みんな”普通

第12回 遺伝含め、諸ガチャとの付き合い方

僕たちには「持って生まれたもの」がある。せっかくだからそれを見つけてみたらどう?

僕はこの数年、写真のワークショップをひらいている。これから写真をはじめようとする人、写真をもっと楽しみたい人たちに考え方から撮り方、おもしろさを伝える場で、おかげさまでけっこうな人気がある。

そのワークショップの最後で僕が伝えているのが、「写真の才能は遺伝で決まります」ということだ。身も蓋もないよね。ちょっとがっかりした顔をする人もいるしおどろく人もいるんだけど、事実だからしょうがない。間違いなく、才能は存在するし遺伝する。

 

わかりやすい例を挙げると、世界中の野球ファンから「オオタニサン」と愛されている大谷翔平選手のお父さんは、若いころに社会人野球の選手として活躍した高身長(182cm)のスポーツマンだ。お兄さんも社会人野球で活躍していたし、お母さんは身長170cmの元バドミントン選手。

もちろん大谷選手はぐうの音も出ないくらいの練習を重ねてきてきたはずだけど、遺伝の要素があるのは明らかだよね。残念ながら、うちの息子がどれだけ野球に打ち込んでも「ハタノサン」になることはできないだろう(でも、息子は写真が好きだしうまい。おそらく僕からの遺伝だ)。

遺伝はバカにできないよ、「親がどう育てたか」とか本人の努力ではどうしようもない世界が広がってるの。保育士の知人によると、将来グレる子って5歳くらいでもうその素質が現れてたりするんだって。

遺伝については科学的にもたくさんの研究が進んでいて、専門書を読むと「ここまで遺伝で決まっちゃうの?」とおどろくようなデータがたくさん紹介されている。

これを言い換えると、僕たちには「持って生まれたもの」があるということだ。大谷選手にも、僕にも、これを読んでいるみんなにも、程度の差こそあれなにかしらの「持ってうまれたもの」がある。

 

この「持ってうまれたもの」を無視して努力したり、親からスパルタ教育をされたりすると人生はハードモードに突入してしまう。動体視力が悪い人が卓球部に入ってもなかなか勝てないでしょ。

ゼロにはなにをかけてもゼロだし、1の段の掛け算を繰り返すのもつらい。せっかくなら、5の段や9の段で勝負したいよね(ちなみに、勉強は「やれば伸びる」って洗脳されてる人が少なくないけど、スポーツと同じように才能がものを言う世界だったりする。残念ながら勉強に向いてない人はけっこういる)。

だからまず大事なのは、自分の「持ってうまれたもの」を見つけることだ。どんな作業が向いていて、何が好きで、何をしているときが楽しいか。

向いてるものや好きなものを人生に取り入れると、成果を挙げやすかったり、認めてもらえたり、楽しく過ごせたりと、イージーに生きやすくなるよ。自分の得意はだれかの苦手だし、自分の苦手はだれかの得意だから、堂々と持ちつ持たれつでやっていこう。

で、さらに大切なのはここから。自分の「持って生まれたもの」を見極めるうえで、「何者か」を目指さないことだ。「自分の隠れた才能は」とか「寝食を忘れるくらい夢中になれるものは」みたいに、「めちゃめちゃ秀でたところ」を見つけようとしないこと。

僕たちはたいてい凡人なわけで、凡人が楽しく生きていくうえでは「まあまあできる」「比較的好き」くらいの温度感で十分だ。トップランナーは目指さなくていいよ。僕だってあらゆる賞を総ナメしてる日本一のフォトグラファーってわけじゃないけど、毎日ハッピーだもん。

他人と比べるんじゃなくて、「自分比」で向いてることや好きなことを把握する。で、それが見つかったら、素直にその道をずんずん進む。それが、凡人が幸せに生きていく道だ。

 
 

ただ、トップランナーを目指すわけじゃなくても人生の中で「これをがんばりたい」ってときはある。せっかくだから「やる」と決めたことを実現するための普遍の心得も伝えておくと、「メインストリームの真面目な努力をすること」だ。

これは友人のお医者さんが言ってたことなんだけど同意しかないし、至言だとおもう。小手先のテクニックに逃げると、ものにならないんだよね。

「メインストリームの努力」は、医学で言うところの「標準治療」みたいなものだ。標準治療っていうのは科学的根拠(エビデンス)のある最良の治療法のことなんだけど、癌になってびっくりしたのは、世界中の知を結集した標準治療を疑ってオリジナルのトンデモ治療法を編みだす人がめちゃめちゃ多いことだった。

これと似た現象は、あらゆるジャンルで起こっている。たとえば写真。インターネット上にはトンデモ技術論が溺れるほどあふれてるけど、どれもこれもプロの世界ではまったく通用しないんだよね。

飛び道具的なスキルは瞬間的に上達した気になれるけど、役には立たない。英語学習だって、単語や発音、文法、あと実践の愚直な積み重ねの先にしか「ペラペラ」はないでしょ。

画期的な方法があるって信じたい気持ちも、最低限の努力で済ませたいって気持ちもわかる。でも、残念ながら王道に勝る道はないよ、だって王道なんだもん。コスパもタイパも悪く見えるかもしれないけど、コツコツ積み上げる道こそ最短距離になる。

人生では、びっくりするくらい小手先って通用しない。時間を無駄にしないためにも、ど真ん中の努力をおすすめします。どんなに才能があって、好きで、向いてることをやっていてもね。

 

自分が何を持っているか把握する。やると決めたらメインストリームの努力をする。

今回書いたこの2ステップを意識すると、種のないところに水をやり続けたり、肥料に見せかけたただの水を与えたりするようなことがだいぶ減るとおもう。せっかくなら元気な植物を育てたいよね。

ちなみに、「自分の持っているもの」を把握するとき、「持って生まれたガチャ(遺伝)」に加えて「外的ガチャ」にも目を向けてみるといいよ。

たとえば、早生まれ。日本では早生まれってめちゃめちゃ不利なんだよね。同じクラスの4月生まれと3月生まれの子では、成長が早い前者のほうが何かに抜擢されたり自己肯定感を得たりしやすい。だから、結果を出してるスポーツ選手は4月生まれが多い。

ほかにもいろんなガチャがあるんだけど、自分で変えられないことでも「ああ、だからか」って納得できるだけでもちがうし、自分なりの戦い方も見えてくるはずだ。ということで残りの夏休み、「自分の持ち物」の確認をしてみるのはどうでしょう。