2024年現在、一部都道府県では、いまだに別学の公立高校が設けられている。「男女別学」の県立高校が12校ある埼玉県では、2023年8月に県の男女共同参画の問題に対応する苦情処理委員から、県教育委員会に対して共学化が早期に実現されるべきとする勧告が出されている。しかし、NHKなどの報道によるとアンケートに回答した中学生や高校生の保護者などの大半は別学という選択肢を残す意義があるとして、共学化に反対しているという。
これに対して報道機関に意見を求められたことがあるが、私自身の個人的な意見は「基本的には学ぶ環境に属性をはじめとする多様性があったほうがよいが、不公正な共学に行くくらいなら、別学の選択肢がある意義はある。とりわけ女性にとっては」というものだ。
少し話が飛ぶように思われるかもしれないが、ここで、ブラックフェミニストのベル・フックス『学ぶことは、とびこえること』(2023年)の冒頭に出てくるエピソードを紹介したい。
ベル・フックス自身が子どものころ、通っていた黒人だけが通う小学校は、教師のほとんどが黒人女性で、学ぶことが白人の人種主義的植民地化の戦略に抵抗していく営みであったという。教師たちは、手間暇を惜しまず教育してくれ、子どもたちが能力にふさわしい知的な分野に進出することで、黒人全体の地位が底上げされることに使命感をもっていたとベル・フックスは感じていた。
しかし、1954年の「ブラウン判決」により、人種による分離政策は、アフリカ系の生徒の等しく教育を受ける権利を奪っているとされ、違法と判断された。それ以降、人種統合政策により、黒人の子どもたちは白人の子どもが通う学校へと通学させられるようになったのだという。「白い学校」に通うようになったときのことを、ベル・フックスは次のように語る。
「わたしたちが学んだことは、従順になること、あまり熱を入れて勉強しないこと、それこそがわたしたちに期待されていることだった。勉学に過度の意欲を示すことは、白人の権威にたいする挑戦とみなされた」
「わたしたちは主として白人の教師たちに教わったが、この教師たちの授業は、人種差別的な固定観念を強化する以外のなにものでもなかった」
もちろん一部には人種的偏見に基づいて教育することを容認しない白人もいたというが非常に稀有であり、また、少数の黒人教師たちが黒人の生徒たちを熱心に教え続けることは「えこ贔屓」と邪推されて難しかったことも言及される。
このエピソードから考えさせられるのは、実社会の権力構造下におけるマイノリティにとってマイノリティだけで過ごせる場所というのと、マジョリティにとってマジョリティだけで過ごせる場所の意義は対称ではないという点である。
大前提として、共学がどちらかの性別にとって有利な環境であるという状況や、マジョリティの文化や価値観にマイノリティを同化させるような仕組みがあるのであれば、それをまず是正する必要がある。
また、女子校を一定数作れば、男子校が同数程度の生徒を受け入れない限り共学の学校は男性比率が高くなるというジレンマもある。しかし、現状の様々な状況を所与のものとしたときに、必ずしも共学化や統合を急速に進めることがジェンダー平等に資するとは限らないのではないか。
一般的に、別学のメリットは、「男子=リーダー」「女子=サポート」といった役割分担をせずに、たとえば女子校では女子がリーダーをすることで世の中のバイアスを受けずに済むということが言われる。
理系進学についても女子校ではバイアスを受けにくい可能性がある。実際に大学生からも以下のような経験談が女子校出身者からあった。
〈私は女子高出身で、7クラス中4クラスが理系クラスだったので、「女子の理系は少ない」という話を最初信じられなかった。学年や部活といったコミュニティの中でも理系の方が多数派だった。逆に自分が文系であることに少し疎外感を覚えていたほどである。当人の置かれた環境によって、誰がマジョリティなのかはすぐに変化する〉
〈女子学生が理系に進まないという話で、私はどこの高校に進学するか悩んでいた時に、そこには進学しなかったのですが、一度女子高の説明会に行きました。その時に当時中学生の私たちに向かって先生が「理科の実験を女子はさせてもらえる機会が少ないですよね? 男子が主導権を握ることが多いですよね?」と問いかけられました。私の中学校ではそんなことはなく共感できなくて、もはや逆にこんな質問をする先生に疑念を抱いたのだが、他の学生は頷いたり「多い」と答えてる人が多かったので、やはり今回講義に挙げられていたようにジェンダーバイアスが起きてしまっている学校も多いのだなと感じました〉
では、男子校はどうか。私は個人的には、男子校の方が存在意義を主張することが難しいのではないかと思う。もちろん、リーダーもサポート役も男子がやるという意義はあるが、たとえば部活や行事などで母親が裏のサポート役として駆り出されているという事例を母親本人から聞いたこともあり、女子校で女子がリーダーシップを発揮できるほどのメリットはないと考える。
大学の授業でも男子校出身者にメリットを尋ねてみたところ、「とにかく一生の仲間ができ、楽しかった」、デメリットは「6年間一度も女子と話すことがなく、今もあまりうまく話せない」とのことだ。女性と話せない男性のことは笑い話のように捉えがちだが、これは意外と深刻な問題かもしれない。
異性のきょうだいがいる場合や、塾など学校以外のコミュニティを持っているケースも多いだろう。また、中学は共学で、高校3年間であれば、期間も短いので、問題がないかもしれない。しかし、部活も学校内で完結し、ほとんど同世代の異性と話したことがないまま6年間過ごす人もいるのかもしれない。別学に進むのであれば、意識的にそれ以外のコミュニティも持つようにしたほうが良いだろう。