「ここに来た時、『日本人はいないの?』と探し回った。それで、やっと彼女に出会えたんです」
僕がブルキナファソに住む真如苑(しんにょえん)の信者と出会ったのは本当にただの偶然だった。ある週末にクーペラという地方都市へ日本人の知人を訪ねて遊びに行った時のこと、その知人と道を歩いている時に、ばったり出くわした知人の友人がたまたま真如苑の信者だったのだ。
ジャック・ソンド・ノンガネレ、33歳。ブルキナファソ第二の都市ボボジュラソ生まれの真如苑信者。ブルキナファソの有名パン屋チェーンでパン職人として働いており、2013年からクーペラに住んでいる。クーペラに引っ越してきた時、「日本人に会いたい!」と街中を探し回った結果、JICA青年海外協力隊員の僕の知人にたどり着いた。
真如苑は仏教系の新宗教団体で、開祖は1906年生まれの伊藤真乗(いとう・しんじょう)、教団では教主と呼ばれる。開祖が京都にある真言宗醍醐派の醍醐寺で得度したので、儀礼では護摩がたかれたり、教団のイベントに醍醐寺の僧侶が参加したりするなど真言宗との繋がりが深いが、通常、真言密教は「大日経」、「理趣経」を教典とするのに対し、真如苑は涅槃経(ねはんきょう)を最重要視している。また、「霊能者が霊界と繋がり入神して、信者に霊言を告げる」という「接心」という修行があり、これが普通の仏教とは違う独自の要素だ。伊藤真乗が1989年に亡くなった後は三女の伊藤真聰(いとう・しんそう)が跡を継いで苑主を務めている。
信者数は公称約100万人(海外含む)で、多くの宗教団体が水増しした信者数を公式発表するなか、この100万人という数字は現実の数に近いらしく、創価学会、立正佼成会に次いで日本で3番目の規模を誇ると言われている。
本拠地は東京都立川市で、立川駅の北に2006年開設の応現院という巨大な施設がある。その他、立川市と武蔵村山市にまたがる広大な日産自動車工場跡地(約106万㎡、東京ドーム23個分)を739億円で買収して、「プロジェクトMURAYAMA」という開発プランを立ち上げている。プロジェクトのホームページによると「まず、森に戻そう」という構想らしく、明治神宮の森のような緑地に整備する計画を持っている。
こうした大規模な用地買収の他にも2008年にはニューヨークのオークションで運慶作の大日如来(だいにちにょらい)像を14億円で購入するなど、近年勢いを増している教団だが、東京での存在感に比べ、関西ではさほど有名ではないらしい。クーペラに住む僕の知人は大阪出身だが、ジャックに会うまで真如苑自体を知らなかったとのこと。
真如苑のホームページを見ると、海外の支部数はヨーロッパに6つ、アジアとオセアニアに6つ、北米・南米に7つの合計19支部だけで、アフリカの信者情報は一切載っていない。一応、2012年に伊藤真聰苑主が国連環境計画本部での会議に出席するためケニアを訪問して、法要を執り行い、その様子は海外メディアでも報じられたが、ケニアに信者が多くいるというわけではなく、信者はアフリカ全土でも数えるくらいしかいない。
積極的な「オタスケ」活動
ジャックが真如苑に入信したのは、彼がまだボボジュラソに住んでいた頃にさかのぼる。ボボジュラソでJICAの青年海外協力隊員としてストリートチルドレンの支援活動をしていた「フジモトサン」という真如苑信者の日本人男性がきっかけだ。「フジモトサン」がブルキナファソで活動している間に彼から真如苑の教えを徐々に学び始め、たった1冊の真如苑の本をもらって、一生懸命熟読した。そして彼が日本へ帰った後の2009年、先に真如苑に入信した同僚の勧めもあり、「こんなに素晴らしい教えはほかにない」と悟り、真如苑に入信した。その後ジャックはクーペラに移住したが、同僚はボボジュラソに住み続けている。ジャックが言うには「彼はボボジュラソで真如苑の支部の活動をしています」とのこと。
2013年3月には東京・立川の応現院で行われる常住祭(開祖伊藤真乗の誕生日)に参加すべく、真如苑の招きで日本へ渡航した。日本での思い出を楽しそうに話す。「一人で出歩いたことがあったんですが、道に迷ってしまって四時間も歩きました。でも、ガソリンスタンドの人が僕に身振り手振りで道を教えてくれたんです。日本の人は本当にみんな優しかったです。日本にいた時に『日本で僕が受けた優しさをブルキナファソに帰った後はほかの人に与えたい』とみんなに言いました」
日本滞在中あまりにも日本人に親切にされたので、ブルキナファソに帰国後、渡航ビザを出した日本大使館の領事部にわざわざお礼の電話をしたらしい。
さて、彼はクーペラでも真如苑を広めようと集会を開催したり、勉強会をしたりして非常に積極的に真如苑の勧誘・布教活動をしている。真如苑では教義を人に教えることを「お救け」と言い、ここでも日本語のまま「オタスケ」と言う。彼は市内だけではなく、電気や水道もない近隣の村まで出かけて「お救け」をしたこともあるという。
「彼らにも〝オタスケ〟をしました。みんな真如苑の集会に参加してくれたんですよ
彼とばったり出会った日の夜、彼が働いているパン屋の中を案内してくれた。そこにいた従業員のほとんどは彼から真如苑の勧誘を受けたらしい。「彼は集会に参加してくれた」、「彼女に真如苑の教えを説明した」、「彼は入会してくれた」とすれ違う同僚をみな僕に紹介する。このような積極的な「お救け」活動の結果、彼がクーペラに引っ越してきてからなんと合計45人のクーペラ市民を真如苑に勧誘することに成功した。勧誘方法はシンプルだ。知り合った人に、「私は仏教だ」と言うとだいたいの人は興味を持ってくれるので、そういう人を集めて集会をしたり、興味を持った人の家に行って話をしたりして勧誘をしているらしい。
日本でも職場の同僚をすべからく宗教に勧誘する人はたまにいるだろうが、日本との違いは、そういう人が日本では「迷惑な人」と形容される一方、アフリカでは「真理を求める敬虔な人」とされるところだ。