私が中学生の頃は紡木たくの漫画が大流行していて、クラス内では『瞬きもせず』や『机をステージに』の単行本を皆でまわし読みをしていた。紡木たくの描く線の細い儚げな主人公はとても魅力的で、思春期の私たちには憧れだった。
特に14歳の孤独な女の子と暴走族の男の子との純愛を描いた『ホットロード』は衝撃的で、主人公の和希と春山の大人びた会話や、踏み入れたことのない不良の世界に私たちは魅了された。今ではギャル雑誌の印象が強い『Popteen』が、暴走族のスナップ写真や体験談でいっぱいだった頃だ。
劇中で主人公の和希が彼氏の春山の名前を安全ピンで腕に彫るシーンがあるのだが、友達とそれを真似して好きな人の名前を手の甲に彫ったものだ。痛みをこらえながら名前をガリガリ彫って、油性ペンでその上をなぞって色を入れた。
痛いので軽くしか彫れず、数日で消えるかわいいものだったが、もしあのとき自分にもっと根性があって今でも手の甲に名前が刻まれていたらと思うと震え上がる。根性がなくて本当に良かったと思う。
もうひとつ、劇中で和希がやっていて流行したことがある。消毒液のオキシドールを使って、髪の毛を脱色して茶髪にするのだ。茶髪にした和希はより儚げで、どこか退廃的でかっこよかった。
私も和希みたいに茶髪にしたい。オキシドールで髪を脱色したい。和希みたいに愁いをおびた儚げ女子になりたかった。
もちろん校則で茶髪は禁止されている。私の母はルールに厳しいので猛反対されるのは火をみるより明らかだった。
その頃の私は、背中の中部まであるロングの髪の毛の、顔まわりのサイドの部分だけパーマをかけるという謎の髪型をしていた。全体にパーマをかけたら母が絶対に反対するので苦肉の策のサイドパーマだ。
サイドだけならドライヤーで伸ばすこともできるし、結んで中にしまってしまえば母からは分からない。私は自分から見える部分しか気にならないタイプなので、前から見てパーマヘアだったらそれでよかった。
しかし、茶髪はそうはいかない。メッシュに入れたってわかるし、私たちが髪を染めることに大人たちは敏感だった。
これはどうしたものか。どうしたら母にばれず自然に髪を茶髪に染めることができるのか。私は考えた。