選ばない仕事選び

第9回 仕事に選ばれたときに

浅生鴨さんの連載第9回。将来の職業を考えて進路を決めなさいって言われるけど、予測通りになんていかないのが人生。じゃぁ、どうすれば?

みんなは学校で「将来どんな職業に就きたいのかを考えて、進路を決めなさい」なんてことを言われているんだよね。どんな職業に就きたいのか、どんな仕事をしたいのかをまず考えて、そこから逆算した道筋をつくれというわけだ。まったく無茶なことをさせるものだと思う。

そもそもみんなは世の中にどんな仕事があるのかをほとんど知らないのだから、道筋なんて考えられるわけがない。目的地がわからないのに、さっさと乗るバスを決めて出発しろと言われているようなものだ。困るに決まっている。

人生は予測できない

たとえどれほど緻密に計画を立てたところで、人生はそのとおりにはいかない。思ったとおりにならないのが人生のおもしろさなのだ。

調理師になろうと思って専門学校へ通ったら、料理よりも食材に興味が出てきて、農業の道へ進むことだってあるだろう。法律を学ぶために大学へ行ったものの、演劇サークルでの活動がおもしろくなって、そのまま俳優になることだって考えられる。

僕の知人に広告の仕事をしていた人がいる。あるとき牧場の宣伝を頼まれて、一生懸命に良いところを伝えようと広告をつくっているうちに、やがてその牧場のことが大好きになってしまった。今、彼はその牧場を買い取って自分で経営している。

人生は予測できない。

僕のように、働きたくないのに周りの人から「うちで働かない?」と誘われるがまま、ただフラフラと日々を過ごしているうちに、気がつけば作家になっていることだってある。

みんなに進路を決めろと言う先生たちだって、たぶん自分が思っていたとおりの場所で、思っていたとおりの先生をやっているわけじゃないだろう。

人生は予測できない。でも、それで構わない。

出会ったときが仕事の始まり

僕は子どものころから本が好きでたくさん読んではいたけれども、まさか自分が作家になるなんてこれっぽっちも思ってもいなかったし、なりたいと思ったこともなかった。

きみたちと同じ中学生や高校生のころもそうだったし、大人になっていろいろな仕事をしながらも作家なんて職業は僕の頭の中にはまったくなかった。

四十歳を過ぎるまで、まとまった長い文章を書いた経験もなかったのに、なぜか僕は今、作家をやっている。こんなこと予測できるわけがない。

前にも書いたけれども仕事は向こうからやってくるもので、君が仕事を選ぶわけじゃない。自分で選んだつもりになっていても実は仕事のほうが君を選んでいるのだ。

いつどこで仕事に選ばれるのかはわからない。出会ったときが仕事の始まりなのだ。だから学校の先生に何を言われようとも、将来についてはあまり真剣に考えなくていいと僕は思う。別に「なんとかなるさ」と適当な言葉でごまかそうとしているわけじゃない。どうせ仕事が君を選ぶのだ。将来どんな職業に就きたいかなんてことは細かく考えず、ただ、自分は世の中に対してどう行動をする人になりたいのか、どんな人でいたいのかだけを考えていればいい。そして、いずれやってくる仕事との出会いを待っていればそれでいい。

大事なのは仕事に選ばれたときに、それに気づけることだ。ふだんから自分がどういう人でありたいのかを考えておかないと、その出会いに気づけない。

仕事に選ばれたときに

仕事が僕を選んでいるわけだから、基本的に僕は誘われたら何でもやることにしている。断るのが苦手だということもあるけれども、とにかくやってみる。まったく経験がなくても、自分には無理かもしれないと思っても、向こうが僕を選んだのだから、きっと選んだ理由があるのだろうと考えてやってみる。不思議なもので、どんな仕事だってやっているうちにだんだん自分に合っているように感じてくるし、おもしろくなってくるものなのだ。だから、みんなも機会があれば、何でもやってみるといい。どこに出会いがあるかはわからないからね。

とはいえ、もちろん僕だって誘いを断ることはある。

楽しくないとか、たいへんそうとか、意地悪そうな人がいるとか、体力が要るとか、お金があまりもらえないとか、やったことがなくて自信がないとか、実は苦手だとか、そういう理由ではあまり断らない。

けれども、自分が絶対にやりたくないこと、直感的にイヤだと感じたものは、たとえどれほど強く頼まれても僕が引き受けることはない。

人を傷つけたり騙したりするものは当然断るし、うまく法律の抜け道をくぐったり、最近よく耳にする「ライフハック」のような、ちょっとしたズルをしてお金を儲けたりするようなことも嫌いなので断る。

自分がどういう人でありたいか。世の中に対して僕はどんな行動をする人になりたいのか。ふだんから考えている自分のあり方。それが僕の基準になっている。そして、その基準だけは守りたいと思う。

僕が仕事を選ぶのではなく、仕事が僕を選んでいる。けれども僕を選ばせるかどうかは、僕が決めていいのだ。

あと、スケジュールがいっぱいで引き受けられないときも断るよ。もちろん丸一日、ずっと家でゴロゴロしていたいときもね。だって本当は働きたくないのだから。