選ばない仕事選び

第11回 好きを仕事にしなくていい

浅生鴨さんの連載第11回。好きなことを仕事にしたら頑張れるんじゃない?と思った君、立ち止まってよく考えてみよう。その好きは本当??

ああ、働きたくない。ずっとソファやベッドでゴロゴロしていたい。好きなときに本を読み、気の向くままに海外ドラマを観て、あとはおかしなことを考えているだけ。そんなふうに生きていきたい。ああ、僕は本当に働きたくないのだ。

いくら願っても、この時代に生きている以上、なかなかそう上手くはいかない。いろいろな理由で僕たちは働かなければならない。じゃあ、どんなふうに働けばいいのか。

好き嫌いから考える

前回、僕が仕事選びの要素をいくつか挙げたのは覚えているだろうか。その中でも、特にみんなによく考えてもらいたいのが好き嫌いだ。

好きなことを仕事にすれば、きっと楽しいし、夢中でやれるはずだし、少しくらいキツくてもがんばれるだろう。その反対に、嫌いなことが仕事だったら、やる気だって起きないし、ダルいし、絶対続かないに決まっている。たぶんみんなは、そんなふうに思っているだろう。

それはある意味で正しいと僕は思う。好きだけれども上手くできない、向いていないってことはある。それでも、それが本当に好きならば少しくらい難しくても何とかしようとするだろう。

だから、大人たちから「将来どんな仕事をしたいのかを考えなさい」と言われたら、まずは自分が好きなことや興味のあることから考え始めるんじゃないかな。つまり好き嫌いから仕事を考えようとするわけだ。

好き嫌いなんてわからない

ここでの問題は、将来自分が何をしたいのかがわからないのと同じくらい、僕たちは自分の好き嫌いをわかっていないってことだ。そりゃそうだろう。やったことがないのだから、好きか嫌いかなんてわかるはずがない。

この連載で何度か繰り返しているけれども、この世の中にどんな仕事があるのかを君は知らない。僕だって知らない。僕たちが知っているのは、テレビや映画で見たり、周りの大人たちから聞いたりして、頭の中でつくりあげたイメージでしかない。その仕事が好きか嫌いかは、やってみなければわからない。実際にはどんな仕事なのかをわかっていないのに、好きか嫌いかがわかるなんて、おかしいと思わないか。

自分で決めていない好き嫌い

実は僕たちが何かの好き嫌いを判断するとき、その多くは自分だけで判断していない。実は自分以外の他人の好き嫌いに影響されていることも多いのだ。

みんなが好きだと言っているから。先輩があれは嫌いだと言ったから。好きだと言うと周りが褒めてくれそう。これを嫌いだと言えばカッコいいと思われそう。テレビで人気だと言っていた。ネットで流行っている。そんな他人の好き嫌いや評価で、僕たちは案外と自分の好き嫌いを決めている。

他人に関係なく、本当に自分自身がそれを好きだったり嫌いだったりするのかは、自分でもなかなかわからない。

それに、時とともに好き嫌いが変わるってことは、みんなだってよく知っているはずだ。好きな人だって変わるじゃないか。「変わっていません!」という人もいるだろうから、それはよかったねと言っておこう。

好きを仕事にしなくていい

最近は「好きを仕事にする」なんてことを大袈裟にいう大人たちがいて、まるでそれが正しい選択のように思わされるけれども、ああいう大人のインチキには惑わされないでほしい。

声をかけられるまま、巻き込まれるまま、流されるまま僕は生きてきたから、自分からやりたいと思った仕事も、これが好きだから仕事にしてみようと思ったことも、ほとんどない。自分の好き嫌いとはあまり関係なく、僕は仕事に選ばれてきた。

ただ、そうやっていろんな仕事をやってきた僕にも言えることがある。それは、どんな仕事であっても、やってみると何かしらおもしろい面があって、好きになろうと思えば好きになれるし、嫌おうと思えば嫌いになれるってことだ。好き嫌いはころころ変わる。日によって変わるし、体調によっても変わる。上手くいけば好きになり、上手くいかなければ嫌いになる。仕事の好き嫌いなんて、たぶんその程度のものなのだ。

必要のない仕事はやがて消えてなくなっていくから、たとえどんな仕事でも、今存在する以上は、それは必要な仕事だ。だからまずはやってみる。好きか嫌いかはやってみてから考える。「好きを仕事にする」のではなく「仕事を好きにする」のだ。どうしても好きになれなければ、次へ移ればいい。

少なくとも僕は「好きを仕事にする」よりは「嫌いを仕事にしない」ほうが重要だと思っている。この場合の「嫌い」は仕事の好き嫌いじゃない。誰かを傷つけるだとか、騙すだとか、そういった生き方の問題だ。嫌いだなと感じている生き方をしそうな仕事だけは避ける。それで充分じゃないかな。