筑摩選書

「巨大な不可解」ストーンヘンジ
『ストーンヘンジ』はじめに

だれが作ったのか? 何のために建てられたのか? 石はどうやって運ばれたのか? その謎ゆえに多くの人びとを惹きつけてきたストーンヘンジ。この世界で最も有名な古代遺跡について、最新研究をもとに解説したのが山田英春『ストーンヘンジ』(筑摩選書)です。その「はじめに」を、ここに公開いたします。また、カラー図版多数の本書より、数点の図版もあわせて公開いたします。ぜひお読みください!


 巨石遺跡の魅力に憑かれた人は「メガリソマニア(巨石マニア)」と呼ばれる。私もその一人だ。くり返しブリテン諸島に赴き、巨石遺跡を訪れ、写真を撮り歩いた。ブリテン諸島には紀元前3000年代初頭から2000年以上におよぶ巨石文化の歴史がある。巨石文化は同時代のヨーロッパ、さらには世界各地にみられるものだが、ブリテン諸島は異様なほどその密度が高く、モニュメントの数は数千におよぶ。間違いなく、彼らこそが人類史上もっとも極端なメガリソマニアなのだ。
 見晴らしの良い平原に延々と並ぶ巨大な岩塊を眺めていると、どうして人間はこういうものをつくらずにはいられないのかとつくづく思う。人が創造行為や文化と呼んできたもの、人が人であることを主張する、原初の発語ともいうべきものを目の当たりにするような気持ちになるのだ。

『ストーンヘンジ』本文より
『ストーンヘンジ』本文より

 その中でもストーンヘンジはどこか異質だった。ブリテン諸島におびただしい数残っているストーンサークルの一種のようだが、大きな違いがある。「ストーンサークルの話をするとき、ストーンヘンジからはじめるのは、鳥類の話をするのにドードー鳥の話から始めるようなものだ」と言った人がいる。生物が進化の系統樹の一端で極端な姿を獲得し、そのまま行き詰まって絶えてしまうことがあるが、ストーンヘンジもそうしたものだったのだろうか。シンプルな構造物であったストーンサークルが、より複雑な新しい形を得たものの、それ以上展開することなく、「ドードー鳥」として終わったのだろうか。だとしたら、何がその「異形」の獲得を促し、何がその道を閉ざしたのだろう。

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