2024年は選挙がたくさんあった。東京都知事選と衆院選があり、兵庫県知事選とアメリカ大統領選も話題になった。ロシアで大統領選があり、台湾では総統選があった。ぼくが住む八王子市でも市長選があった。
SNSと選挙の相性がいいので盛り上がるのはいいんだけど、選挙期間中の罵詈雑言にはゲンナリする。
だけど「ゲンナリする」なんてSNSで発言しようものなら「お前は自民党の工作員か!!電通からいくらもらってるんだ!?」と妄想を証拠にSNS人民裁判にかけられ業火の炎に燃やされるので、殻をとじたハマグリのようにお祭りが終わるのを待つしかない。
自分が支持した候補者が落選すれば、選挙区の市民を罵倒して愚民扱いする人がでてくるのも投票日の風物詩になりつつある。
八王子市は自民党が推薦した候補者が市長になり、衆院選では裏金問題で話題になった萩生田光一さんが当選したものだから酷い言われようでしたよ。
ぼくですか? ぼくは自民党に投票してませんよ。SNS人民裁判は勘弁してください。「自民党に投票した」なんて発言したらそれだけで差別者認定されそうですよね。
こういう人たちに多様性なんて考えはなく、完全な一様性なんですよね。
政治の話にかぎらず「気に入らない」という理由で、自分と違う存在を許さず相手を自分色に染めようとする人はいます。
権力って言葉があるじゃないですか。権力というのは「通常ならしない行動を他人にさせる力」のことです。権力のことを英語でパワーといいます。
簡単にいえば「嫌なことを無理やりさせる力」のことです。三権分立や大企業の社長みたいな人だけが権力をもつわけじゃありません。誰しもが持っているし、支配欲と結びつき多かれ少なかれ誰もが欲しがり使いたがるパワーです。
立場の強い人が弱い人にパワハラすることも権力です。パワーのハラスメントです。学校のいじめだって権力です。親からの虐待も権力です。やりたくないことやらされるでしょ?
教師の権力に逆らい盗んだバイクで走り出して、不良集団の中にはいっても権力構造があるので、権力からは逃れることは難しいです。
社会を維持するために国から認められた権力ではなく、権利もないのに他人に権力を使いたがる人は、支配欲が強く頭の悪い人だと思うのでぼくはモンスターと呼んでいます。
他人のことなんてどうでもいいのに、他人をどうにかしたい人。他人なんて変えられないのに、他人を変えようとする人。相手の選択や自由を奪って、自分の好きなようにしたい人。
そういうモンスターが選挙になるとちらほらと可視化されますよね。
モンスターが強い被害者意識を持つとインベーダー(侵略者)に進化します。カードバトルみたいですよね。いじめっ子も虐待する毒親も、犯罪者もだいたいみんな被害者意識が強いんですよね。
インベーダーに譲歩をしたり屈服したりすると、支配欲と加害欲が暴走して過剰な攻撃性をみせます。何かしらの方法でやり返したほうがいいです。
「正義の暴走」なんてよくいわれるけど、正義心なんてないですよ。被害者意識の暴走です。SNSでよく見かけますよね。
権力はその場その場の状況でもかわります。学校で権力が強いいじめっ子も、家庭では弱い立場になったりします。ジャイアンがそのタイプですよね。権力は数でもかわります。スネ夫みたいのが増えると手に負えなくなります。
モンスターもインベーダーも昔からいたんだろうけど、SNSがそれらを可視化して数のエコーチェンバーで増幅させる。
だけどSNSと現実社会はまったく違う。選挙カーが店の前を通過するレストランで食事してるとき「ゲンナリするわ」と発言しても人民裁判にはかけられない。
みなさんの生活圏内でタレントの不倫報道に本気で怒ってる人っていますか? ぼくはいないです。話題にすることは稀にあっても怒ってる人はいません。
SNSを信じて誤解すると間違いなく後悔する。中年が若いころにメディアの煽動を信じたのと一緒だ。
SNSには怒りと不幸が溢れているけど、SNSで可視化されないのはありきたりな幸せですよ。
大金持ちの現実離れしたキラキラした世界じゃなくて、誰もが感じるありきたりな幸せです。
街を歩いていろんな人と会話するとわかるけど、ありきたりな幸せって現実社会にたくさんありますよ。
だけどありきたりな幸せを投稿すればモンスターとインベーダーの嫉妬を買うので、サイレントマジョリティは沈黙して、ストロングなキラキラした世界と怒りと不幸だらけの偏差値でいえば70と30ばかりが見えてしまう。
SNSでは可視化されにくいけど、たいていの人はいわゆる「普通の人」にあたります。
日本もしっかり社会が分断されている。インベーダーが一定数いるのだから仕方ない。誰だって侵略されたくないからだ。
理想をいえば分断のない社会がいいのだろうけど、それが実現するにはどちらかが侵略を完成させることですよね。
分断をしているのだから、高い壁をたてて深い溝をほってお互いのインベーダーを防ぎ、交流するときは相手を侵略しないと決めるほうが平和だ。
つまり、関わらない。価値観が違うのだから分かり合えるわけがないよね。
だけど争うことはまた大変なので、多様性を担保するには、世界が国境を軍隊で守りビザを発給するシステムと一緒で、高い壁と深い溝が必要なんだろうと思います。
インベーダーから守るのは自分の心。義務でも仕事でもないのにSNSで心を疲弊するのって意味ないですよね。2025年が皆さんにとっていい年になりますように。
*幡野広志さんの連載は今回で最終回になります。来年、書き下ろしを加えて、ちくまプリマー新書の1冊として刊行される予定です。