(2021年)では、立憲民主党の獲得議席は情勢報道よりも少ない結果でしたが、この競り負けはまさにその点に起因するわけです。
 2020年9月に国民民主党の議員40人が合流して以降、「批判ばかりしているのではなく、保守層の受け皿とならなければ票や支持率が伸びない」といった議論が立憲民主党内ではしばしばなされます。2021年11月30日に行われた代表選挙でも、泉健太氏は批判路線から提案路線への転換を、小川淳也氏は保守層へのウイングの拡大をそれぞれ掲げました。けれども保守層にウイングを広げなければ支持率が上がらないというのは、立憲民主党の支持率が一番高かったのがどういう時期だったかということを見落としているといえるでしょう。
 すでに第1回の記事の中で、「提案型野党」の行う提案が実質的に自民党へのお願いにすぎず、結局は自民党の実績となることや、そうした提案が自民党が許容できるものに限られることを述べました。そのような姿勢では、結党時に「立憲民主党はあなたです」という言葉に呼応して、懸命に支えたような人たちがこぼれ落ちてしまうのです。「提案型野党」では、そのような熱い支持層は生まれずに、むしろ政治家とのつながりや連合などの支持団体との利害関係で狭くまとまることを結果してしまうでしょう。そうした態度では有権者全体をゆさぶる勢いも生まれずに、無党派層を獲得することもできないというわけです。

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