2024年の国内政治を振り返ると、最大のニュースは10月27日の衆院選で自民党が過半数割れに至ったことだろう。同党は56議席減らして191議席。公明党も8議席減の24議席。計215議席。与党が過半数(233議席)を下回ったのは旧民主党政権が誕生した2009年以来である。
なんだけど、09年当時の高揚感は皆無である。そもそも24年の選挙は、ため息が出る結果ばかりだった。
7月7日の東京都知事選では小池百合子が三選を果たし、しかも野党共闘が推した蓮舫候補はまさかの三位。9月23日の立憲民主党代表選では旧民主党政権を潰した野田佳彦が当選してガッカリし、同月27日の自民党総裁選では高市早苗を破って石破茂が当選したが、石破は一議員時代の主張をことごとく封印してまたもやガッカリ。加えて11月5日の米大統領選では期待のカマラ・ハリスを破ってドナルド・トランプが復活。もひとつオマケに11月17日の兵庫県知事選では、不信任決議を食らって失職した斎藤元彦が再選を果たした。何かもう絶望する気も起こらない。
衆院選の話に戻ると、立民が50議席増の148議席を取ったのは単に敵失の結果であり、共産党に至っては2議席減の8議席。維新が6議席減らしたのには多少溜飲が下がったが、それ以上に躍進したのは7から28に議席数を伸ばした国民民主だった。維新も国民民主も与党の補完勢力というべき「ゆ党」だから、与党が過半数割れしても政権交代には至らず、野田立民も25年の参院選では維新と組むとかヌカして「ゆ党」化が著しい。ったくもう。憂さ晴らしを兼ねて24年に出版された怒れる論者の本を読んでみた。
政治資金パーティーと裏金
山崎雅弘『底が抜けた国』(12月刊)は今日の日本の政治状況を次のように総括する。〈与党政治家の汚職や不正が発覚しても、当事者が逮捕や議員辞職などの形で責任をとることがなく、いつのまにかウヤムヤの状態で幕引きとなり、問題は解消されるどころか、さらなる不正や腐敗へとエスカレートしています〉。
第二次安倍政権時代に進行した〈さまざまな政治と社会の病理(不正や腐敗がいくら発覚しても毎回不起訴にする検察、民主主義をないがしろにする形での政策決定など)〉は岸田政権下でより深刻化したと山崎はいう。〈権力を持つ者が、公益にも配慮してその力を抑制的に使うか、それとも私益だけを追求してフルに自分のためだけに使うかは、文明国と野蛮国の違いでもあります。/今の日本は、その意味では完全に野蛮国の領域に入ったと言えます〉。
その一例が、23年から24年にかけて日本をゆるがした〈自民党所属の多くの国会議員が関与を疑われた組織的・常習的な「大量裏金脱税」事件〉、すなわち裏金問題だ。先の衆院選で自民党が大敗した最大の原因も裏金問題と考えられる。
裏金問題を最初に報じたのは、しんぶん赤旗日曜版(22年11月6日号)のスクープ記事「パー券収入 脱法的隠ぺい/2500万円分 不記載/岸田派など主要5派閥」だった。自民党主要五派閥の岸田派(宏池会)、安倍派(清和会)、麻生派(志公会)、二階派(志帥会)、茂木派(平成研究会)が政治資金パーティーの収入の明細と大口購入者の氏名を政治資金収支報告書に記載していなかった、という内容だった。
この時点ではさほど問題視されていなかったものの、23年10月、この件を独自に調査した神戸学院大学の上脇博之教授が、各派閥の政治団体の会長、代表者、会計責任者らを政治資金規正法違反容疑で東京地検に告発。これを各紙が報道し、多くの自民党議員が数千万円規模の「裏金」を得ていた事実が明らかになった。
政治資金規正法では、一回のパーティーにつき20万円を超える購入者の氏名や金額を収支報告書に記載することを義務づけている。ところが、これも20万円以下の小口に分けていれば、収支報告書に記載されない「裏金」として議員の懐に入る。〈パーティー券を利用した「裏金のキックバック」は、派閥からの還付方式と議員が各自でプールする留保方式の二種類で行われ、2018年から2022年に作り出された「裏金」の総額は、確認されただけで6億7654万円という巨額に膨れ上がりました〉。
いったいどういう意味なのか。その前に裏金とは何なのか。
そうした政治資金の問題を基礎から解き明かしたのが、前述の上脇博之による『検証 政治とカネ』(7月刊)だ。
政治家の主な収入源は、歳費(会社員でいう給与。月額129万4千円。年二回の期末手当を含めて年収は2千万円超)と副業(プライベートな企業の役員報酬など)の二つだが、国会議員にはそれ以外にもさまざまな名目の「公費」が支給されている。
①立法事務費(立法に必要な経費)、②調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)、③公設秘書の人件費(議員一人あたり計三人まで)、④選挙運動費用の公費負担(ポスターやビラの作成費、政見放送の制作費、選挙カーのレンタル料など)、⑤政党交付金、⑥内閣官房機密費。このうち①〜④が議員ごとに支給される公費で、いずれも政治資金規正法や公職選挙法により、収支報告書の提出が義務づけられている。だが実際には政治資金規正法には抜け道があり、報告書に書かずにすむ収入がある。これが裏金だ。
〈政治資金規正法では企業、労働組合、任意団体からの寄付を受けられるのは政党と政治資金団体に限られています。/ところが、政治資金規正法には寄付とは別に政治資金パーティーという枠組みが存在しています。政治資金パーティーは、政党だけではなく他の政治団体も開催でき、パーティー券購入は一般的には寄付ではないので、企業なども政治団体主催のパーティー券を購入することができるようになっているのです〉。
政治資金パーティーの収入は事実上の企業献金だと上脇は述べている。出席が求められるわけでも人数分の飲食が提供されるわけでもない。パーティーとは名目にすぎないのだ、と。
ではこうして手にした裏金は何に使われるのだろうか。上脇は三つの可能性をあげている。①政治活動には使わず、自らの懐に入れてポケットマネーにしている。②政治活動や選挙に使ってはいるものの、収支報告書には記載できない後ろ暗い使い方をしている(選挙のための買収や、その一歩手前の違法な寄付など)。③自民党の総裁選をめぐる多数派工作に使われている。
選挙との関連で、特に注意すべきは②だろう。実際、近年の公選法違反事件は、裏金を買収に用いた疑いが拭えない。
19年の参院選で自民党の河合克行元法相と妻の案里参院議員が地元議員らに現金を配った事件(公選法違反容疑で逮捕起訴され有罪確定)もそう。23年の江東区長選で、自民党の柿沢未途元法務副大臣が応援する木村弥生氏(後に辞職)を当選させる目的で地元区議らに現金を配った事件(公選法違反で有罪確定)もそう。裏金は収入源だけでなく支出、すなわち使途も問題なのである。
民主主義の根幹にかかわる話
政治資金規正法はGHQ統治下の1948年に制定された法律で、もともとは〈政治資金の出入りを透明化することで、国民が監視できるようにしようという〉のが目的だった。だが、政治とカネの問題はいつまでも終わらない。とりわけ今日の政治腐敗に至る最大の原因は1990年代の「政治改革」だった。具体的には94年、細川護熙首相率いる非自民八党派連立政権の下で成立した政治資金規正法の改正(特に公費による政党交付金の導入)と衆院選への小選挙区比例代表並立制の導入である。
政党交付金の原資は税金で、〈国民一人当たり250円として、それに総人口をかけた金額を毎年、政党交付金として税金から拠出し、各政党に分配するというもの〉だが、政党ごとの配分は所属する国会議員数と得票数によって決まるので、多くの議席を得た政党ほど多くの交付金を手にできる。ここに得票率以上の議席数が獲得できる小選挙区制を組み合わせたら、〈与党が過剰代表している分だけ、助成金も過剰に交付されてしまいます〉。23年の政党交付金は自民が約159億円、立民は約68億円だった。〈こうした制度の歪みが、実際に民意が支持している以上に自民党を強大なものとすることで、「投票してもどうせ勝てない」という野党支持者の諦めを生んでしまいます。こうした構図が、昨今の慢性的な投票率の低さにもつながっているのではないでしょうか〉。
カネの問題は単なる収支の問題ではない。民主主義の根幹である議会政治すら左右しかねぬ重大な問題を孕んでいたのだ。
適菜収『自民党の大罪』(8月刊)は自民党を劣化させた戦犯として、小沢一郎、小泉純一郎、安倍晋三の3人を名指している。〈小沢がまいた種を小泉が悪用し、安倍政権という究極の悪夢に行き着いた〉のだと。小沢が構想した自民党「政治改革大綱」(89年)を元にした小選挙区制の導入と政治資金規正法の改正によって〈わが国の運命はおおかた決まってしまった〉。さらに小泉が〈議会主義も政治のプロセスもぶっ壊した〉結果、〈自民党から保守は消え、新自由主義路線が強化されていく〉。そして〈政治制度の破壊、劣化の帰結として、安倍政権は誕生した〉。
先の衆院選に話を戻すと、石破首相は裏金議員について一部の重複立候補を認めず、一部は小選挙区で非公認にしたが、立候補した裏金議員46人中、28人が落選するも18人は当選。そして24年12月、東京地検特捜部は裏金問題で政治資金規正法違反に問われた16人の現・元国会議員を一斉に不起訴処分とした。こうして山崎がいう「野蛮国」の仕組みはまたもや温存された。25年には参院選が予定されている。次はいったいどうなるだろうか。
【この記事で紹介された本】
『底が抜けた国 ―― 自浄能力を失った日本は再生できるのか?』
山崎雅弘、朝日新書、2024年、957円(税込)
〈一体どこから手をつけたらいいのか?〉〈現代日本の状況を「歴史」の観点で読み解く!〉(帯より)。裏金脱税問題、憲法九条の軽視による軍備拡張、旧統一教会との政教癒着などなど、今日の政治と社会が抱える問題を包括的に論じた本。総花式の印象は否めないものの、市民による抵抗を諦めるなと訴える。政治とカネについては「汚職」という言葉を復活させるべきだなどの提言も。
『『検証 政治とカネ』』
上脇博之、岩波新書、2024年、990円(税込)
〈裏金を許すな!/第一人者がすべての疑問に答える〉(帯より)。政治資金パーティーをめぐる裏金問題を刑事告発して名を馳せた神戸学院大学教授による政治とカネ問題の入門書。政治家の収入源から政治資金規正法、90年代の政治改革まで、重要な論点をほぼ網羅。収支報告書の不記載は国民の知る権利の侵害だ、政党の国有化に近い政党交付金は違憲だ、などのハッとさせる指摘も。
『自民党の大罪』
適菜収、祥伝社新書、2024年、1012円(税込)
〈悪の本質を暴く!〉〈「日本人の敵」に変わった35年の変質〉(帯より)。「政治改革元年」という掛け声に人々が浮かれた1989年(平成元年)が日本の明暗を分ける分岐点だったとの視点から、今日の自民党政治を一刀両断にする。後半は新旧の自民党議員に対する罵詈雑言集に近いが、小沢から小泉、安倍へと至る前半の分析は的確で、この三十数年の政治の劣化がよくわかる。