ちくま新書

金利とはなにか、どう決まるのか

住宅ローン、消費者金融、銀行預金。私たちの身の回りには「金利」があふれています。「低金利だから円安になる」「金利を上げると不景気になる」といったニュースも、毎日のように聞こえてきます。でも、どうして金利と為替が関係あるのでしょうか。どうしていろいろな種類の金利がそれぞれに動くのでしょうか。そもそも金利ってなに・・・?
発売即重版が決まった翁邦雄『金利を考える』より、第1章の一部を掲載します。

中央銀行は「物価安定」のために金利を動かす
 まずは、なんのために金利を動かすのか(金利を動かす目的)からみていきましょう。
 この点については、2023年4月に日本銀行総裁に就任した植田和男氏の講演を聴くのが手っ取り早いでしょう。植田総裁は、永年、東京大学教授として金融政策について研究してきたマクロ経済学者ですが、いきなり学者から日本銀行総裁になったわけではなく、1998年の新日本銀行法施行時に日本銀行審議委員に就任、その後7年間にわたって日本銀行のガバナンスと金融政策方針の決定の一翼を担ってきました。その意味で総裁として帰ってきたベテラン中央銀行家でもあります。
 その植田総裁は就任約1カ月後の2023年5月に「金融政策の基本的な考え方と経済・物価情勢の今後の展望」という講演を行っています。
 植田総裁は、この講演の冒頭で、

日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指して、大規模な金融緩和を行っ
ています。私が前回、日本銀行の審議委員として金融政策運営に携わったのは199
8年からでした。それ以降の25年間は、「物価の安定」に向けた「闘いの歴史」であったと言っても過言ではありません。

と述べています。
 つまり、何のために、という問いへの植田総裁の答えは、物価を安定させるため、ということになります。
 ちなみに、日本銀行法の第一章では、

(目的)
第一条  日本銀行は、我が国の中央銀行として、銀行券を発行するとともに、通貨及び金融の調節を行うことを目的とする。
  2  日本銀行は、前項に規定するもののほか、銀行その他の金融機関の間で行われる資金決済の円滑の確保を図り、もって信用秩序の維持に資することを目的とする。
(通貨及び金融の調節の理念)
第二条  日本銀行は、通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする。

となっています。やや持って回った書き方ですが、ざっくり言えば、「物価の安定」と「資金決済の円滑化を通じた信用秩序維持」が使命、ということです。現在の先進国中央銀行は、おおむね「物価の安定が使命」、と答えるはずです。
 ただし、中央銀行の使命については、歴史的にはいろいろな紆余曲折があり、それはその時々の経済状況や世論に大きく影響されてきました。米国の中央銀行である連邦準備制度の場合には物価安定だけでなく雇用の最大化も使命に含まれています。現在主流の「物価の安定」に専念する、という思想も必ずしも最終的な到達点とはいえないかもしれません。

金利の上げ下げに人々が反応すれば経済活動が調節できる
 物価の安定が目的だとして、それでは、なぜそのために金利を動かすのでしょうか。
 植田総裁は、中央銀行の金融政策が物価に影響を及ぼす経路について、二つの主要なメカニズムに絞って説明しています。その一つ目として、金利の役割を取り上げ、つぎのように説明しています。

日本銀行は、金利を上げ下げすることで、経済に対して影響を及ぼします。例えば、金利を引き下げますと、企業が設備投資を行ったり、家計が住宅を購入したりする際の借り入れ金利が低下し、需要を刺激します。これにより、雇用が生まれ、経済活動が活発化することになります。反対に、金利の引き上げは、需要を減らし、経済活動や雇用を抑制する方向に働きます。

 日本銀行に限らず、主要な中央銀行はおおむね「金融政策のかなめは金利」と説明しています。なお、この本では深入りしませんが、植田総裁は、金融政策と物価を結び付ける二つ目のメカニズムとして、経済が活発化し需要が高まれば物価上昇率は高まりやすくなり、反対に、経済が落ち込み需要不足となれば物価上昇率は低下する、という経済学で「フィリップス曲線」とよばれる関係に言及しています。

中央銀行が金利を動かす伝統的出発点は「資金決済」
 最後は、中央銀行はどうやって金利を動かすか、という問題です。
 この点は、オーソドックスな手法と、現在行われている手法は異なっています。

(続きは、『金利を考える』でお読みください)


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『金利を考える』

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