ちくまQブックス

そもそも、ゲームってなに?
『人生が変わるゲームのつくりかた』第1章より

ゲームづくりの核は「場を楽しくするルール」を生み出すこと。それができれば、君の人生はもっとおもしろくなる――『ぷよぷよ』『はぁって言うゲーム』『あいうえバトル』などをつくった人気ゲーム作家が、ゲームのつくりかたをイチから伝授する『人生が変わるゲームのつくりかた』が刊行されました! 刊行を記念して、第一章を公開します。

『ぷよぷよ』をつくった人です

ゲーム作家の米光一成です。ゲームづくりが職業です。

代表作は、落ちモノパズルゲーム『ぷよぷよ』。1991年にリリースした最初の『ぷよぷよ』を企画監督しました。大ヒットして、いろいろなゲーム機で遊べるようになり、シリーズ作品がたくさん出ました。累計販売本数約2700万だそうです。たくさんの人が遊び、楽しんでもらえるゲームになりました。

その後、『バロック――歪んだ妄想』というゲームを出します。3DのRPGです。退廃的で暗い世界観のゲームで、三大歪みゲーのひとつに数えられ、カリスマ作品と呼ばれたりしています。発売は1998年なのですが、20年以上たった今でもファンの人が二次創作などの活動を続けてくれています。ゲーム中の鍵となる20320514という数字が、2032年5月14日と解釈されて、毎年5月14日は大熱波の日(ゲーム中で地球が大きく歪む日です)として盛り上がっています。

テーブルゲームの制作もやっています。テーブルゲームというのは、みんながテーブルを囲んで遊ぶタイプのゲームです。ボードゲーム、カードゲームなど、いろいろな種類があります。

ぱっと思い浮かぶのは、トランプ、将棋、囲碁、人生ゲームなどでしょうか。『マジック:ザ・ギャザリング』『ポケモンカードゲーム』『遊戯王OCG』といったトレーディングカードゲーム(トレカ)も、テーブルゲームです。

それ以外にも、たくさんのゲームがつくられています。

ぼくは、2014年から本格的にテーブルゲームをつくり始めました。

代表作は『はぁって言うゲーム』です。日本国内だけでシリーズ累計100万部を突破しました。カプセルトイになったり、マクドナルドのハッピーセットのオマケになったりもしました。英語版なども発売して、いまでは世界各国で遊ばれるゲームになりました。

『あいうえバトル』というゲームもつくりました。これは、ゲームカフェ(ボードゲームやカードゲームを遊ぶことができるカフェのことです)でたくさん遊ばれていて人気です。

『記憶交換ノ儀式』という「ゲーム」もつくりました。儀式長であるぼくが進行するので、開催される日時にリアルな場に集まらないとプレイできない秘密のゲームです。

コンピュータゲーム、アナログゲーム、ライブ・イベントのゲームなど、いろいろなゲームをつくってきました。

 

ゲームづくりの奥義

ゲーム作家として、ぼくが共通してやっている大きな部分は「ルールづくり」です。どうなったら勝ちなのか? その勝利はどうやって目指すのか? ルールをつくって、それが遊びやすいようにモノをつくります。カードだったり、ボードだったり、コマだったり。どんなキャラクターを描くのか、どんな世界設定にするのかも考えます。

絵や音楽やプログラムは、分業することが多いです。「こんな絵を描いて」とグラフィッカー(絵を描いたりする人です)に頼んだり、「こんなタイミングで流す音楽をつくって」と音楽家の人に頼んだり、「こういうゲームをつくりたいからプログラムを組んで」とプログラマーの人に頼みます。

そうやって、みんなで協力してゲームをつくっています。

でも、一番最初のアイデアやルールは、ひとりでつくることが多いです。孤独な作業です。でも、楽しい。

その楽しさを広めるために「ゲームづくり道場」やデジタルハリウッド大学などで「ゲームづくり」のあれこれを伝授しています。

この本は、そんな米光一成が、ゲームづくりの奥義を書き記した本です。ゲームのいちばん根っこの部分、そして一番大切な部分が習得できるガイドブックでありハウツー本です。

ゲームを分析する3つの視点、ゲームづくりの道のり、勉強や人生をゲームのように楽しくする方法などを、ゲームを遊んだりしながら、身につけていくことができる内容になっています。

ぜひ、この本を読んで、ゲームをつくってください。将来、100万本、2700万本の大ヒットゲームをつくって儲けたら、寿司でも奢ってください。

 

ゲームの核ってなに?

そもそもゲームってなんでしょうか? 「ゲームとはなにか」は専門家のあいだでも意見が統一できていません。でも、ここでは、ざっくりと次のように定義しましょう。

ゲームとは、ルールにもとづいて遊び、楽しい場を生み出そうとすることである

これから学ぶゲームづくりは、「ルールのつくりかた」です。なぜなら、ゲームの核は「楽しさを生み出すためのルール」だからです。

もちろんゲームの楽しさを生み出す要素はルールだけではありません。美麗なグラフィックス、豪華なサウンド、エキサイティングな物語、魅力的なキャラクターなどなど、「楽しさ」を生み出すために、いろいろなものごとを集結させます。でもじつは、それらを繫げて一つのものにするゲームの核が「ルール」なのです。

グラフィックのない音だけで遊ぶゲームや、音楽のないゲーム、物語のないゲームなどはあるけれど、ルールがないゲームはありません。ルールがないと、プレイヤーはなにをやればいいのかわからなくなっちゃうからです。

コンピュータゲームでも、テーブルゲームでも、リアルな場で遊ぶゲームでも、スポーツでも、どんなゲームにも、ルールはあります。だから、ゲームづくりを理解するためには、楽しさを生み出すルールのつくりかたを習得する必要があります

 

ゲームづくりを学ぶとなにかいいことがある?

ゲームづくりを学ぶとなにかいいことがあるのでしょうか? もちろん、最初に書いたように商品にして売れれば儲かるのでウハウハできます。

でも、商品にしなくても、ゲームづくりを学ぶと、人生が楽しくなります。

なぜなら、ルールは、あなたの人生のどこにでも存在するからです。たとえば学園生活にもルールがあります。ぼくが中学生だったときもルールがありました。8時20分から学校が始まるので、それまでに教室にいないといけない。いなければ「遅刻」になり怒られました。授業が始まれば、席に座ってなければいけません。

家庭のルールもあるでしょう。よる8時から9時は勉強しなければならない、やりたくないときでもひとまず机に向かって座って勉強してるふりはしなければならない、とか。

さまざまなルールに囲まれて、わたしたちは生きています。いいルールもあるし、イヤなルールもあります。生徒手帳に明記されているルールもあれば、なんとなく守っているルール(暗黙のルール!)もあります。

このルールを改善するスキルを身につけることができたらどうでしょう? イヤなルールを、楽しさを生み出すルールに変えることができれば、人生が楽しくなります。

 

参加する人みんなが楽しくなるルール

あなたがゲームをつくったとします。あなたは、ゲームを遊ぶために友達を誘います。

どんなゲームなのか説明します。このとき、友達が「このゲームに参加すると(つまり、あなたの考えたルールに従えば)楽しいだろう」と思えば、参加してくれるでしょう。

でも、そう思えなければ参加してくれません。だから「参加する人みんなが楽しくなるルール」をつくり上げることが大切です。

生活のルールも変えることができます。でも、ルールは自分ひとりで勝手に変えることはできません。「8時から9時まで勉強するというルールはなくそう!」と宣言しても、親が許してくれないでしょう。みんなが「そのルールいいね!」と思ってくれるルールをつくることが大切です。

勉強をゲームにして、楽しく勉強することもできます(この本を読んで実践してもらえれば、それは可能です)。自分の周りのルールを、楽しくなるためのルールに変えていければ、人生は楽しくなります。

「ゲームとは、ルールにもとづいて遊び、楽しい場を生み出そうとすることである」と定義しました。これは、一般的なゲームよりも広い範囲をカバーできる定義です。

たとえば結婚式。進行の段取りがあり、それぞれの役割がある。参加者はルールにもとづいて、楽しい場を生み出して、ふたりを祝福している。そう考えると、結婚式もゲームです。参加者はプレイヤーです。

一般的に「これはゲームだな」と思うものとはすこし違うスタイルですが、「実はこれもゲームだな」「これはゲームなのか?」というモノはたくさんあるはずです。

本書は、テーブルゲームをつくることによって「これこそがゲームだよな」といった「ストレートなゲーム」のつくりかたを習得することをメインに扱っていますが、その先の「これはゲームなのか?」といったモノも視野にいれています。コンピュータゲームをつくるときの根源である「ゲームのおもしろさを生み出すメカニクス」も、本書で学ぶことができます。

さあ、ゲームづくり(=楽しい場を生み出すルールづくり)を習得して、人生を楽しいものに変えていきましょう。

 

 

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