冷やかな頭と熱した舌

第13回 
本屋の勘(かん)

競馬から学ぶこと―勝負の分かれ道を探る

 思考のギャンブル、競馬から学ぶことはたくさんある。この前の有馬記念に限定しても、本来なら考えられない騎乗を大一番でやってのけるルメール騎手の度胸。それに応えたサトノダイヤモンドも、もともと自在脚質(どのポジション取りでもレースを運べること)で産まれてくるわけではない。調教を含めたひとつひとつの経験の積み重ねによって才能を伸ばすのだという薫陶。しかし最大の関心事は、2着となったキタサンブラックの武豊騎手のコメントである。
 「組織力の差かなぁ」
 その発言は3コーナーでの出来事を指していた。サトノノブレスに競りかけられて脚を使わされたことが、ゴール前でわずかにクビ差かわされるという結果となって表れたということを示唆しているのだ。孫氏の兵法でも「兵力が二倍なら、二分して挟み撃ちにせよ」と説いているが、知ってか知らずかフランス人騎手2人はその教えを体現して見せた 。
 このように勝負のポイント、勝敗の分かれ道を探して観ることができるものが好きだ。競馬に限らずスポーツ観戦全般も好きで、現地へもよく足を運ぶ。終わってからの「検討」や「感想戦」は、観る人によって指摘する箇所が違うからまた面白い。だが、いくら積み重ねても自分の勝負となると、客観的に判断することがなかなかに難しいから不思議だ。

いざ、実践!さわや書店の出店コンペ

 例えば、過去にこんなことがあった。
 盛岡市内のある場所にさわや書店が出店を打診された。その話を聴かされた僕は「今回出店しなければ、うちの会社は先々苦しくなるだろう」との勘が即座に働いた。その後、何社かの競合という情報が聞こえてきたから、天下分け目の決戦だと僕のなかでは捉えていた。
 競合他社には絶対に渡したくない絶好の立地であったから、そのためのプレゼン資料も気合を入れて用意したし、店のコンセプトも分かりやすく明確に伝えるように心がけ、先方に好感触を得たとの手ごたえを感じた。
 途中経過でも、売り上げ予測も含めすべてに関して他社を圧倒していると伝え聞いていたが、フタを開けてみるとプレゼンすらしなかった競合他社に出店を搔っ攫われてしまったのだった。結果を受けて絶望的な気持ちが広がった。一から敗因を分析しようと試みたのだが、何も落ち度は見つからない。先方に理由を求めると、なんとか重い口を開いてくれた。
 「現場はさわや書店にお願いしたいと申し出たが、わが社の上層部と出店が決まった会社のトップ会談で合意に至ったらしい」と。
 ようは政治力で負け、先方の会社が家賃交渉で優位に立つための当て馬にされたのだった。天下分け目の関ヶ原で負けたと意気消沈していた僕の予想は、しかし裏切られる。実際に競合他社が開店し、耳に入ってきた売り上げは予測をはるかに下回るものだった。普段、勝負のポイントを見極めて、鍛えている(つもりの)はずなのに分からないものだ。こういうのを岡目八目というのだろう。

2017年の出版業界大予想……

 このように、勝負勘が日々の仕事に活かされているのかどうかは非常に怪しい。ということで、誰にも求められてはいないとは思うが、最後に今年の出版業界を予想したい。
 全国の書店では、効率化から公立化の流れが加速するはずだ。本屋の店員はそれに伴って公務員、またはみなし公務員となり、各自治体の財政を圧迫。同時に図書館の存在意義が問われるだろうから、本の貸し出し有料化が実施される。結果、本は嗜好品となり装丁の芸術度があがる。春画がそうであるように海外のコレクターがマネーをジャパンへと……ここまでにしておこう。

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