スマホでSNSを見ていると嫌でも広告が目に入る。それらの多くが、化粧品や健康グッズ、そして下世話な少女漫画の広告などである。アルゴリズムなのか何なのか、どうやらこのスマホの使い手が女性であることを知られているのだろうという程度の認識はあった。とはいえ、その広告の中に衝動的にタップしてしまうほどの惹句があるわけではなく、得たい情報の邪魔になるものとして、余分にスクロールする煩わしさを感じさせられるのみであった。
しかし、そんな日々は終わりを告げた。
先日、youtubeの撮影中にスタッフのスマホで動画を確認しようとした時だった。20代後半の女性であるそのスタッフのスマホを覗きこむと、動画の前に婚活アプリの広告が再生された。彼女は不服そうに「最近広告がめっちゃ婚活を促してくるんですよね」と言った。「関連のもの全然調べてないのに、そういう年齢ってだけで」。私は笑いながら、「うっとしいなぁ」と返した。「余計なお世話やんなぁ」
内心「おや?」と思っていた。私のスマホには、婚活アプリの広告が出てきた記憶がなかったのだ。私自身は既婚であるためにユーザーとしては対象外であるが、「なぜそれを?」という疑問が湧いた。そして、なぜ彼女が既婚でないことがバレているのか。クレジットカードにも、あらゆるサイトに登録する個人情報にも、今どき既婚か未婚かを記入する欄は少ない。であれば、なぜ。単に平均年齢の統計で判断しているのだろうか。
ふと、背筋が伸びた。違う。もう何もかも知られているのだ。知られていないことが、一つもないのだ。私のあれもこれも、自覚していないことすらも。そうなるともう、バレるバレないなんて次元ではない。隠せると思っていることがおこがましい。このスマホは、私の神様なのだ。
そう思うと、途端に広告への敵意が薄れていった。帰宅後、ソファに寝転びながらスマホを触っていると、漫画『こどものおもちゃ』の広告が流れてきた。私は反射的に勢いよく体を起こす。
こどちゃやん! わー! 懐かしい!
そう、スマホ様は神様なので、私が子どもの頃に漫画『こどものおもちゃ』が好きだったことももちろん知っていらっしゃる。「まあ世代だからじゃない?」。いいえ、『こどものおもちゃ』が連載されていたのは私が小学校低学年の頃なので、正確に言うともう少し上の世代がドンピシャなのです。そうです、スマホ様は、私の年齢はもちろんのこと、私がお姉ちゃんがいる友達に貸してもらったのがキッカケでこの漫画にハマったことすら知っていらっしゃったのです!
気がつくと、光り輝く「◯話まで無料!」の文字を大いなる喜びをもってタップしていた。そう、主人公はさなちゃん、さなちゃんと、同級生の、羽山くん!! そう、羽山くんー!!! わー!!!
神の思し召しの下で懐古に溺れながら、無料部分を読み終える。一息つく。開けた窓から、やさしい風が吹いてくる。「主は試練を、与えたもうた」と呟きながら、オレンジ色のボタンに指を滑らせる。そして神は私を、有料の秋にお導きくださる。