多摩川飲み下り刊行記念

川を下って世界の酒でべろんべろん
『多摩川飲み下り』(大竹聡著 ちくま文庫)刊行記念対談

『多摩川飲み下り』(大竹聡著)刊行を記念して、下北沢の書店B&Bで大竹聡氏と高野秀行氏の対談が行なわれた(2016年12月26日)。 この本は、多摩川の川沿いに歩いては居酒屋や河原で酒を飲むエッセイだが、大竹氏は、この本に書かれなかった、とんでもエピソードを、そして高野氏は、アジアやアフリカの地で出会ったユニークな酒の話を、それぞれたくさんの写真を見せながら語った。 一杯やりながら、未知の酒の味を想像してご堪能ください。

●田園調布の釣り親子

大竹 このへんはだいぶ中流・下流ですけど、これは田園調布になるのかな。

 

 下流のほうに来たらお父さんがそばにいて、子どもに玉ウキで釣りを教えてた。赤いウキが見えますけど、あの先にミミズを付けてるのかな。お父さんが「頑張れ」って言ってて、僕はしばらく後ろで見てたんですけどなかなか根気のある子で、「こういう子どもが欲しかったな」と思った次第です(笑)。

高野 言わなきゃ田園調布とは思えないですね。

大竹 そうですよね。日野とか、そんな感じですよね。

高野 ミャンマーって言っても通じそうですね(笑)。

●平日は競輪、休日は競馬

大竹 これは最下流のほうで、羽田の近くです。

 

【六郷橋より下流】

 河口まで歩き終えたら、川崎競馬場で遊んで帰ってくる。

 

【川崎競馬場】

 

高野 大竹さんって前からギャンブルと言うか、競馬・競輪がお好きだったんですか?

大竹 競馬は割と昔から好きでしたけど、途中ごっそり10年間ぐらいご無沙汰してた時期があって。この10年ぐらいの間にまた復活しました。多摩市に住むようになってから、多摩川競艇と京王閣競輪と立川競輪が近くなって。ああいう公営ギャンブルって、平日開催なんですね。何の理由になってるのかわかりませんけど、とにかくそれで行けるようになったんです(笑)。

高野 休日だと行かないんですか?

大竹 休日は競馬があるんで。

高野 じゃあ、競馬とずらしてるわけですね。

大竹 ええ。だからカジノなんかつくる必要はまったくない(笑)。僕に限っては、もう遊ぶ金はないですからね。でも競馬は面白いですよ。近くに府中競馬場がありますし、多摩川の下流には川崎競馬場がある。これは、南関東公営競馬ではけっこう立派な競馬場です。公営競馬は大みそかまでやってて元旦は川崎開催なので、川崎大師にお参りに行った人はだいたい競馬場へ行くんですよ(笑)。

高野 「行くんですよ」って(笑)。勝っても負けても、飲んで帰るわけですよね。

大竹 そうですね。でも、水も飲めないぐらい負けちゃうこともあるんですよ(笑)。

高野 本当に有り金全部注ぎ込んじゃうってこと?

大竹 最近、オートチャージのパスモっていうのを持ってるんだけど、あれで立ち食いそばとかC&Cのカレーを食べられるし、ブックオフで本も買えるし。金なんか要らねぇや、みたいな(笑)。

高野 でもパスモでは、馬券は買えないわけですよね。

大竹 馬券は買えないね。でも馬券をネットで買う場合、クレジットカードが使える。これはいけないですね。

高野 それは恐ろしい話ですね。

大竹 ああいうことをよくやりますよね。

高野 根こそぎ取ってやろうっていう考えじゃないですか(笑)。

大竹 このへんは本に載せた写真なんですけど。この写真も府中ですね。

 

【郷土の森付近】

高野 これ、現代っていう感じがあまりしないですね。

大竹 みんなでけっこうどんちゃん騒いでるんですよ。府中郷土の森っていうのが目の前にあります。向こうが稲城市なんですけど、あそこには米軍の施設がまだ残ってる。土地がちょっと高くなってるんで、これより西側の聖蹟桜ヶ丘のほうでみぞれでも、ここを越えてくると雨になる。そういうことが起こり得るところです。これは河口ですね。

 

 サントリーウイスキーがボヤボヤになってしまいましたけど、美味しかったです(笑)。

●今は四万十川よりきれいな多摩川

高野 ちなみに大竹さんは「多摩川飲み下り」で、個人的にはどのへんが面白かったですか?

大竹 けっこう全域面白かったんですけど、上のほうだと青梅界隈の古い家が残っている坂道ですかね。青梅線沿線から多摩川のほうへ下っていくところに古い家が残っていて。

高野 青梅では本当に梅をつくってるんですか?

大竹 自家栽培だと思うんだけど、その梅で美味しそうな梅干をつくってる風景がまだまだ残っていて。あと、街道沿いには小さい寺が点在してまして。最近、あのあたりに遊びに行く人はあまりいないみたいなんだけど、歩くと全然飽きないですね。いくらでも見るところがあるような気がしました。

高野 青梅なんて有名な見どころがないから、わざわざ行かないですよね。

大竹 青梅線で立川まで行って、そこから南武線に乗り換えるつもりだったのですが、それを途中でやめにして、昭島のほうから歩いて東中神っていうところで飲んで、その後はモノレールを使って高幡不動へ行きました。それで高幡不動のほうから行ってみたんですけど、橋があるたびに渡って、多摩川の右側・左側を行ったり来たりしたのが面白かったです。

 やっぱり僕は、東京側のほうしか知らないんですよ。僕らが育った頃の多摩川は汚染されていて、「死の川」みたいだった。今の多摩川大橋のへんに魚釣りに行くと、あぶくが出ていた。イカの塩辛を針に引っかけてドボンと入れておくと、背骨が曲がった鯉が釣れるとか言われて(笑)。

高野 70年代の一番やばい時代ですね。

大竹 完全に公害で汚染されていて、魚は何で生きているのかなという状態で。今はだいぶきれいになりましたよね。

高野 今の多摩川は本当にきれいで、部分的には四万十川を上回っているらしいですね。僕も去年、四万十を川下りしたんですけど、下流域はもう臭くて汚いんですよ。清流四万十というブランドイメージで酒とか鮎とか売ってるんですけど、実際には全然きれいじゃなくて。

大竹 四万十川って、ゆるやかに流れている部分はけっこう長いんですか?

高野 そうですね、だいたいゆるやかです。

大竹 じゃあ同じ四国を流れている川でも、仁淀川のほうがきれいなんですか?

高野 仁淀川はきれいみたいですね。今、四万十できれいなのは本流じゃなくて支流です。川エビ(手長エビ)は本流にはもう全然いなくて、支流に行かないととれない。あれは茹でて食べると美味いんですよね。河原で茹でて、ビールを飲みながら食べると最高です。やってることは子どもと同じなのに、ビールが飲めるっていうのがすごく嬉しくて。これ、ものすごくお得感がありますよね(笑)。

大竹 天国ですね。やってることは子どもと同じ(笑)。いいなぁ、遊んでますね。

高野 それも書いてないですね。最近僕、全然書かないですもんね。

大竹 編集者の皆さん、高野さんは書かないでたくさん遊んでるらしいですよ(笑)。

2017年2月20日更新

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大竹 聡(おおたけ さとし)

大竹 聡

1963年東京生まれ。早稲田大学第二文学部卒業後、出版社、広告会社、編集プロダクション勤務を経てフリーに。2002年10月、雑誌『酒とつまみ』創刊。著書に、『中央線で行く東京横断ホッピーマラソン』『酒呑まれ』『多摩川飲み下り』(ちくま文庫)、『愛と追憶のレモンサワー』(扶桑社)、『ぜんぜん酔ってません』『まだまだ酔ってません』『それでも酔ってません』(双葉文庫)、『ぶらり昼酒・散歩酒』(光文社文庫)、『五〇年酒場へ行こう』(新潮社)などがある。

高野 秀行(たかの ひでゆき)

高野 秀行

1966年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。同大探検部在籍時に執筆した『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)でデビュー。『ワセダ三畳青春記』(集英社文庫)で酒飲み書店員大賞受賞、『謎の独立国家ソマリランド』(本の雑誌社)で講談社ノンフィクション賞、梅棹忠夫・山と探検文学賞受賞。近著に『地図のない場所で眠りたい』(角幡唯介との共著、講談社文庫)がある。

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聡, 大竹

多摩川飲み下り (ちくま文庫)

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