ちくまプリマー新書

人生には二度の危機が訪れる
『レジリエンス入門』まえがき

9月刊行の内田和俊著『レジリエンス入門』(ちくまプリマー新書)の「まえがき」を掲載します。

 人生には二度の危機が訪れると言われています。
 ここでいう危機とは「精神的に危うい時期」のことです。
 もともと人の心は、とても繊細で折れやすいものですが、特に心の折れやすい時期が
人生において二度やってきます。
 この時期は、とかく悩み事が多く、しかも悩みの種は多岐にわたります。
 なんとなく気分が優れず、些さ細さいなことにイライラしたり、落ち込んだり。
 ついつい、あれもこれもと欲ばってしまい、なかなか一つのことに専念できず、たく
さんの事に手を出し過ぎてしまったり。
 はたまた、いろいろと考えすぎては行動に移せなかったり。
 わけもなく気分がモヤモヤして落ち着かず、何かに焦りを感じたり。
 次から次へとわきあがる雑念が邪魔をして、物事に集中できなくなり、うまく考えが
まとまらなかったり……。
 心と体がうまくかみあわず、否定的な考えや不安に支配されてしまったりもします。
 人生第一の危機は思春期に訪れます。
 思春期の人たちは、多くの可能性に満ちあふれています。
 しかし、経済的には自立できておらず、非力な時期であるため、実際にできることと
いったら、ごくごくわずかなことに限られてしまいます。
 このように可能性と現実の狭間で、もがき苦しむ時期でもあるのです。
 どんな家庭に生まれるかを始め、スタート時点から差のある人生は、この時期に一度
目の「差のピーク」を迎えます。
 身体的な目に見える成長の度合いに大きな差が生じる時期でもあり、よせばいいのに、
ついつい外見上の比較をしてしまったり、さらには、明確な尺度のない幸福度や充実度
の比較にも心を奪われてしまいがちです。
 焦ってはカラ回りの連続で、すべてが嫌になり、何もかも投げ出してしまいたくなる
こともあるでしょう。
 ゲームのように簡単にリセットできればよいのですが、人生はリセットができません。
それが分かっているからこそ、余計に「イラだち」や「やるせない思い」、「やり場のな
い怒り」が強くなってしまうのかもしれません。
 ただ、この危機という壁は、なぜか私たち全員が必ず乗り越えられるようにできてい
ます。そして、この危機という壁を乗り越えて人は成長し、それに伴い喜びや幸せを手
にする機会が増えるのです。
 そして、人生第二の危機は中年期に訪れます。つまり皆さんの親の世代です。
 この頃になると、体力の衰えを切実に実感するようになります。
 そして、多くの夫婦が倦怠期(けんたいき)に突入します。
 また、様々な限界が見えてきますので、この先の人生が、ある程度、予測できてしま
うのです。
 家のローンや子供の学費、老後の蓄えも考えなくてはいけませんので、経済的にも余
裕のない時期になります。つまり大人ならではのお金の悩みが増えるわけです。
 親というものは子供が心配で心配でなりません。
 男の子であろうが女の子であろうが、優等生であろうが、やんちゃな子であろうが、
皆さんがどんな子であっても、親は子供に関する心配事を見つける天才です。
 それに加え、勤め先でも責任は増し、仕事だけでなくプライベートでも、なぜか予期
せぬトラブルが多発します。老いた親の介護問題を抱えたり、近隣とのもめ事が発生し
たり……。
 健康上の問題を抱える確率が急増するのもこの頃です。
 不安や心配事を挙げたら本当にキリがありません。
 実は著者である私も、まさにこの時期に当たります。
 この中年期、気晴らしのひとつとして、私たち大人は、皆さんのような若者を見るた
びに空想するのです。
「あの頃に戻れたらなぁ……」
 もちろん、あの頃とは思春期のことです。
 人生第一の危機は、乗り越えてしまえば、大切な思い出に変わります。たとえ、その
ときはどんなに苦しくても、それは甘美な思い出に変わってしまうのです。
 ただ残念なことに、私たち大人が、もしあの頃に戻れても、人生のやり直しはできな
いでしょう。
 同じ誘惑に負け、同じことに尻込(しりご)みし、無駄なことに時間やお金やエネルギーを費やし、多くのチャンスを逃すことになるはずです。
 もし、上手にやり直したいのなら、ある条件が必要です。
 それは、今の知恵を持って、あの頃に戻ることです。
 もし今の知恵を持って、あの頃に戻れたら、もっともっと素晴らしい夢にまで見た理
想の人生を送れることは確実です。もしかしたら世界制覇だってできるかも……。
 こんな「たらればの話」はナンセンスですね。私は「あの頃」には絶対に戻れないん
ですから。
 でも読者の皆さんは、本書の内容を実践すれば、私が今の知恵を持って、青春時代に
戻ったのと同じような体験ができるはずです。
 今よりはるかに人生がうまくいくようになります。
 未来の自分がタイムマシンに乗って今あなたのもとに戻ってきて、親身にアドバイス
をしてくれているような感覚で本書を読み進めてみてください。
 私はサラリーマン生活を経て、15年前まで英語塾の経営と予備校の講師をしていま
した。そのときはへこんだり、心が折れてしまった小中学生、高校生、浪人生のサポー
トをしていました。
 今は人材育成コンサルタントとして主に社員研修を行っています。
 また、その業務と並行して、カウンセリングも行っていて、心がくたびれてしまった
人たちのメンタル面のサポートも行っています。
 本書では、塾経営、予備校講師、そして研修やカウンセリングでの実体験をもとに、
思春期特有の様々な悩みやトラブルに対し、どのように対処すればよいのか、それをキ
ッカケにどのような成長ができるのかを解説します。
 逆境や失敗から立ち上がるヒントや勇気を手にしていただければ幸いです。

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