選ばない仕事選び

第13回 やりがいは君のもの

連載第13回ズルい大人たちに騙されないように。たくさんのやりがいを見つけること!

やっと過ごしやすくなってきたよね。いやあ、今年は5、6月あたりからやたらと暑くなっていたから、この調子で暑くなっていったら12月ごろにはとんでもないことになるぞと思っていたけれど、誰かが気づいたんだね。ちゃんと気温のダイヤルを調整してくれたみたいだ。このあたりで止めてもらって構わない。気温は24度、湿度は40%。できればこれで固定してほしい。

僕は暑いときには働きたくないし、寒くても働きたくない。ちょうどいい気候のときは、もちろん働いている場合じゃない。何度も書くけれども、僕は一年中ダラダラと過ごしていたいのだ。

最近は何をしているの?

先日ちょっとした用事があって、かつて勤めていたそれなりに大きな会社へ出かけたところ、勤めていた当時の同僚やら上司やらにばったり出くわすことがあった。

当然みんなは僕に「最近は何をしているの?」なんてことを聞くわけである。「いや、特に何もしていませんよ」と答えると、みんなキョトンとした顔つきになる。僕が何かしていると思っているのだ。逆に僕が聞きたい。どうして何かしていると思うのか。しているのが当たり前だと思うのか。

僕に言わせれば働かないのが当たり前なのだ。だって動物たちはぜんぜん働いていないじゃないか。働くなんて不自然だ。本来、僕の人生と仕事とは何の関係もないはずなのだ。

もちろん、今の日本の社会では働かなければ生きていけない。仕事をしてお金を手に入れないと、暮らすことができない仕組みになっているから、しかたがない。僕がどれだけ働きたくないのだと大声を上げても、お金がなければどうにもならないのだ。コーヒーも飲めないし、ネコにエサもやれない。それどころか、ゴロゴロしながら海外ドラマを見るのにだってお金が必要だから、仕事に選ばれたら僕は断らず、とりあえず何でも引き受けることにしている。

できればやりたくないのだけれども、そもそも僕にできることは少ないし、やるしかないからやる。僕にとっての仕事はそういうものだ。もちろん仕事が僕を選んでくれることは嬉しいし、やってみると何だっておもしろいのだけれども、それはまた別の話だ。

仕事は変えられる

今の日本社会に生きる場合、仕事は人生の中でけっこう大きな割合を占めることになる。もしも会社勤めをすれば、実際に仕事をしているかどうかはさておき、それなりに長い時間を会社で過ごすことになるだろう。だから君たちだって学校の先生から「で、将来はどうするんだ?」と聞かれると、あれこれ悩んでしまうわけだ。

けれども君たちにはぜひ、仕事は変えられるってことを覚えておいて欲しい。家族や健康や自分の時間は、他の何かに置き換えることができない。でも仕事は置き換えられのだ。一度仕事を決めたからといって、いつまでもその仕事をやり続けるとは限らない。

ちょっと考えれば君にだってわかるはずだ。世の中に転職をする人はいくらでもいる。実際には勤める会社を変えているだけで、職業を変えている人は少ないのだけれども、ともかく僕たちはそれを転職と呼んでいて、そういう人はたくさんいる。

繰り返すけれども仕事は置き換えられる。どうやっても君の人生から切り離すことの出来ない心や体、家族や健康などとはちがって、仕事は一時的なものでしかない。その気になればいくらでも変えられるものなのだ。

「やりがい」につけこむ大人たち

ところが、仕事がまるで人生そのものであるかのように嘯く大人たちがいる。仕事は何にも代えがたい特別なものだと思わせようとする大人たちがいる。

何かをやり遂げた達成感や、新しい知識を得た喜びや、出来なかったことが出来るようになった嬉しさ。彼らはそれを「やりがい」と呼んで、その気持ちにつけこんでくる。

「ほかの仕事じゃなく、この仕事にしてよかっただろう」「この仕事を選んだ君はすばらしいね」なんてことをヘラヘラとした薄笑いを張りつけた顔で言ってくる。そして「やりがいがあるのだから、少しくらい辛くても、がまんできるだろう」「やりがいがあれば、給料が安くてもがんばれるよね」と付け加えてくるのだから質が悪い。

もう君にはわかっている。君がその仕事を選んだんじゃない。仕事が君を選んだのだ。それに、自分のやりたいことなんて、実際にやるまではわからないのだから、他にもきっとまだまだあるはずなのだ。

人生と仕事を切り分けよう

騙されてはいけない。

仕事とは世界に何かを付け加えることだと僕は書いた。ほんの少し世界を変えることだとも書いた。世界に何かを足したという実感。ほんの少しだけ世界を変えられたかもしれないという思い。それこそが「やりがい」だ。「やりがい」は君が心の中で感じるものであって、誰かから言われるものじゃない。君がどう感じているかだけが重要なのだ。もしも相手が「やりがい」を口にしたら、さっさと逃げ出す準備をしたほうがいい。

仕事は人生の一部でしかない。もちろん仕事にやりがいを感じてもいいし、やりがいがあれば、もっと楽しくやれるだろう。でも、仕事だけにやりがいを感じていると、仕事を交換したときにやりがいまで消えてしまう。

やりがいはどこにでもある。家族や友人と過ごす時間にも、趣味に没頭する時間にも、それぞれにやりがいはある。たくさんのやりがいを見つけること。それがズルい大人たちに騙されない唯一の方法だ。

もう一度繰り返す。仕事は置き換えられるものだ。けっして君の人生から切り離せない君の心や体、家族などとはちがって、いくらでも変えられるのだ。

仕事は人生の多くの時間を占める。でも、だからこそ人生と仕事を切り分けて考えるだけで、君の「やりがい」を盗まれずにいられるはずだ。