書店に行くと、「つづける力」「習慣化の仕組み」みたいな本がたくさん並んでいる。みんな継続できずに苦しんだり自己嫌悪に陥ったりしていて、藁をもつかむ思いで本を開くんだろう。
かくいうぼくは、割と「つづく」タイプだ。上達したいと思ったら何日もつづけて同じメニューを作るし(ハンバーグなんて10日連続でつくった。家族は少なくとも表面上、よろこんでくれた)、何年でも同じことをしつづけられる。積み重ねられる。
「練習熱心」とか「継続力があるんですね」とか褒められることも多いし、これはたしかに持っててよかった力だとおもう。人生長いから、能力や要領より継続力がものを言うことがほとんどだ。
ただし、ぼくが生まれつきコツコツタイプだったかというと、決してそんなことはない。もしそうなら、気づくとパトカーが校門前に停まってるようなヤンキー高校に進学することはなかったよね。つまり継続力っていうのは後天的に身につく能力だから、いま三日坊主のひとも安心してほしい。
さて、そもそもどうしてコツコツつづけられる人とそうでない人がいるのか。
これは「10回目の上達」を知っているかどうかの差だ、とぼくは思っている。
人間はだれしも、なんでも、最初からはうまくできない。2回目も3回目とかでも、たいしてできるようにはならない。あくまで回数は概念なんだけど、「すぐやめちゃう人」ってここの序盤であきらめちゃうんだよね。がんばるのが嫌になっちゃうの、階段をのぼってるのかよくわからないから。
ただ、1回ずつは微々たる差でも、10回目を1回目と比べるとけっこう上達してたりする。「あ、ちゃんと積み重ねてるじゃん」ってうれしくなる。そこでまた継続すると、30回目、50回目がおとずれる。このときにはもう、1回目とはぜんぜんちがう自分になっている。
そういう「つづけたら上達した」経験を人生で何度かしていれば、継続も苦じゃなくなってるはずだ。ちいさな変化にも気づきやすくなって自分への期待を持ちやすくなるから、むしろつづけたくなる。
だから継続できる人はみんな、「10回目の成功体験」を積んできた人なんじゃないかとおもうわけ。習字でもピアノでも英語でも写真でも「あっ、できるようになってる」を一度でも二度でも味わってれば、「今はうまくいってないけどやりつづければいいだけだよね」ってわかるでしょ。
そこに早く気づいてほしいからこそ、ぼくは息子の前であえてたくさん失敗と練習を重ねている。妻が失敗したときも「ほら見て」って息子と共有する。「おとなも完璧じゃない。試行錯誤してできるようになるんだ」ってわかるだけで、ちょっと生きやすくなるんじゃないかな。
反対に、この「いつかできるようになる」感覚を得てこられなかった人は「やっぱりセンスないかも」「キツいだけだな」ってあきらめてしまいやすい。もし自分がそういうタイプだという自覚があるなら、まずはひとつ、ちいさな成功体験を積むところからはじめるといいよ。どんな小さなことでも、「できなかったこと」が「できるようになる」瞬間はあるから。
ちなみにぼくは、誕生日になると1年前に自分が撮った写真と直近の写真を比較して、どれだけうまくなったかをチェックしている。まったく芽が出ていなかった若い頃にはじめて、いまだにつづけている習慣だ。
当時はだれにも褒められなかったから「成長してるじゃん」って自分で自分を褒めるしかなくてはじめたんだけど、少なくとも成長が止まったら写真家を辞めようと決めていた。おかげさまでまだ、撮りつづけることができている。15年前のぼくがいまのぼくを見たら、「すげえ!」ってめちゃめちゃリスペクトする気がする。
ただ、いまの若い子たちがハードなのはSNSを通じて「うまい人」を大量に目にしてしまうところにある。未熟な自分と比較して落ち込んじゃうんだよね、若いときにSNSがなくてよかったと心底おもうもん。
たとえばきみがスケボーをやっているとして、YouTubeとかTokTokでうまい人のトリックを見ると絶望するかもしれない。でもその人たちが公開してるのは「うまくいったトリック」だけで、転んだり、頭をぶつけたりといった映像は公開しない。最初はみんな転びまくってたはずだしね。
だからこそ、周りのネガティブな声はなるべく耳に入れないようにしよう。道半ばのときにバカにされたりディスられたりしたら、よっぽど確信を持ってやってないと心折れちゃうよ。他人の言葉でやる気を左右されないためにも、「ちょっと前の自分」と比べて自分を褒めてあげるクセをつけることを忘れずに。
そうそう、つづけないとわからないことのひとつに「上達の仕方タイプ」がある。これ、人によってけっこうちがうもので、最初からドンと伸びる人もいるし、はじめは全然パッとしないけど後になって急に花開く人もいる。
息子さんがスポーツで大学に進学する友人が言ってたんだけど、スポーツでは後者タイプのほうがなんだかんだ結果を残すんだそうだ。努力してすぐに結果が出ると、油断したり粘りがきかないからすぐダメになる人が多い。はじめはぱっとしなくても、ただただそのスポーツが好きでじっくり取り組める人の方が後伸びする。『ウサギとカメ』みたいな話だなとおもった。
しばらく踊り場にいて伸び悩んでるように見えても、つづけることで結果に結びつく可能性があるわけで、やっぱり継続は大切だ。ぼくだって才能の有無なんてわからない中、笑えない労働環境やとんでもない足の引っ張り合いにめげずにコツコツ写真を撮りつづけてきたからこそ、いまこうして写真で食うことができているわけだから。
つづけることには意味がある。つづけるコツもある。とはいえ、それには条件があって……という話を次回したいとおもいます。