鈴木家の箱

乳房縮小術

胸をとる決心をしたまみこさん。「日本人では珍しいレベル」の乳房肥大は、思ったより大手術になりました。

 私の胸は変貌を遂げた。小胸とまではいかないけど、とんがった異物ではない、普通の人の胸の形になっていた。
 夢にまで見た普通のおっぱい、傷だらけだろうがなんだろうが私は大満足だった。
 退院して家に帰ると、すぐに息子とお風呂に入った。エグいかさぶたがついている私の胸を恐がるかと思いきや、息子はまったく気にしてなかった。旦那は「おーエグいね」と言っていたけれど心配する様子もなく、家族は普通に受け入れてくれた。
 ただ1人父だけは傷を写真で見せただけなのに「あー気持ち悪い」「近寄らないで」「化け物」と私から逃げ回っていた。父は傷や血が大の苦手なのだ。嫌がる父が面白かったのでずっと追いかけた。

 次の日からは息子を自転車で幼稚園に送れるほど普通の生活に戻れた。
 息子が幼稚園でいろんな先生に「ママおっぱい取ったんだよー」というのが困ったが、まあ誰も聞いてもこないし堂々としていた。
 それから何カ月が過ぎ、傷も落ち着いてかさぶたが取れて薄いケロイドのようになった。ケロイドを直すテープを貼るのを勧められたが面倒くさくてやらなかった。
 私は、大満足だった。人生初めてのノーブラでいてもつらくない。シャンプーしても小走りしても痛くない。本当の黄金期がやってきたのだ。
 思い出すと二度とやりたくないと思うつらさだったけど、手術をしてよかった。傷だらけのおっぱいだけど、人生が変わって、生活の質が上がったのだ。本当にやってよかったと毎日心から思った。
 胸を手術してからは友達に完成版を披露することが多くなった。一度「本当に悩んでたんだ?」と友達に言われて衝撃だった。仲の良い友達にもこんなに理解されていなかったんだと知り、胸が大きい悩みはそれほど理解の難しい悩みなんだなと思った。

 友達に胸を見せるたびに「乳首上すぎない?」という台詞が返ってくる。「二等辺三角形なのに?」と私は思っていたが、たしかに自分で見ても乳首の位置が高い気がした。いわゆるブラトップといわれる、乳首があるだろうところの少し上に乳首がついてるのだ。
 ブラジャーをつけてみると乳輪の上のほうがはみ出す。「あれ? おかしいな?」と思いつつも心のどこかでは分かっていた。「先生、乳首上すぎたよ……」
 明らかにここにあるべきってところの2センチ上くらいに乳首がある。
 友達はみんな大爆笑だ。私も大爆笑だ。
 傷が残るのはわかってたけど、乳首上すぎるのは聞いてないよ。
 でもまあいい。こんなオチがあるのも私らしい。
 巨乳を脱出して、人から見られず、ジャンプーも小走りもできてたまにノーブラで1日を過ごせる。それだけで十分だ。

2023年4月13日更新

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連載目次

鈴木 麻実子(すずき まみこ)

鈴木 麻実子

1976年、鈴木敏夫プロデューサーの長女として東京で生まれる。様々なアルバイト経験を経て美容サロンのマネジメント業につき、店舗拡大に貢献する。
その傍ら映画「耳をすませば」の主題歌「カントリー・ロード」の訳詞、平原綾香「ふたたび」、ゲー厶二ノ国の主題歌「心のかけら」の作詞を手掛ける。
現在は1児の母となり、父である鈴木敏夫をゲストに招いたオンラインサロン「鈴木Pファミリー」を運営する。