加納 Aマッソ

第82回「Winter, spring, summer or fall」

 大人になるまで、キャロル・キングは男性だと思っていた。キャロルといえば矢沢永吉、〇〇・キングといえば、スティーヴン・キングとクリスタル・キング。そのあたりのイメージが脳内でごっちゃになっていたのだろう。なんとなくキャロル・キングは荒々しいサウンドのロックシンガーだろうと想像し、母親が高校時代に毎日聴いていたという話も、勝手に「いかつい習慣やな」と早合点していた。
 そのため、初めて「You’ve Got Friend」を聴いたときは驚いた。「え、女の人」「良い声」「ゆっくり」の感情が同時にきた。その後、訳詞を見てもう一度驚いた。友だちに対して、「困っているときはいつでも私を呼んでね」と語りかける、なんともピュアであたたかい友情の曲だった。最終的には「おかん可愛い〜〜」という感情に着地した。

 そして、「キャロル」という言葉は、私の中で二つのものごとの代名詞となった。一つは、友情である。それまでは、シスターフッドと聞くと、『17歳のカルテ』でウィノナ・ライダーとアンジェリーナ・ジョリーが歌っていた「恋のダウンタウン」を想起していた。だから女性同士の連帯に関することを見聞きすると、「カルテ」や「ダウンタウン」という単語をふわっと思い浮かべていた。それがすべて「キャロル」に置き換えられた。大事な局面で友達に助けてもらうと、「It’s a キャロル!」と思った。

 もう一つは、この曲の歌詞に出てくる羅列だ。

 Winter, spring, summer or fall.

 当時この曲を聴いた日本人全員が感じただろうが、私もここの違和感が好きだ。年中いつでも駆けつける、つまりこの友情はオールシーズンであると表現する時に、冬春夏秋と並べる。冬から始まり、秋で終わる。
 私はこれを、キャロル的羅列、「キャロル順」と名づけ、いつか日常会話や舞台上のトークで誰かと共有できないかと目論んでいる。
 何かを456123の順にするというボケに対して「スターウォーズか」というツッコミが散見されるが、私が本当にしたいのは、「キャロルか」である。つまり誰かが何かの羅列を4123にしたり、結起承転の順で話すかをしてもらうと発動できる。
 条件に気づいてはいるが、なかなか道は険しい。しかも、本当にキャロルを発動できた場合でも、その後説明するのにかなりの時間を要してしまう。キャロル・キングが受賞した数々の賞やレコードの莫大な売上数を見るに、「誰が知ってんねん」と言われるような歌手ではないが、私もリアルタイムで知っていたわけではない。

 そもそも今、世間的には、キャロルといえばクリスマス・キャロルだろう。今日はどの音楽サブスクのチャートにもマライア・キャリーやワムが挙がっているだろうが、頑なに「You’ve Got Friend」から聴きながら、私のキャロルを考える。

【メモ】
・サンタはいないと気づいた子が、良い子にしたら、サンタが来て、プレゼントがもらえる
 クリスマス・キャロル
 皮肉

・死んで、出会って、恋に落ちて、船が沈む
 タイタニック・キャロル
 天国から船が落ちてくる?

・お会計、入店、注文、飲食
 ただの食券機が外にあるだけの店→ボツ

・(そもそも、1月は寒いから、冬春夏秋は、普通のことか…?)

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