ちくまプリマー新書

憎しみの蔓延る世界で、自分にも他人にもやさしく生きるために。
『自分にやさしくする生き方』よりあとがきを全文公開

伊藤絵美『自分にやさしくする生き方』よりあとがきを公開します。自分にやさしくできる人は、他人にもやさしくできるようになり、そして世界の平和につながる。本書の背景にあるのはそんな思いです。

共に、自分にやさしくする生き方を実践し、自分たちにやさしい社会を作り、平和な世界をつくっていきましょう

 ここまでお読みくださり、本当にありがとうございます。この本を書くにあたって、「頑張り過ぎない」「自分を追い込まない」「自分にやさしくする書き方」を実践すると予め決めていました。そうでないと、本書が説得力を失ってしまうからです。以前であれば、自宅で朝早く、あるいは夜遅く、外出するときはPCを持参してカフェや電車のなかで原稿を書き続けていました。本当に追い込むようにして本を書いたり翻訳作業をしたりしていました。今思うと、なぜあそこまで頑張っていたのでしょうか。それはちっとも「自分にやさしく」することではありませんでした。

 「まえがき」にも書いた通り、その後、さまざまな出来事や自分自身の不調を体験し、それと同時にスキーマ療法やセルフ・コンパッションに出会ったことによって、「自分にやさしくする」ことが絶対に必要であること、そうでないと自分が壊れてしまうということに切実に気づき、私自身も生活の仕方、仕事の仕方、フリータイムの使い方を徐々に変えていきました。そのときのキーワードが「自分にやさしくする」でした。

 本書では私自身も実践中の「自分にやさしくする」さまざまなスキルをご紹介しました。本書の全てとは言いません、気に入ったワークをぜひこれからも実践し続けてください。そして「自分にやさしくする生き方」を実現してください。

 私が本気で望んでいることがあります。それは、「自分にやさしくする生き方」を志向する人がどんどん増えていくことです。「自分にやさしくする生き方」ができる人は、自分を大切にしながら同時に他人にもやさしくすることができます。みんなが自他に対してやさしくすることができれば、それは平和にもつながります。というか、世界平和のためにはそれしかないのだと信じています。この世界は残念ながら、やさしさの反対である「憎しみ」がまだまだ蔓延っていて、いたるところで紛争や虐殺が起きています。この日本でも、虐待やハラスメントや性暴力やネットの世界での誹謗中傷が日々起きており、心が痛くなることがしょっちゅうです。でも、そういうの、本当にもうやめませんか。自分にやさしくして、他人にもやさしくしましょうよ。全ての人の「チャイルド」の中核的感情欲求が満たされる社会を作りましょうよ。それが私の「ヘルシーさん」と「チャイルド」が真に願っていることです。本書が、ささやかながらでも、そのための助けになるのであれば、こんなにうれしいことはありません。

 最後に、本書の執筆を勧めてくださり、そして私が「自分にやさしくする書き方」しかしないので、結果的に原稿が仕上がるのを辛抱強く待っていただくことになってしまった筑摩書房の甲斐いづみさんに感謝申し上げます。このような機会をくださり、そして私のペースで書かせてくださりありがとうございました。

二〇二四年九月八日  伊藤絵美



『自分にやさしくする生き方』

3月10日頃発売

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