鈴木家の箱

麻実子さんには、長年抱え続けたある悩みがありました。悩み抜いた末に出した結論とは……

 「胸が大きいのが悩みだ」と言うと、ほぼ100%の確率で「贅沢な悩みだ」と言われた。最近では「胸を小さく見せるブラ」なんて商品が売れているので、少し時代は変わったのかもしれない。
 でも私が若い頃は、かとうれいこや細川ふみえのようないわゆる巨乳タレントがもてはやされていた時代で、「胸が大きい=いいこと」という価値観が世間一般の大きな割合を占めていた。

 私は小学生の頃から胸が大きかった。
 小さい頃はみんな同じくらいあるものだと思っていて、自分が人より胸が大きいと気づいたのは小学校高学年の頃、近所のおばさんに浴衣を着せてもらうときに服を脱ぎ、「胸がすごく大きいね。これはタオル入れないとダメだね」と言われたときだった。
 私は人より胸が大きいのかと自覚したのだが、それに対して嬉しい感情も嫌な感情もなかった。少し大きめなんだなと思っていたくらいだった。
 中学に入ると、私の胸はどんどん大きくなり、バストサイズは93センチになった。とにかくブラジャーのサイズがない。友達がしてるかわいいブラジャーなんかにはもちろんサイズがなく、スポーツブラもキツかった。
 私は肩幅がせまいのでアンダーバストは63センチ、トップとの差は30センチ。全体的にボリュームがあるというよりは正面に突き出ているような胸で、当時はそんな胸に合うブラジャーは市販では売っていなかった。合うブラジャーは見つけられず、泣く泣くきついスポーツブラをして毎日苦しい思いをしていた。

 中学3年の頃、そんな私の悩みを知った母がどこかのバザーで『あなたの下着選びはまちがっている』というピンクの表紙の本を買ってきた。それは新宿の布論亭という下着の店のオーナーが書いた本だった。
 「サイズの合っていない小さいブラジャーをすると胸の脂肪がどんどんはみ出て背中や腕の脂肪になってしまう」という内容に驚愕した。私は体形は細身なのにその割に背中や腕に脂肪がついていた。合っていないブラジャーをしてたせいだったのかと思った。
 その布論亭という店では海外の大きいサイズのブラジャーのアンダーをお直しして、合うサイズを作ってくれるということだった。すぐに予約をして母と一緒にブラジャーを見に行った。
 布論亭にはたくさんのブラジャーがあったが、どれも1ミリもかわいくない肌色のフルカップブラジャーで、ブラ紐も普通のブラジャーの3倍くらいぶっとく、後ろのホックは4つもあり、何も魅かれるところがなくて私は泣きたくなった。
 でも私に合うブラジャーはそれしかないのだ。しかもそのブラジャーは値段も高く、お直し代を入れると3万円くらいした。今では大きいサイズのかわいいブラジャーも売られているが、その頃は本当に選択肢がなかった。
 背に腹は替えられない。これ以上背中や腕に脂肪が流れるのは嫌だったので、仕方なく2つだけ買って1日ごとに手洗いをして使うことになった。