選ばない仕事選び

第14回 仕事は人生の一要素 

連載第14回仕事が全て!みたいな人が昭和にはたくさんいたけれど、時代は令和だし、君たちはそうなっちゃいけないよ

 僕はこれまでいろいろな業界や職種で働いてきた。その体験から一つだけ確実に言えることがある。それは、どんな仕事もおもしろがることはできるってことだ。そして、どこにでも仕事をおもしろがれる人とおもしろがれない人がいるってことだ。

仕事は無限に繋がっている

 僕はよく、目の前にあるものごとを、それがどこへつながっているのか、どこから来てどこへ向かうのかを考える。道を歩いているときも、食事をしているときも、本を読んだり海外ドラマを観たりしているときも、いま目の前にあるものだけでなく、それがどこかで生み出され、僕の前へやってくるまでの長い道のりを考える。
 高層ビルを見上げたら、誰がつくったのだろうかと考える。建設業の人たちはもちろん、ビルを設計した建築士、窓に嵌めるガラスをつくった人、鉄骨を鋳造した人たち、消防設備を準備した人、エレベーターやエスカレーターを考えた人、壁や内装のさまざまな素材を発明した人、それらを運んだ人たち、運ぶための船やトラックをつくった人たち、トラックや船の燃料になる石油を発見して僕たちが使えるようにした人、電気を発見した人、発電所の人、発電所から電線を引いた人、その人たちが食べる食事をつくった人、あらゆる仕事は無限に繋がっていく。
 仕事をするときも同じように考えることが多い。この仕事で僕は何を世界に付け加えるのか、僕の行動が世界をどんなふうに変えるのかを意識する。自分の行動が、最後の最後にはいったい何に繋がっていくのか。実はそう考えるだけで、仕事は一気におもしろいものになる。どんな仕事だって、おもしろがることができるのだ。

おもしろがること

 僕には仕事を選ぶことができない。僕が自分で選んでいるように思えても、本当に選んでいるのは仕事のほうだ。仕事が僕を選んでいる。だから僕は、まったく経験がなくても、自分には無理かもしれないと思っても、あまり好きになれそうじゃないなと感じても、やってきた仕事はとりあえずやる。だって選ばれてしまったのだから仕方がない。その代わりに、どんどんおもしろさを見つけていく。おもしろがると、その先にあるおもしろさがさらに見つかってくる。それがこれまで僕がやってきた仕事との付きあい方だ。

 もちろん好きじゃない仕事、苦手な仕事や向いていない仕事はある。体力的にきつい仕事だってあるし、やたらと自分の時間を奪われる仕事もある。とにかく僕は働きたくないから、できればそういうタイプの仕事にはあまり選ばれたくないと思っているけれども、だからといって、その仕事がおもしろくないわけじゃない。仕事はお金と関係ないものだと僕は何度も書いているけれど、仕事の内容とおもしろさも関係がないのだ。その仕事をやりたいかやりたくないかは別の話で、そしてたいていの場合、僕はやりたくないのだが、とにかくおもしろがることが仕事とうまく付き合う方法だと思っていて、実際にそうしている。おもしろがって楽しんでいるだけだから、どちらかといえば遊んでいるのに近い。そう考えると、僕は働いていないのかもしれない。なんだ。僕は働きたくないのだゴロゴロしたいのだとこれほど声を大にして言っているのに、もともと働いていないのかもしれないじゃないか。ゴロゴロはしていないけど。
 
振り分け先をたくさん持つ

 前回も書いたように、しょせん仕事は人生の一部でしかない。人生にたくさんある要素の一つに過ぎないのに、大人たちはなぜか仕事をほかの要素よりも重要だと考えがちで、君たちにもそんな考えを押しつけてくる。もちろん、今の社会できちんと暮らすためにはお金が必要で、だからお金を手に入れるための仕事は人生に欠かせない要素だけれども、けっしてほかの要素よりも重要ってわけじゃない。仕事は変えられるのだから、むしろ交換できない家族や自分の時間のほうが、よほど重要なんじゃないかと僕は思う。少なくとも仕事のほうが重要ってことはないはずだ。仕事に選ばれるときに忘れちゃならないのはその点だ。僕たちは人生をいろいろなものに振り分けている。家族と過ごしたり、友人と遊んだり、趣味の時間を楽しんだり、もちろん働いたり、そうやって生きている。仕事はあくまでも振り分け先の一つだ。自分に向いている仕事、好きな仕事、得意な仕事に選ばれて、多めに人生を振り分ける人もいるだろうけれども、それでもやっぱり振り分け先の一つなのだ。

 ところが、大人たちの中には人生のほとんどを仕事に振り分けている人がときどきいる。残念なことに、仕事がなくなったら彼らの人生はほとんど消えてしまう。何もやることがなくなってしまうのだ。そうならないためにも仕事は要素の一つだと考えて、ほどほどに振り分けるくらいがちょうどいい。仕事とうまく付き合うには、おもしろがるべきだけれども、ほかのいろいろなものごとと同じくらいにおもしろがっていればそれでいい。もちろん、僕みたいに、まったく振り分けないのも一つの方法だと思うけどね。だって、働きたくないんだもん。