ちくま新書

ビジネス教養としての「現代史」決定版!
出口治明『人類5000年史Ⅵ 1901年~2050年』試し読み・目次

世界史を千年紀ごとに一望する全6巻ついに完結! 人類の叡智や過誤、戦争、経済、宗教……「システム」としての通史が見えてくる。最終巻となる本書では1901年~2050年の世界を見ていきます。20世紀を扱う第13章冒頭と、目次を公開します。
 


第五千年紀の最後の100年である20世紀、それは2つの世界大戦と冷戦の時代でした。 第一次世界大戦は、1914年、サラエボで、オーストリア=ハンガリー帝国(以下、オーストリア)の皇位継承者であるフランツ・フェルディナントと妻のゾフィー・ホテクがセルビアの青年によって暗殺されたことがスタートでした(サラエボ事件)。

この事件をきっかけとしてオーストリアはセルビアに最後通牒を突きつけます。セルビア側は大筋で要求を受け入れましたが、一部留保をします。これを不服としたオーストリアはセルビアに宣戦を布告、オーストリア対セルビアの戦いのはずが、結果的には中央同盟国(ドイツ、オーストリア)対連合国の第一次世界大戦に繫がって行きました。
 

第一次世界大戦(塹壕戦)

第一次世界大戦はアメリカの参戦によって1918年、連合国の勝利に終わりました。4つの帝国(ドイツ帝国、オーストリア帝国、オスマン帝国、ロシア帝国)が崩壊します。

原点にあったのは、前世紀のアヘン戦争以降、世界をリードしてきた大英帝国及びフランスにおいて、猛烈な勢いで国力を急膨長させてきたドイツを、どのように位置づけていくかという問題だったと思います。このドイツに対して賢明な対応策が出せぬまま、英仏は第一次世界大戦に突入しました。そして、その戦後処理において、フランスの普仏戦争における復讐心をそのままぶつけたような過酷な賠償をドイツに課したことが、第二次世界大戦勃発の最大の構造要因であったと思います。満洲問題で世界的に孤立した日本も枢軸国(ドイツ、イタリア)側につきました。日独という枢軸国側のグループ、アドルフ・ヒトラーという特異な人格の登場は、歴史の一つの綾であったのでしょう。
 

第二次世界大戦(クルスクの戦い=戦車戦)

そう考えると、二つの世界大戦は、ひと続きであったと理解すべきだと思います。ドイツにおける第二次世界大戦の勃発は1939年に起きました(対ポーランド)。英仏も同時に参戦しました。

日本では1937年に日中戦争があり、1941年にはアジア・太平洋戦争があり(独伊もアメリカに宣戦)、原子爆弾も落とされているので、第二次世界大戦を重視しがちです。しかし、実際には第一次世界大戦の戦後処理のなかに、第二次世界大戦の原因が内在していたわけで2つの戦争は因果関係のあるものでした。

アメリカのフランクリン・ルーズベルト大統領は固い決意を秘めていました。連合国のリーダーとして、早くから戦後の世界の枠組づくりに取組みます。いずれも1944年、アメリカで開催されたブレトンウッズ連合国通貨金融会議(45カ国参加)で、国際通貨基金(IMF)及び国際復興開発銀行(IBRD)の創設を、ダンバートン・オークス会議(アメリカ、ソ連、大英帝国。二度目はアメリカ、大英帝国、中国)で国際連合の5つの安保理常任理事国を決めました。

戦争は1945年に終わりますが、ルーズベルトはもうこの世の人ではありませんでした。しかし、80年弱、時が経過した後も、国際連合と国際通貨基金及び国際復興開発銀行は、太い柱となり我々の生活を支えてくれています。

1913年(第一次世界大戦勃発直前)と1950年(第二次世界大戦終結5年後)の世界のGDPをご覧ください。すでにアメリカは1913年の時点で、超大国になっていたことが分かります。もはや、アメリカ抜きで世界秩序を考えることは不可能になっていたのです。そして、第一次世界大戦後の枠組づくりに失敗したウィルソンが、間接的にルーズベルトを育てました。

もう一つ、第一次世界大戦直前の新興ドイツの成長ぶりが、いかに大英帝国やフランスを圧迫していたかもよくわかります。また軍艦比率問題で米英と張り合った日本の数字を見ると、その要求の無分別さに気づくと思います。

第一次世界大戦は総力戦でした。つまり、軍事力だけではなく、国全体の経済力、生産力で争う戦争です。ということは、極論すれば国力はもはや軍事力ではなく、国力≒GDPの世界に入っていたのです。日本がアメリカと互角に戦うことは不可能でした。第二次世界大戦後、世界は名実ともにアメリカの世紀になっていきます。

第二次世界大戦は、1945年にアメリカを始めとする連合国の圧勝の内に終わりました。しかし、休む間もなく冷戦が始まります。英国のチャーチルは、1946年、早くもソ連・東ヨーロッパ諸国を「鉄のカーテン」と非難しました。

資本主義陣営(西側)と共産主義陣営(東側)の対立です。「冷戦」下の戦争は、朝鮮やベトナム、アフガニスタンなどで局地的な代理戦争として争われました。ソ連は総合的な国力ではアメリカに敵わないので、特に軍事力と宇宙開発に注力します。ときにはソ連が勝つこともあり、それにアメリカが刺激されてアポロ計画が生まれたりもしました。この点で、冷戦は多くの科学技術を発展させました。

ソ連は、勢力圏の東ヨーロッパ諸国の反抗を容赦なく戦車で踏みつぶしましたが、それに対してアメリカは介入しませんでした。ソ連は1949年に核実験に成功して以来、アメリカと並ぶ強力な核保有国と成ります。冷戦下においては、どちらかの陣営内に収まっていれば、それなりに安定が保障されました。究極的には核の抑止力が、両陣営の全面衝突を防いでいたのです。

この冷戦のバランスを崩したのは1970年代のオイルショックでした。オイルショックへの対応によって自由経済と計画経済の優劣が明らかになり、それを理解したソ連のゴルバチョフは冷戦の終わりを決断しました。それは、1989年の事でした。こうして、1945から50年近く続いた冷戦は、アメリカをリーダーとする資本主義陣営の勝利で幕を閉じます。なお、共産主義陣営は1991年に崩壊しました。

アメリカの国際調査局のレポートUSCB(2008)によると、1950年の人口は25.6億人、2000年は60.8億人、2025年(推計)は、80.3億人に達する見込です(2022年には、80億人を超えました)。前世紀から今世紀はじめにかけては、地球上の人類はかつてない規模で繁栄を謳歌しました。しかし、気候変動(大気中の温室効果ガス濃度を安定化)に係わる動きを一目みれば、警鐘が鳴らされていることが分かります。気候変動枠組条約締結国会議(COP)は、1992年にブラジルのリオデジャネイロで開催された国連地球サミットで合意されました。

画期的だったのは、2015年にパリで開かれたCOP21でした。先進国だけでなく途上国を含むすべての主要排出国と地域に削減努力、すなわち「産業化前からの目標平均気温上昇2℃(できる限り1.5℃)以内」と定めたことです。

2016年4月に署名式が行われ、日本、アメリカ、中国、ロシアを含む175の国と地域が署名しました(同年11月パリ協定正式発効)。

けれど具体化はまだこれからです。2023年のCOP28はアラブ首長国連邦のドバイで開催されました。1.5℃目標の実現に向かうための合意がなされ、グローバル・ストックテイクとして成果文書が検証されました。2035年目標へ向かう宿題が課されたのです。

20世紀の出来事を見ていきましょう。

(続きは本書にて)
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【目次】
第十三章  第五千年紀後半の世界、その5
     二〇世紀の世界(一九〇一年から二〇〇〇年まで) 
 
(1) 第一次世界大戦

日英同盟と日露戦争/日露戦争の幕引きと日比谷焼き討ち事件/
英仏協商及び英露協商から三国協商へ/アジアの動き
第一次世界大戦が始まる/ロシア革命/第一次世界大戦の結末

(2) 戦間期
ヴェルサイユ体制の問題点/ワシントン会議/つかのまの平和  
日本の満洲侵略(柳条湖事件)から五・一五事件まで/ヒトラーの権力掌握 
第三帝国の誕生/二・二六事件/西安事件から日中戦争へ/ミュンヘン会談

(3) 第二次世界大戦
第二次世界大戦勃発へ/日本がアジア・太平洋戦争を始める 
アメリカの国力が世界大戦の帰趨を決めた/イタリアはドイツに宣戦布告
ドイツ・日本の降伏で第二次世界大戦は終結

(4) 冷戦の時代
第二次世界大戦直後の東アジア
早くも激化する東西対立、チャーチルの「鉄のカーテン」演説
マーシャル・プランとコミンフォルム/ソ連のベルリン封鎖と第一次中東戦争
ソ連の原爆実験と中華人民共和国の成立/朝鮮戦争と日本の復帰
アメリカの水爆実験と第三世界の台頭
アジア・アフリカ会議の開催とフルシチョフのスターリン批判
スエズ運河の国有化とハンガリー動乱/スプートニク一号の打ち上げに成功
ド・ゴールがフランス大統領に就任(第五共和政)、ピッグス湾事件
ソ連のロケットが月面到達、フルシチョフは得意の絶頂へ
戦後の世界秩序が固まった一九六〇年
ケネディの登場、ガガーリン宇宙へ、ベルリンの壁
キューバ危機、アデナウアーとド・ゴールの見識、部分的核実験禁止条約
ベトナム戦争/日韓基本条約と文化大革命
ベトナム戦争の泥沼化、人心が荒れていくアメリカ
第三次中東戦争、日本の名目GDPが世界第二位に
中ソの武力衝突、ブラントの東方外交/米中の関係正常化とキッシンジャーの中国訪問 
ウォーターゲート事件からベトナム戦争終結へ
ピノチェトのクーデター、第四次中東戦争とオイルショック
東西ドイツ基本条約、G7サミット/鄧小平体制、日中国交正常化
サーダートによるイスラエルとの和平
中国の先富論、イラン革命、ソ連のアフガニスタン侵攻
ユーゴスラビア内戦とイラン・イラク戦争/鄧小平はキングメーカーに
ゴルバチョフの登場、プラザ合意/冷戦の終結(マルタ会談)
ソ連の崩壊と消滅、湾岸戦争/冷戦勝利宣言と地球サミット

(5) 新しい動き
オスロ合意/ソマリアの内戦、フォチャの虐殺、ルワンダ大虐殺、アメリカはベトナムと国交回復
上海協力機構、アジア通貨危機、京都議定書/EUがユーロ導入
二〇世紀の後半は冷戦の時代だった。その後に平和の配当が生まれた
 
終 章 第六千年紀の世界(二〇〇一年から二〇五〇年の世界)

どしゃ降りの雨で始まった第六千年紀
アメリカの同時多発テロ事件(9・11)/リーマン・ショック
アラブの春/世界は確実に良くなっている/二〇五〇年の世界
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