筑摩選書

「巨大な不可解」ストーンヘンジ
『ストーンヘンジ』はじめに

だれが作ったのか? 何のために建てられたのか? 石はどうやって運ばれたのか? その謎ゆえに多くの人びとを惹きつけてきたストーンヘンジ。この世界で最も有名な古代遺跡について、最新研究をもとに解説したのが山田英春『ストーンヘンジ』(筑摩選書)です。その「はじめに」を、ここに公開いたします。また、カラー図版多数の本書より、数点の図版もあわせて公開いたします。ぜひお読みください!

 本書ではこの不可解な遺跡をさまざまな角度から見ていきたい。
 まず、ストーンへンジが今どういう姿をしていて、元はどういうものだったのか、最新の研究に基づいて解説する。過去数十年、複数の考古学者によって発表されてきたテーマだが、今世紀に入って、年代についても造成のプロセスについても大きく改訂されている。
 次に、この遺跡を人びとはどう見て、どういう歴史観、世界観を投影してきたのかを辿る。ブリテン諸島の巨石文化には長い歴史があるが、巨石について考え、語る「巨石文化にまつわる文化」の歴史も深く長い。私はその両方を合わせて広い意味での巨石文化として考えたいと思う。人びとは「先史時代」というものをどうイメージしてきたのか、そのイメージは時代とともにどのように変化していったのか――。「文明以前」の世界を野蛮なものとして嫌悪しつつ、他方ではそれを純粋な文化として讃美するアンビバレントな心性や、風景、古代の建造物の廃墟などを巡る美意識の変化、「先史時代」をどのようにナショナリズムやオカルティズムに利用してきたのかなどについても紹介したい。

『ストーンヘンジ』本文より

 さらに、考古家や学者たちがどういう調査を行い、何を知ってきたのか、現在は支持を失った学説なども含めて紹介したい。真っ暗な穴に手を入れて、何が入っているか探るようなところから始まった考古学がどのような道を辿ったのか、ストーンヘンジの調査史を辿ると、その推移がわかる。同じものを触っているつもりでも、受け止め方は異なるし、解釈は多様だということもよくわかるのだ。
 そして最後に、今世紀に入って新たにわかってきたことを中心にまとめたい。巨石を作った農耕民はどこから来たのか、彼らと先住民であった狩猟採集民とはどういう出会い方をしたのか、農耕社会にどういうことが起きたのか、そして最後にどういう運命が待っていたのか――。
 近年、従来の見方を揺るがすような大きな発見が相次いでいる。このモニュメントの背景からは、人口の増大が環境に与える負荷、気候変動が社会に与えるインパクト、集団内の権威・権力やテリトリーを巡る競合、人種間の対立といったテーマも浮かび上がってきている。