冷やかな頭と熱した舌

第14回 
本屋の複合化

本屋との相性がすごぶるいいもの

 前回の年始一発目の原稿(第13回「本屋の勘」)では、今年の出版業界大予想をふざけておこなったが、今回はこれらの流れを踏まえつつ、近い将来に書店の売り場で流行する複合商材を予想してみる。色々考えてみたが、一番はズバリ「不動産」である。

 現存する商材との組み合わせを考えると、本屋と不動産屋はすこぶる相性がいいものではないだろうか。盛岡駅にあるさわや書店フェザン店に勤めていると、毎年2月下旬と3月中旬の「ある日」、異様な光景を目にする。早朝の盛岡駅前に散らばって「何か」を配る10人ほどの人間を見かけるのだ。突如わいてでたように見える彼らの正体とは、話の流れ的におわかりだろうが不動産屋(または雇われたアルバイト)である。「ある日」とは、年に一度の大学受験の日(前期と後期)である。試験に受かった場合に予想される物件探しの際に必要となる広告を、受験生もしくはその親へと手渡しているのだ。これから受験に臨もうとする学生に対して、受験当日の朝にする所業ではないと僕は思うのだが、潜在的な顧客に対するアプローチとしては正しい。
 そして、その日の昼過ぎからさわや書店フェザン店の店内は賑わいを見せる。遠方から来た学生とその親が、試験終了まで我慢していた欲望を解放してマンガを大量に買い込む。彼ら親子がほぼ必ず通る駅において、受験から解放されたタイミングで不動産の広告を渡されたとしたらどうだろう? 朝に渡された時は「邪魔なもの」と思うかもしれないが、適切なタイミングで渡されたそれは、とても効果的なのではないかと僕は考える。

 一角を不動産事務所、もしくは受付カウンターにしておいて、普段は不動産広告のチラシをお買い上げ客の袋へと忍ばせる。書店とは別会社にしておけば、不動産の契約成立時に手にする利益の中から「広告費」として書店へと利益を戻すことができる。つまり不動産屋の利益で、書店の経営をカバーするシステムである。もしくは「現状打破をしたい」と望む不動産屋を募って、店頭で広告の配布を請け負い、配布料を頂戴する。これはすでに取り組んでいる書店もあるのではないだろうか。一枚当たり5円ほどで請け負ったとして、一日あたりの買い上げ客数が「1000人」の店なら一日5000円一年間180万円の営業外収益は大きい。集客に自信があるが、オファーがないという店は検討して、可能性のあるところへ話を持っていくのも一つの手かもしれない。

〈さわや不動産〉の実現性

 2015年に増田寛也氏の『地方消滅』という本が新書大賞を受賞して話題をさらった。それ以来、人口減少予測に基づいた「地方消滅」の話題を耳にする機会が増えた。しかしその後、東京オリンピックの開催へ向けてカウントダウンが始まると、その問題はいったん棚上げとばかりに関心が急速にしぼんだ。首都圏では物件の需要が増しているが、地方まで波及することはないだろう。むしろ地方においては、物件の空き家率は深刻な問題となりつつある。2013年のデータでは全国の空き家率は13.5%だが、あるデータでは2033年頃には全国の空き家率は30%を超えるとの予測もある。

『地方消滅』増田寛也著 中公新書 2015年

 先日、顔見知りのお客さんと不動産の話になった。そのお客さんは証券会社を定年退職し、盛岡の近郊に住んでいるという話だったが、会話の流れのなかで手持ちの不動産を処分したいと言っていた。とくに水を向けたわけでもないのにこういった話になるのは、書店の間口の広さゆえだろう。
 思えば、書店の棚には「エンディングノート」や「終活」といったコーナーがある。人が死ぬときとは、すなわち資産を処分するとき。不動産事業をやっていれば、そういった相談にも乗ることが可能だろうし、弁護士や行政書士とパイプがあれば真摯に対応することもできる。紹介料をもらうというビジネスモデルも考えられる。書店の間口の広さ、敷居の低さは、より安心して住める地域を創出する一助として機能しないだろうかと思うのだ。
 書店の一角で不動産の仲介事業をし、町に貢献しながら商売を続ける。僕には組み合わせとして、とても魅力的に映るがどうだろう。

〈本屋〉と〈宅建士〉の二刀流

 じつは僕は、働きながら趣味で宅建士の免許を取得していて、このビジネスモデルを試したくてしょうがないのだ。宅建士の正式名称は「宅地建物取引士」といい、不動産の売買や賃貸借などの契約時に、「重要事項を説明する」「書類、契約書等への記名押印」といった有資格者でなければできない業務がある。これをふまえて、少し具体的に考えてみよう。人件費を考えると書店員との兼業が理想だ。物件の問い合わせや契約の時間だけ応対して、他の時間は普通に書店で働いていればよい。ただし、不動産の仲介業には宅建士の免許が必要(従業員5人に1人免許を有しなければならない)である。「宅地建物取引業協会」という業界団体への加入料に60万円かかり、会社設立費用に40万円ほどかかることを見込めば100万円ほどで不動産併設書店を開業できる。

 外商が強い書店であれば、賃貸契約が成立した顧客に対して配達をサービスする特典をもって営業をかけることができるだろうし、店舗や事務所の賃貸契約においても同様に定期購読獲得のチャンスとなるだろう。お子さんが生まれて住宅の購入を考えている顧客には、「お子様が成人するまで年額5万円累計100万円)の書籍購入費をプレゼント」という企画なんかも提案できるし、中古物件をリフォームして本棚をたくさん備えつけ販売するのもいいし、「第二の人生のスタートは書斎のある家」というコンセプトでリフォーム案を提案してもよい。または、枻出版社さんにプロデュースを依頼して遊び心満載の住宅など、ライフスタイルに合わせた提案をする。そうやって生活に密着し、本を併せた提案をし続けることができれば、リアル店舗の強みを活かしてネット書店に取って代われるかもしれない。
 ということで、無い知恵を絞って考えてみました。僕が考えた次に来る複合商材は「不動産」です。興味のある版元さん、取次さん、書店の皆さん、お問い合わせをお待ちしております(笑)。

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