『武器としての世論調査』リターンズ

第2回 野党共闘はどこへ
『武器としての世論調査』リターンズ―2022年参院選編―

普段ニュースで目にする「世論調査」の使い方を教えるちくま新書『武器としての世論調査』は、2019年6月、第25回参院選を目前に刊行されました。 あれから3年、世論は、そして日本はどのように変わってきたのでしょうか。この間の野党共闘の成果と課題を見ていきます。

4.野党共闘をめぐる労働界の攻防

 それから、これまであまり注目されてこなかったテーマですが、野党共闘と労働界の話に触れない訳にはいきません。それというのも、最近は連合の芳野友子会長が自民党の本部で講演を行うなど、労働界に与党側への接近が見られるようになっているからです。連合はかつての民主党や民進党、そして今の立憲民主党や国民民主党の支持基盤ですから、このことは野党が何のためにまとまるのかという内実にもかかわる問題です。
 この話をするために、まずは労働組合の構造について簡単に説明することにしましょう。労働組合の最も基礎的な単位は、A社の組合、B社の組合というように企業ごとにつくられた組合で、これらは「単組」と呼ばれます。教育、郵便、鉄道、電力、自動車など、同じ業界の単組がまとまったものが「産別」です(「単産」とも呼ばれます)。そして最も大規模なものとして、全国的に複数の産別がまとまったのが「ナショナルセンター」です。

 

図4.単組、単産、ナショナルセンター

 

 連合はこのナショナルセンターの一つですが、現在、日本には他に二つのナショナルセンターが存在しています。一つは共産党の支持基盤をなす全労連で、もう一つは立憲民主党の左派や社民党を支持する全労協です。厚生労働省の実施した「令和3年労働組合基礎調査の概況」によると、連合に属する組合員数は688万人で、49万人の全労連、9万人の全労協を大きく上回っているため、選挙の票を考えるうえで連合は重要です。
 2022年4月21日に連合によって発表された構成組織一覧によると、連合は主として46の産別を束ねており、友好参加組織の2産別を加えると合わせて48産別となっています。このうち特に大きな産別は、参院選の比例代表に独自の候補を擁立する力を持っています。その候補者が立憲民主党所属か国民民主党所属かで分類したものを表1に示しました。

 

表1.連合の構成組織(産別)の分類

 

 表1には、各産別の擁立状況と合わせて、主な前身組織の系列も併記してあります。同盟はかつて民社党の支持基盤であった右派系のナショナルセンターで、総評はかつて社会党の支持基盤であった左派系のナショナルセンターです。連合にまとまっていく過程で複雑な再編があった産別もあるためやや大胆な分類となっていますが、いま国民民主党の支持基盤となっている産別は同盟にルーツをもつものが多く、立憲民主党の支持基盤となっている産別は総評にルーツをものが多いのです。このように、連合には右派から左派まで多くの産別が束ねられています。
 それでは次に、いま立憲民主党系と国民民主党系となっている産別を分けて、それぞれの組合員数の推移を見てみましょう。基幹労連とJAMは、2019年は国民民主党から、今回は立憲民主党からの擁立となるため図には掲載しませんでしたが、合わせて64万人が所属しています。また、候補を擁立していない産別には、合わせて128万人が所属しています。

 

図5.立憲民主党系の組合員数の推移
図6.国民民主党系の組合員数の推移

 

 図5と図6を見ると、現在、国民民主党系の産別は立憲民主党系のおよそ2倍の組合員数を抱えていることがわかります。また、立憲民主党系が組合員数をほぼ一貫して減らし続けてきているのに対して、国民民主党系は増えるという、連合そのものの質的な変化が起きていることもうかがえます。
 国民民主党は6月9日の内閣不信任決議案に反対し、内閣を支持する態度を明らかにしました。今その支持基盤となっている産別が民主党や民進党の頃から拡大を続けてきたことは、長期的な連合の右傾化を示唆するものといえるかもしれません。
 野党共闘は労働組合全体が政権に対峙する画期的なことですが、右派から左派までが共存する連合においては、それはいわばガラス細工をつくるような試みです。連合左派が自民党との対決を目指して野党共闘を動かそうとする一方で、連合右派は自民党との対決を回避するように動かしていこうとするからです。2021年の代表選挙の際に行われた批判路線か提案路線かという立憲民主党内の議論も、こうした綱引きのあらわれといえるでしょう。
 たとえ安保法の撤廃などの左派的な合意の下であれ、共闘が票の拡大につながるなら右派もメリットを享受します。しかし右派としてはあくまで選挙の際に票を集めることが主眼であり、選挙後に左派的な政策の実現を積極的に目指すつもりはないのでしょう。それでは野党共闘はフェアに力を合わせるものにならないですし、選挙の際にも肝心な点が曖昧な玉虫色の合意がなされ、支持者に不安や失望を与えることを結果しかねません。
 また、票の拡大がうまくいかなければ右派と左派が共闘する際に抱えた矛盾が噴き出すことにもつながります。自民党などの改憲勢力も、国会発議に必要な3分の2議席を確保するために、連合左派の弱体化や連合右派の取り込みを図るでしょう。内実をもち、有権者に響くような訴えができなければ、野党共闘は切り崩されるし、右側に引っ張られていくことを止められないというわけです。

5.政治に失望した人たちの組織化

 近年は労働組合の組織率が低下していますから、そうしたものは働く人たちのほんの一部が加入するものであり、自分とは関係ないのだと思われる方も多いかもしれません。組合なんて何もしてくれないと感じる方もいるはずです。どうして労働組合はそのようになってしまったのでしょうか。
 バブル崩壊を契機として新自由主義的な政策が進められると、日本の資本主義は大きく変貌していきました。労働者の権利が切り崩され、民営化や非正規化が行われ、産業のあり方や労働者の構成が変化していったのです。製造業が縮小し、サービス業の拡大が起こりました。労働者全体に占める非正規雇用者の割合も増加していきました。
 けれどもこれまで多くの労働組合はそうした人たちに目を向けてきませんでした。産業や労働者の構成が変わっていった以上、非正規雇用者に向き合わなければ組織率が落ちるのは当然です。
 自治労は公務員の組合、日教組は教員の組合ですが、公務員や教員は正規雇用から非正規雇用への切り替えが進められてきました。JP労組は郵政ですが、これも民営化されています。情報労連、電機連合、自動車総連などの製造業も縮小してきました。
 ここで図6を見ると、唯一、組合員数の拡大が見られるのはUAゼンセンであることがわかります。UAゼンセンは元をたどれば繊維産業から始まっていますが、後にサービス業へと分野を拡大し、非正規雇用者を積極的に組合員として取り込んできたのです。
 UAゼンセンが候補を擁立している国民民主党が政権を支持する立場であることを考えれば、これは右派ばかりが非正規雇用者を組合員として取り込んでいることを意味するといえるでしょう。けれどもバブル崩壊以降、30年にわたって労働者の権利の切り崩しを行ってきたのは自民党政権であり、こうした状況は非正規雇用者がみずからの権利を守ることにつながるとはいいがたいものがあります。
 ただし、ここで注意したいのは、UAゼンセンに加盟している非正規の組合員が必ずしも右派ではないことです。それというのもUAゼンセンには、就職時に必ず組合への加入を求めるユニオンショップ制を設けている企業が多いためなのです。
 UAゼンセンの組織候補が第25回参院選(2019年)で得た票は、当時の177万人という組合員数に対して26万票と少なく、組合員となった非正規雇用者の多くが組織候補に票を投じていないことがうかがえます。
 組合が自分たちのために何かをしてくれるということを日々感じられているのなら、選挙の時にも票を入れる気になるはずです。非正規の利害を代弁するために懸命に政府と掛け合って、非正規を保護する政策を引き出していくということになれば、組合員は喜んで票を入れるでしょう。けれども現実はそうではなく、むしろ非正規を拡大してきた政府を支持する立場であるわけです。組合に加盟していても、それが彼ら彼女らの利害を守ることにつながっていないのです。
 バブル崩壊の後に社会に出ていったロスジェネ世代以降、非正規雇用者などの不安定な人たちを中心に膨大な無党派層が生まれました。連合の内部であれ外部であれ、このような層が自らの利害を代弁できる組織が必要です。そうしなければ労働者の権利を守るといっても、いちばんの苦境に置かれた人たちが取り残され、労働組合は「自分たちのために何もしてくれない」よそよそしいものとみなされてしまうのです。そのような人たちが、自分たちのために組織をつくるという視点を持った時、物事は変わっていくのかもしれません。それは政治に失望した人たちが自らのために自らを組織するというテーマでもあります。
 立憲民主党が得ている票のうち、連合に由来する票はごく一角を占めているのにすぎません。けれども連合が大きな発言力を持っているのは、それが選挙運動を担い、支持基盤として固い票を与える組織であるからです。与党は与党で利益団体や宗教団体が発言力を持っています。政党や政治家がそうした団体に頼るのはそれらがまとまっているからで、ばらばらに投票に行く無党派層は常に軽んじられるのです。
 無党派層を組織化し、野党の支持基盤とすることができなければ、野党はいつまでも弱い立場を脱却することができません。政治家も様々な組織の顔をうかがったり、宗教団体の票を求めたりして右往左往し、確かな政策が打ち出せない状況が続きます。それでは内実のある選挙はできません。情勢を大きく動かすためには政治に失望した層を取り込むことが必要なのであり、長い目で見るのならそうした土台のもとに選挙をすることを目指していかないと、いつまでも受動的に「風」を待つような選挙になってしまうでしょう。

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