「好きなことで生きていく」とは、有名なYouTubeのキャンペーンコピーですが、好きなことはひとつだけじゃなくていいし、途中で休んでもいい。やっているうちに評価が変わってくることもある。だって、人生は長いのですから。千葉のジャガーさんの自伝『ジャガー自伝 みんな元気かぁ~~い?』(イースト・プレス)を読むと、そんな気持ちになります。
ジャガーさんは(宇宙のかなたにあるという“ジャガー星”から地球にやってきて)千葉を拠点に活動していたロックミュージシャン。その派手な出で立ちとは裏腹に世を忍ぶ仮の本業は社長、千葉のローカルテレビ局の枠を買いとり自主制作したTV番組を放送するという、当時の常識からすると異端すぎるDIYスタイルでTVや雑誌上で注目を集めました。当初はキワモノとして見られていた向きもありますが、いつしか「千葉の英雄」と呼ばれ愛される存在になりました。テレビ番組『月曜から夜ふかし』での活躍も記憶に新しいですよね。
そんなジャガーさんですが、2021年に「大好きな地球よりJAGUAR星に帰還」を発表。引退なのか休止なのか、あるいは……? 今でも「JAGUAR星に帰還」とは何を意味しているのかは謎のまま。そして同時期に発表されたのがこの自伝です。
ジャガーさん(の世をしのぶ仮の姿)が生まれたのは1944年のこと、第二次世界大戦末期の東京。東京大空襲によって家族一同煤だらけになって千葉県の長浦に疎開し、東京と千葉を行き来しながら幼少期を過ごします。描かれるのは空襲の爪痕が残る東京の街、それとは対象的に牧歌的な房総の景色、米軍ラジオから流れるプレスリー、お姉さんの働く銀座のシャンソン喫茶でうたう美輪明宏……。ジャガーさんの目を通した「戦後」の風景が読み手にも伝わってくるようです。そう、この本はひとりの男性の個人史でありながら、日本の、千葉の戦後史でもあるのです。なお、ジャガーさんは正確には「ジャガー星物」であり、「人」ではありませんが……。
ものづくりが好きで手先が器用なジャガーさんは、1968年に「
そしてジャガーさんの活動は雑誌投稿をきっかけに注目を集めていき、テレビや週刊誌でも取り上げられ、大きな会場のコンサートにも呼ばれるようになりました。そんな姿を矢沢永吉の「成り上がり」の逆を行く「上がり成り」と名付けたのはみうらじゅん。彼はジャガーさんのことを「新しい!」と、とても高く評価して(いい意味で「面白がっている」ともいう)、本書のなかでもそれは繰り返し綴られており、みうら氏はジャガーさんの人生の中でもかなり重要な人物であることが伺えます。
好景気とバンドブームに陰りが見えたころ、本業と音楽活動の両方で金銭トラブルに見舞われたジャガーさん。メディア上で人気者になっていたとはいえ、自身の音楽活動には興味をしめさずにただただ好奇の目をむける一部の人にも疲れており、失意の果てに活動を休止することに。世を忍ぶ仮の社長業に戻り、歌といえば従業員たちとのカラオケ大会くらい……という日々を過ごします(それはそれで穏やかで楽しそうなのですが)。